2016-04-24 13:04         

アイスレジェンド2016の一部をなす創作作品「愛」は、昨年12月からプロフィギュアスケーターのステファン・ランビエールとカロリーナ・コストナー、ピアニストのカティア・ブニアティシヴィリが一緒に曲を選び、ストーリーを練っていった「3部からなる、氷上のバレエ作品」だ。このビデオは、本番30時間前に行われたリハーサルの中から、ランビエールとコストナーだけに焦点を当て制作された。(文・里信邦子 撮影・Vania Aillon 編集・Vania Aillon & 里信邦子 制作・スイスインフォ)

 創作作品「愛」のあらすじは、コストナーの演じる女性がランビエールの演じる男性に恋い焦がれるが、男性は「愛の狩人」のようにさまざまな人に言い寄り、「コストナー」を苦しめる。だが「ランビエール」も、そうした自分の愛のあり方に苦しみ、悩み、やがて自己破壊の方向に向かっていくといったものだ。

 1部はショパンの「バラード」の曲で、浅田真央が村に住む人々を紹介。2部はドビュッシーの「月光」を使い、コストナーが恋人の「理想像」を夢想し、その夢想の中に没頭する姿を演じる。このビデオでは、コストナーの演じる可憐な女性が夢想の中で遊ぶときのその心のひだが、細やかに豊かに表現されている。
 3部は、「ランビエール」が「コストナー」との愛を確かめるが、その後、この愛に疑いを持ち、苦しみ、さらには自分自身に対しても攻撃的になり、自己破壊へと向かう過程だ。それを、ブニアティシヴィリは情熱的にラヴェルの「ワルツ」を弾き表現する。

 2部も素晴らしいが、この3部のラヴェルは圧巻だ。ここでランビエールは、男性の苦悩を、高くジャンプし、身体をうねらせて滑り、頭を振り、得意のスピンで回転しながら表現する。その苦しみのエネルギーをさらに高めるように、または呼応して自分も高揚するかのように、ブニアティシヴィリはピアノのキーを打楽器のようにたたき、椅子から落ちんばかりに右腕を大きく振り上げ、聞いたこともないような「ワルツ」をとどろかせる。

 このスケートの動きと音の「幸いな出会い」、または「相乗効果」をブニアティシヴィリはこう表現している。「ステファンやカロリーナのエネルギーと組むとき、共通のエネルギーを見つけなくてはならない。ときには相手が表に出るように私は陰に隠れ、ときには私が表に出るといった工夫がいる。つまり、私自身の流れに没頭しながら、同時に相手の流れに配慮するとき、まるでそれまで知らなかった2人が舞台の上で突然恋に落ちるように、新しい感情やハーモニーが生み出され、自由になる」。

ランビエールが爆発するラヴェルの「ワルツ」

 第3部の前半は、ランビエールとコストナーが2人の愛を語る場面だ。2人は手をつないで一緒に踊り滑る。ソロのスケーターである2人にとって、この場面はかなりの挑戦だったとランビエールは振り返っている。「3月に2週間集中して練習した。1日目が終わったとき、2人の間に沈黙が続いた。ぜんぜんうまくいかなかったからだ。相手の動きとリズムに合わせるのは本当に難しいことだった。例えばカロリーナはすごいスピードの持ち主で、あっという間に1人でリンクの反対側に行っている。でも2日目からはうまくいくようになった」
 ここでも2人は、どこかで演劇やバレエの指導を受けたにちがいないと思わせるほどに、スケートのいわゆる技術以外に、胴体のひねりやちょっとしたステップや指の「表情」などを使い、深い愛や愛への疑い、苦しみなどを表現している。
 そして、なんと言っても今回の「山場」は、ランビエールがソロで舞う第3部の後半だ。自分の愛のあり方に苦しみ、悩み、最後は自己破壊へと向かう男性の内面を、高くジャンプし、身体をうねらせながら滑り、頭を振り、得意のスピンで回転しながら表現する。
 こうした動きで爆発するエネルギーを、ブニアティシヴィリはさらに高めるかのように、ピアノのキーを打楽器のようにたたき、右から左へとさっと一気にキーに触れ、椅子から落ちんばかりに右腕を大きく振り上げ、聞いたこともないような「ラヴェル」をとどろかせる。12月から共同で構想を練ってきたこのピアニストとの「コラボ」は、ここで燃焼し尽くしたように思える。

大ちゃんファンの中で

 こうした愛の物語の中で高橋大輔は、ランビエールの仲良しの男友達を演じて、コストナーの嫉妬をあおる役だった。ここでも素晴らしい動きで観客を沸かせるのだが、今回の高橋は、むしろ日本から持ってきたソロの、宗教的・精神的な「ラクリモーサ」と、これとは対照的な楽しいナンバー「マンボ」で、観客を酔わせた。
 日本からはるばる駆けつけたおよそ100人もの「大ちゃんファン」が、横断幕をかかげ、大いに湧いたことはいうまでもない。

次のアイスレジェンドは2027年?

