転載記事 毎日新聞 2013年3月25日
電力業界:原子力委員NPOに1800万円 震災後
原子力委員会委員の秋庭(あきば)悦子氏(64)が設立したNPO法人に、東京電力や電気事業連合会など
電力業界側が毎年多額の事業資金を提供していたことが分かった。原子力委員を巡っては東電出身の尾本(おもと)彰氏(64)が福島第1原発事故後も東電から顧問料を受領していたことが判明、安倍晋三首相が「国民の理解を得るのは難しい」と述べ、尾本氏は委員を辞任。秋庭氏が設立したNPO法人は原発事故後、東電や電事連から少なくとも1800万円受領しており、議論を呼ぶのは必至だ。
このNPO法人は「あすかエネルギーフォーラム」(東京都中央区)。消費生活アドバイザーだった秋庭氏が01年に設立し、03年にNPO法人格を取得。10年1月の原子力委員就任に伴って秋庭氏は理事長を退き、顧問となったが、現在もNPO運営の相談にのっているという。
東京都に提出されたあすかの事業報告書によると、09〜11年度に2000万〜4000万円余の事業収入があり、あすか関係者らによると、この多くは東電や、電力10社でつくる業界団体の電事連などからの提供だったという。このうち原発事故後の11年度は2283万円の収入があり、うち600万円余を電事連から受領し、東電から163万円余、日本原子力文化振興財団(原文振)から約250万円受け取っていた。
原文振は原子力の知識普及を目的に、原子力産業界と学会を中心に設立された財団法人で、現在、中部電力出身者が理事長を、関西電力出身者が専務理事を務めている。
あすかは12年度にも電事連から600万円余、原文振から約150万円を受領し、これらを合わせると、原発事故後に
電力業界側から少なくとも1800万円を受領していた。非営利のNPOにもかかわらず、11年度末時点で3800万円余の正味財産がある。
これらの資金を元に、あすかは主婦層を対象に原発や放射線などの勉強会開催や機関誌発行などの事業を展開。東電からは消費者アンケート事業を委託され、11年5月まで毎月80万円余受領し、09、10年度は同事業で年間960万円余受け取っていたという。
あすかはこの他、高レベル放射性廃棄物について国民の理解を得るための経済産業相認可法人の事業を下請け受注し、11年度には約1000万円が支払われた。この事業受注についてはある程度公開されているものの、東電と電事連、原文振からの資金受領は公開していない。
あすかの事務局は「相手のある話なのでうちから名前は出せないが、私たちから『こういう事業をしたい』と言って、事業報告書を出している。あくまで中立に勉強する場を作るということで、
電力業界の意向に沿った活動ではない」と説明。「秋庭氏は無報酬。情報や人脈があるので困った時に相談している」と話す。原文振は「提供資金の範囲内で活動してもらう『事業委託』という認識」、東電と電事連は「個別取引については回答を差し控えたい」と答えた。秋庭氏には再三取材を申し込んだが、応じていない。【杉本修作、町田徳丈、向畑泰司】
◇原子力委員会
1956年設立。委員長と委員計5人で構成され、「原子力政策大綱」を策定する。福島第1原発事故後、組織の見直しが政府内で議論されている。原子力規制委員会の委員らには、過去3年間に原子力事業者から年間50万円以上の報酬を受け取っていない▽研究室などへの寄付は公開する−−などの基準があるが、原子力委員にはない。
電力業界資金提供:任意団体を後方支援 スタッフ派遣も
毎日新聞 2013年03月25日 02時30分
原子力委員が設立したNPO法人への電力業界側からの多額の資金提供が判明したが、そうしたNPOの中核とも言える団体など二つの任意団体を、電力10社で作る業界団体・電気事業連合会が資金面で支えていた。事務局は東京電力の広報担当者らが担い、メンバーには国のエネルギー調査会の委員も多い。国や電気事業者は「後方支援」に徹し、中立的にも見えるこうした団体を前面に出すことで、原発容認に向けた「プロパガンダ(思想宣伝)」を進めた構図が浮かぶ。【町田徳丈、武本光政】
二つの任意団体は「フォーラム・エネルギーを考える(エネルギー・シンク・トゥギャザー=ETT)」と「首都圏エネルギー懇談会(エネ懇)」。
ETTは90年、消費者の立場を強調し、経済評論家で経済企画庁長官も務めた故・高原須美子氏を代表に、作家の神津カンナ氏(震災後に代表)や文化人ら約40人で発足。その後、国が原発への理解促進のためNPO法人を活用するエネルギー政策基本法(02年)を定め、NPOトップらをメンバーに招き、中核的な存在となった。内部資料によると、中心メンバーで構成する「企画委員会」には、電力業界側からの多額の資金提供が判明したNPO法人「あすかエネルギーフォーラム」の設立者でもある原子力委員の秋庭悦子氏(64)も加わっている。
ETTは全国で原発や放射線を巡るシンポジウムをNPOと共催するなどし、メンバーのスポーツキャスターやタレント、評論家、学者らを講師やパネリストとして派遣。一時期は原子力などのエネルギーを広報する民放ラジオ番組も提供し、東日本大震災の前年にはあすかと連名で全国紙に「放射線ってなあに?」と題した全面広告も掲載した。
決算書などは公表していないが、ある中心メンバーは「東日本大震災前の事業規模は年2、3億円で、電事連がスポンサーだった」と明かす。事務局は日本生産性本部(産業界と労働界、学者らで組織する民間シンクタンク)に置いていたが、事務局スタッフは電力業界が担い、東電は05年7月〜11年4月、柏崎刈羽原発広報部長を2代続けて「事務局部長」に派遣していた。
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