朝日新聞2015年5月10日

〈とことんインタビュー〉
同性パートナーと暮らす 小浜耕治さん

「多様な性」当事者たち連携

 ゲイ、レズビアン、心と体の性が一致しないトランスジェンダーといった性的少数者(セクシュアルマイノリティー)の人たちは、偏見や差別の中、日々生きづらさを感じている。震災のときも、なかなか声をあげられなかった。同性パートナーと仙台市で暮らす小浜耕治さん(52)に聞いた。

 ――東日本大震災で、性的少数者はどんな状況に置かれましたか。

 「大半は地域社会や身内にもカミングアウトせず、生きてきた人たちです。ふだんひた隠しにして、出会いの場はネット。たまに仙台のゲイバーで発散する。そんな『パートタイムの性的少数者』でさほど不都合はないと、みな思っていたかもしれない。でも震災で不自由さを感じた人は少なくなかった」
 「地震で家がめちゃくちゃになり、あわててゲイ雑誌を処分した人。パートナーの安否に気をもんだ人もいる。法的な家族ではないため、万一の時に誰も知らせてくれないからです。トランスジェンダーの人や同性カップルは、プライバシーのない避難所に行きにくかった。お風呂やトイレの配慮もありませんでした」

 ――震災直後の死ぬか生きるかの時、「性」のことなんか言っていられないのではないですか。

 「それどころじゃない、我慢しなきゃ、という空気はありました。私は次第にそれでいいの?と思い始めた。災害のときほど男は力仕事、女は炊き出しといった二元論の価値観が支配する。性的少数者は平時以上に見えない存在になってしまう。切迫した状況だからこそ、多様な性の当事者、あらゆる人のニーズが尊重されるべきなんです」
 「日本ではセクシュアリティーは個人のことととらえられ、社会の問題になってない。性的少数者が日々の暮らしの中で必要な範囲でカミングアウトし、自分らしい生活を実現する。そんな社会に変えなければ」

 ――東京都渋谷区は「同性パートナー証明書」を出す条例をつくりました。海外には、法的に同性婚を認める国もあります。

 「私も先日、仙台市長に提案の手紙を出しました。同居の同性カップルは住民票の続き柄の欄に『縁故者』と表記してほしい。同性婚を認める国の外国人カップルが日本で住民票をつくったとき、そう記した先例があります。私たちは現在は単なる同居人の扱い。行政が事実上の親族とみなすことで、災害時の安否確認や病院での家族面会が可能になる。災害公営住宅にも一緒に入居できます」

 ――仙台市長の回答は?

 「住民票は戸籍上の関係に基づくので『縁故者』表記はできない、国の動向を注視するとの返事でした」

 ――震災後、当事者たちに変化はありますか。

 「孤立はだめ、つながらなきゃと、東北で性的少数者のグループがいくつも生まれた。私も、各地が連携するネットワーク『レインボー・アドボケイツ東北』を発足させました。多様な性の当事者がおかれた状況を発信し、自治体に政策提言をする団体です」

(聞き手・石橋英昭)

 こはま・こうじ 大阪出身。東北大に進んで、そのまま仙台に。29歳で自身のセクシュアリティーを受け入れ、ゲイサークルに参加。HIV感染者の支援活動を続け、「東北HIVコミュニケーションズ」代表。年来、男性パートナーと同居し、家族や職場、近所の理解も得られている。
    ◇
 震災を機に国の補助で始まった「よりそいホットライン」(0120・279・226)は、性別や同性愛に関する相談の専門回線も設けている。