<市の造成地>台風で浸水…住民が2000万円賠償近く提訴


 京都府福知山市が造成した住宅地が2013年9月の台風18号で床上浸水した被害を巡り、住民3人が市を相手取り、過去に浸水した事実があるのを知りながら伝えずに販売したのは違法として、計約2000万円の損害賠償を求める訴訟を週内にも京都地裁に起こすことを決めた。弁護団によると、自治体が開発した土地の浸水リスクについて、行政の説明責任を問う全国初の訴訟となる。

【写真特集】台風18号、初の特別警報(2013年9月掲載)

 訴えるのは、JR山陰線石原駅西側に市が造成した石原(いさ)地区の市有地を10年に購入した会社員、山岡哲志さん(39)ら3人。台風18号で近くの由良川や支流があふれ、築1年7カ月~3年2カ月の自宅がそれぞれ床上70~130センチの浸水被害を受けた。

 弁護団などによると、石原地区は由良川があふれた時に遊水地となる田畑だった地域で、1953年の洪水や04年の台風23号でも一帯が冠水した。06年に市が作製したハザードマップでは3メートル以上の浸水地帯とされたが、市は購入希望者にマップを渡さず、不安視する質問には「(由良川に)堤防ができるから大丈夫」などと答えて過去の水害に触れなかったとしている。

 国が整備中の堤防は現在も未完成で、弁護団は「市は浸水の危険性を認識しながら盛り土などの対策を取らず、リスクを告げずに売却し、住民を被災させた」と主張。建物の修繕費や慰謝料などを求める方針。

 法令では、土地の不動産取引での浸水リスクの説明義務は明文化されていない。そのため、市危機管理室は「手続きに不備はない」としている。

 市によると、造成地は09年までに75億円をかけて完成し、約800世帯が居住。13年の水害では約70世帯に床上浸水の被害が出た。市は住宅再建を支援する制度を設け、同地区を含む市内全体で計約4億円を支給している。【安部拓輝】

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 京都府福知山市が造成した土地に建てた新居で浸水被害を受けた住民たちが、市の責任を司法の場で問うことを決めた。「安全だと信じていたのに」。無念の思いを伝えても説明会すら開かれない。住民らは、建築費と修繕費の二重ローンを抱えながら、今も大雨のたびに浸水の恐怖にさらされている。

 原告に加わる会社員の山岡哲志さん(39)は2006年に大阪市から妻と同市に移住し、一戸建ての用地探しを始めた。住宅会社に紹介されたのが市の造成地。10年に売買契約を交わした際、会社の同僚に「あそこは水がつくぞ」と言われ、市の担当職員に聞くと「由良川に堤防ができています」という答えだった。「行政の人が言うこと。それを聞いて安心しました」

 13年9月16日の未明だった。大雨特別警報が発令され、避難勧告のメールが来た。1階の窓ガラスを破って濁流が流れ込み、床上70センチまで浸水した。三男はまだ1歳。避難できずに2階に上がり、消防団のボートが来るのを待つしかなかった。

 3日後、近くの集会所に集まった被災者から「ハザードマップ」という言葉を初めて聞いた。手に入れると、自宅は浸水想定区域にあり、04年にも周囲で浸水被害が出ていたことも分かった。「買う前になぜ教えてくれない。隠して売ったのか」。市役所で訴えると、応対した職員は「大変申し訳ない」と頭を下げるだけだった。

 新築から1年7カ月だった。建築費の返済を始めたばかりの家計に修繕費数百万円のローンがのしかかり、子どもの教育資金は積み立てられなくなった。周りには移住して被災した同世代も多い。「泣き寝入りはしたくない」と提訴を決めた。「市は同じ苦しみを負わせないよう、現実と向き合ってほしい」。山岡さんの願いだ。

【安部拓輝】

毎日新聞 10月28日(水)9時30分配信