社会権規約委員会:日本に対する第3回総括所見 ②/2
          ①/2: http://blogs.yahoo.co.jp/jrfs20040729/24984312.html
 
 経済的、社会的および文化的権利に関する委員会
第50会期(2013年4月29日~5月17日)に採択された、日本の第3回定期報告書に関する総括所見
 
 
18.委員会は、締約国全域の最低賃金の平均水準が、最低生活水準、生活保護給付額および上昇する生活費に満たないことを懸念する。(第7条、第9条、第11条)
 
 委員会は、労働者およびその家族が人間にふさわしい生活を送れることを確保する目的で、最低賃金水準を決定する際に考慮される要素を見直すよう、締約国に対して促す。委員会はまた、締約国が、最低賃金以下の報酬しか支払われていない労働者の割合に関する情報を次回の定期報告書で提供するよう要請する。
 
19.委員会は、進展があったにも関わらず、締約国において、とくに男女間の賃金格差が依然として相当に大きいことに、懸念をもって留意する。(第7条)
 
 委員会は、同一価値労働について男女で異なる評価額を適用することの違法性およびこの点に関する使用者の義務についての意識啓発を進め、かつ、報酬差別が行なわれた場合にアクセスしやすくかつ効果的な救済措置を提供するよう、締約国に対して求める。締約国はまた、締約国が、同一価値労働同一報酬の原則の適用について労働基準監督官に対する研修を行なうとともに、適用される法律の効果的執行を確保するためのその他の措置をとるよう勧告する。
 
202006年の男女雇用機会均等法改正以降、職場におけるセクシュアルハラスメントに関する意識が高まっていることには留意しながらも、委員会は、法律上、セクシュアルハラスメントが禁じられていないことに、懸念をもって留意する。(第7条)
 
 委員会は、締約国に対し、とくに職場におけるセクシュアルハラスメントに関して、犯罪の重大性に相応する制裁をともなったセクシュアルハラスメント罪を法律に導入するよう促す。委員会はまた、締約国が、被害者が報復を恐れることなく苦情を申し立てられることを確保するよう勧告する。委員会は、締約国が、セクシュアルハラスメントに反対する公衆の意識を引き続き高めるよう勧告する。
 
21.委員会は、移住労働者も国民と同じ労働法によって保護されているにも関わらず、移住労働者(非正規な移民資格しか有していない者、庇護希望者および難民を含む)の不公正な待遇が報告されていることを懸念する。(第7条)
 
 委員会は、締約国が、移住労働者(非正規な移民資格しか有していない者、庇護希望者および難民を含む)の不平等な待遇を解消するために法令を強化するよう勧告する。委員会はまた、移民資格に関わらずすべての労働者に対して労働法が適用されることに関する意識啓発を進めるよう、締約国に対して求める。
 
22.委員会は、締約国の高齢者、とくに無年金高齢者および低年金者の間で貧困が生じていることを懸念する。委員会は、貧困が、年金拠出期間が受給資格基準に達していない高齢女性に主として影響を与えていること、および、スティグマのために高齢者が生活保護の申請を抑制されていることをとりわけ懸念する。委員会はさらに、「国民年金及び企業年金等による高齢期における所得の確保を支援するための国民年金法等の一部を改正する法律」で導入された改正により、多くの高齢者が無年金のままとなることを懸念する。(第9条)
 
 委員会は、国民年金制度に最低年金保障を導入するよう締約国に対して求めた前回の勧告をあらためて繰り返す。委員会はまた、生活保護の申請手続を簡素化し、かつ申請者が尊厳をもって扱われることを確保するための措置をとるよう、締約国に対して求める。委員会はまた、生活保護につきまとうスティグマを解消する目的で、締約国が住民の教育を行なうよう勧告する。委員会は、締約国が、性別、収入源および所得水準によって細分化された高齢者(被爆者を含む)の状況に関する情報を、次回の定期報告書で提供するよう要請する。委員会は、高齢者の経済的、社会的および文化的権利に関する一般的意見6号(1995年)および社会保障についての権利に関する一般的意見19号(2008年)を参照するよう、締約国に対して求める。
 
23.委員会は、暴力をふるう配偶者に対する保護命令の違反が改正配偶者間暴力防止・被害者保護法で処罰対象とされている一方、配偶者間暴力および夫婦間強姦が明示的に犯罪化されていないことに、懸念をもって留意する。(第10条)
 
 委員会は、締約国に対し、夫婦間強姦を含む配偶者間暴力を犯罪化するよう促す。委員会は、配偶者暴力相談支援センターの設置状況および自治体による基本計画の実施状況ならびにそれが配偶者間暴力の減少に及ぼした効果についての最新情報を、次回の定期報告書で委員会に対して提供するよう、締約国に対して要請する。
 
24.東日本大震災および福島原発事故の結果に対する救援対応の複雑さに留意しつつ、委員会は、避難の際にならびに再建および復興の取り組みにおいて、不利な立場および脆弱な立場に置かれた集団(高齢者、障害のある人、女性および子ども等)の特有のニーズが十分に満たされていないことを懸念する。(第11条、第2条第2項)
 
 東日本大震災および福島原発事故の結果から得られた教訓により、救援および復興のための今後の取り組みにおける被災コミュニティ(脆弱な立場に置かれた集団を含む)のニーズへの対応を改善するための新たな体制が整備されたことに留意しつつ、委員会は、締約国が、災害対応、リスク軽減および復興のための取り組みに対して人権を基盤とするアプローチをとるよう勧告する。とりわけ、委員会は、締約国が、防災計画において経済的、社会的および文化的権利の享受に関する差別が行なわれ、またはそのような差別がもたらされないことを確保するよう勧告する。
 委員会は、東日本大震災および福島原発事故の結果への対応に関する、ならびに、避難の際にならびに再建および復興のための活動において被害者がどのように経済的、社会的および文化的権利を享受したかに関する包括的な情報(性別および脆弱な立場に置かれた集団別に細分化された統計データを含む)を次回の定期報告書で提供するよう、締約国に対して要請する。委員会はまた、締約国に対し、裁判を受ける被害者の権利がどのように保障されてきたかについての情報を記載するよう要請する。
 