 ショーの終了直後に、ランビエールの長年のコーチだったピーター・グルッターに会った。「次のアイスレジェンドは2027年だとステファンが言った」という。
 10年後というのはちょっと大げさでは?とたずねると、「確かに彼にはちょっと大げさなところがある…。でも全てのエネルギーを使い果たしたのだと思う。いつもそうだった。選手のころから試合直前まで一日何十回も滑って、試合前は休めというのにいうことを聞かなかった」
 ランビエールの表現力については、「小さいときから他のスケーターとは違っていた。耳がよく、音楽に内面から反応した。またステップ一つでも、他のスケーターは教えた通りにするのに、彼は自分で試行錯誤した末に独自のステップを編み出していた」
 だから、ランビエールが表現性の高い、「夢の中に誘い込むようなバレエ作品」をいつか作ってくれるのではないかと思っていたという。
 今後も、この夢の中に誘い込むようなアイスレジェンドをランビエールが開催してくれることはまちがいないだろう。ただし3回目は、グルッターさんも言うように、スイスで1回限りではなく、他の国でも行い、しかも10年後ではないことを期待したい。
SWI swissinfo.ch

    


高橋大輔、スイスのアイスレジェンドでランビエールと共演

2016-04-22 16:58

プロフィギュアスケーターのステファン・ランビエールが演出する「アイスレジェンド2016」に出演するため20日夜、ジュネーブ入りした高橋大輔さん。「ステファンとは競技を一緒に戦ってきた戦友。プロとして彼が作るストーリー性の高いショーに出演できてうれしい」と語る。本番30時間前、出演者のアドレナリンがあふれるリハーサルのあいまに、インタビューした。(インタビュー・里信邦子 撮影・Vania Aillon 編集・Vania Aillon&里信邦子 制作・スイスインフォ)

 記者会見が行われた21日、さわやかな笑顔でリンクに現れた大輔さんは、すぐにイタリア人の記者につかまり矢継ぎ早の質問を受けた。イタリアに「大輔ファン」がたくさんいるからだという。
 その後すぐに、振付家サロメ・ブルナーが「ここはこうターンして」と言いながら一緒に滑り5分ほどの指導をすると、それでもう全てを飲み込んだのか、ランビエールがさっと氷上に現れたと思うと、2人でもう滑っている。ラヴェルの曲に乗って、一緒に高く舞い上がったジャンプは圧巻。
 この2人が踊るシーンは、第1幕の「愛」をテーマにした3部作の3番目。イタリアのスケーター、カロリーナ・コストナー演じる女性がランビエールの演じる男性に恋焦がれるが、男性は「愛の狩人」のようにさまざまな男女に言い寄っていき、カロリーナを苦しめる。その「軽い浮気の相手」が大輔さんの役だ。
 こうしたストーリー性の高いショーについて、「遠い将来、自分でもやってみたい」と言う大輔さん。しばらくは、ダンスなど色々なことにチャレンジしながら、それらをスケートに生かし、「スケートを一生の仕事にする」と、きっぱりと言い切った。
 第2幕では、「スケーターたちの人生を変えたショートプログラム」をそれぞれが披露する。大輔さんは、マンボをフィナーレの前に踊り、その流れのまま、参加者全員が氷上に現れ大輔さんのステップを踊って盛り上げていく。「ハイレベルのプロのスケーターたちが、僕のステップで踊ってくれるのは、とてもうれしいこと」と満面の笑顔を見せた。



浅田真央、スイスのアイスレジェンドで舞う

2016-04-22 19:28

「ヨーロッパで滑るのは初めて。招待されてうれしいです」と、浅田真央さん。プロフィギュアスケーターのステファン・ランビエールが演出する「アイスレジェンド2016」に出演するため20日夜、ジュネーブに着いた。21日の、ぎっしり詰まったリハーサルの間に、インタビューに応じてくれた。(インタビュー・里信邦子 撮影・Vania Aillon 編集・Vania Aillon&里信邦子 制作・スイスインフォ)

 浅田真央さんがアイスレジェンドで演じるのは、第1幕の「愛」をテーマにした3部作の1番目。イタリアのスケーター、カロリーナ・コストナー演じる女性がランビエールの演じる男性に恋焦がれるが、男性は「愛の狩人」のようにさまざまな男女に言い寄っていき、カロリーナを苦しめる。
 そうした話の始まりで、真央さんは優雅に美しくショパンの曲に乗って、小さな村に住む人々(今回参加するスケーターたち)を紹介していく。
 アイスショー本番のわずか3日前にジュネーブ入りした真央さん。2日間で振りができるのだろうか?と心配になるが、マネージャーさんによると、「最初にソロで踊るショパンの『バラード』の一部は、ショートプログラムでいつも踊ってきたもの。村の人々を紹介する部分は、まだ披露せずに持っていたこの『バラード』の残りの振りを使うので、まったく問題ない」という。 
 そんな得意のショパンを、今回は情熱あふれるピアニスト、カティア・ブニアティシヴィリの演奏で踊る。「日本では、ショーで生演奏というのはなかなかないので、踊るのがとても楽しみです。いつか自分のショーにも取り入れられたらいいなと思います」と語る。
 「スケーターたちの人生を変えたショートプログラム」をそれぞれが披露する第2幕で、真央さんは得意の「蝶々夫人」を演じる。「日本人の芯の強さをヨーロッパの人に感じてもらえたらうれしい」と答えた後に、「蝶々夫人は日本人の物語なので、日本人が演じることで思いがもっと伝わるのではないか」と、付け加えた。