水俣条約:外交会議 首相ビデオメッセージ 「水銀による被害とその克服を経た我々」 「苦しみ知らぬ」患者反発

毎日新聞 2013年10月10日 東京朝刊
 
 安倍晋三首相は9日、「水俣条約」外交会議の開会式に寄せたビデオメッセージで「水銀による被害とその克服を経た我々」と述べた。水俣病の救済を巡る訴訟もあり、水俣病患者や患者団体からは「今でも大勢の人が苦しんでいることを知らないのか」「『克服』という言葉は被害者に許されない」など批判の声が相次いで上がった。
 
 安倍首相はメッセージで、国内の水銀使用量がピーク時の1960年代から0・4%に減るなど、水俣病の発生を機に官民挙げた「脱水銀」に取り組んだ成果を強調。そのうえで「水銀による被害と、その克服を経た我々だからこそ、世界からの水銀の被害をなくすため、先頭に立って力を尽くす責任が、日本にはある」と続けた。
 式に出席した水俣病被害者互助会の佐藤英樹会長は厳しい口調で「訴訟を続けている人もいる中で、水俣病問題は全く克服されていない。安倍首相は被害者に会ったことがあるのか。聞いていて怒りが込み上げてきた」。
 
 最大の未認定患者団体「水俣病不知火患者会」の大石利生会長も「実態を知らない人の言葉。福島第1原発について『コントロールされている』と言ったのと同じで、格好をつけているだけ。国は『水俣病問題は終わった』としたいのだろう。許せない」と憤った。
 
 石原伸晃環境相もあいさつの中で、被害者救済に関しては一言も触れなかった。【笠井光俊、阿部周一】