25.委員会は、原子力発電所の安全性に関して透明性が欠けておりかつ必要な情報が開示されていないこと、ならびに、原子力事故の防止および処理に関する地域的備えが全国的に不十分であることに関する懸念をあらためて表明する。このような状況が、福島原発事故に際し、被害者の経済的、社会的および文化的権利の享受に悪影響を及ぼすことにつながった。(11条、第12条)
 
 委員会は、締約国が、原子力発電所の安全性に関する諸問題についての透明性を高め、かつ原発事故に対する備えをいっそう強化するよう、再度勧告する。とくに、委員会は、潜在的危険、防止措置および対応計画に関する包括的な、信頼できる、かつ正確な情報を住民に対して提供するとともに、事故が発生した場合にはあらゆる情報が速やかに開示されることを確保するよう、締約国に対して促す。
 委員会は、到達可能な最高水準の身体的および精神的健康の享受に対するすべての者の権利に関する特別報告者が締約国を最近訪問した際に行なった勧告を実施するよう、締約国に対して奨励する。
 
26.委員会は、「慰安婦」が受けてきた搾取により、彼女たちによる経済的、社会的および文化的権利の享受ならびに彼女たちの賠償請求権に対する悪影響が永続していることを懸念する。(第11条第3項)
 
 委員会は、締約国が搾取の永続的影響に対応し、かつ「慰安婦」による経済的、社会的および文化的権利の享受を保障するため、あらゆる必要な措置をとるよう勧告する。委員会はまた、「慰安婦」にスティグマを付与するヘイトスピーチその他の示威行動を防止するため、締約国が「慰安婦」の搾取について公衆を教育するよう勧告する。
 
27.委員会は、締約国の高校教育授業料無償化プログラムから朝鮮学校が除外されていることを懸念する。これは差別である。(第13条、第14条)
 
 差別の禁止は、教育のあらゆる側面に全面的かつ即時的に適用され、また国際的に定められたすべての差別禁止事由を包含していることを想起しつつ、委員会は、高校教育授業料無償化プログラムが朝鮮学校に通う子どもたちにも適用されることを確保するよう、締約国に対して求める。
 
28.委員会は、多数の外国人児童が学校に通っていないことに、懸念をもって留意する。(第13条、第14条)
 
 委員会は、締約国に対し、義務教育の状況の監視を、法律上の地位に関わらず締約国の領域内にいるすべての子ども(国民ではない子どもを含む)に対して適用するよう促す。
 
29.委員会は、規約第13(b)にしたがって完全無償の中等教育を漸進的に提供するため、締約国が、可能なかぎり早期に、入学料および教科書費を授業料無償化プログラムの対象に含めるよう勧告する。
 
30.委員会は、アイヌ民族が先住民族として認められ、かつその他の進展が達成されたにも関わらず、経済的、社会的および文化的権利の享受に関してアイヌ民族が不利な立場に置かれたままであることを依然として懸念する。委員会は、アイヌ語が消滅の危機にあることをとりわけ懸念する。(第15条、第2条第2項)
 
 委員会は、締約国が、アイヌ民族の生活水準を向上させるための努力を強化し、かつ、とくに雇用および教育の分野において追加的な特別措置を実施するよう勧告する。委員会は、これらの措置を、北海道外在住のアイヌ民族に対しても適用するよう勧告する。委員会は、締約国に対し、アイヌ語を保全しかつ振興するためにとられた措置の成果に関する情報を次回の定期報告書に記載するよう要請する。
 
31.委員会は、科学の進歩およびその利用による利益を享受する権利に関して対話の際に提供された情報について、締約国に感謝する。この点について、委員会は、締約国に対し、この権利が実際にどのように実施されているかに関するいっそう詳細な情報および具体例を次回の定期報告書に記載するよう要請する。(第15条)
 
32.政府開発援助に対する締約国の貢献は認知しながらも、委員会は、国際的基準である〔対GNI比〕0.7%という目標を達成する目的で速やかに拠出水準を高めるとともに、規約に掲げられた権利を全面的に編入した開発協力政策において人権を基盤とするアプローチを追求するよう、締約国に対して奨励する。
 
33.委員会は、締約国に対し、規約上の義務の履行に関する十分に細分化された統計データを次回の定期報告書に記載するよう要請する
 
34.委員会は、締約国に対し、規約第7(d)および第8条第1(d)に付した留保を撤回するよう奨励する。
 
35委員会は、締約国に対し、経済的、社会的および文化的権利に関する〔国際〕規約の選択議定書に署名し、かつこれを批准することを検討するよう奨励する。
 
36委員会は、社会のあらゆるレベルで、またとくに公務員、司法機関および市民社会組織の間でこの総括所見を広く普及するとともに、総括所見を実施するためにとった措置について、次回の定期報告書で委員会への情報提供を行なうよう、締約国に対して要請する。委員会はまた、次回の定期報告書の提出前に国内レベルで行なわれる議論において、市民社会組織(今回の報告書審査への関心を示してきた組織を含む)の関与を引き続き得るよう、締約国に対して奨励する。
 
37.委員会は、締約国に対し、委員会が2008年に採択したガイドライン(E/C.12/2008/2)にしたがって、次回の定期報告書を2018531日までに提出するよう要請する。