TPP問題:関税撤廃の「聖域探り」に焦点を当てるメディアの愚かさ(2)

「例外」は過渡的措置、数年後に完全撤廃が原則
 さらに重要なことは、かりに関税撤廃につき「例外扱い」が認められる場合でも、それは経過的な措置にすぎず、いずれ全面撤廃することが前提になっているということである。この点を知る上で、201231日付けで内閣官房、外務省、財務省、農水省、経産省がまとめた「TPP交渉参加に向けた関係国との協議の結果(米国以外の8カ国)」が有益である。

内閣官房、外務省、財務省、農水省、経産省「TPP交渉参加に向けた関係国との協議の結果」(平成2431日)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/tpp01_13.pdf
 

 この報告書の中の「関税撤廃」の項では、まず冒頭で「交渉対象については、全てを自由化交渉の対象としてデーブルにのせなければいけないことは、各国とも認識を共有していた」と記したうえで、関税撤廃の原則について、以下のような発言があったと記している。
 ・長期の関税撤廃などを通じて、いつかは関税をゼロにするというのが基本的な考え方である。
 ・全品目の関税撤廃が原則、他方、全品目をテーブルにのせることは全品目の関税撤廃と同義ではない。
 ・90から95%を即時撤廃し、残る関税についても7年以内に段階的に撤廃すべしとの考え方を支持している国が多数ある。・・・・
 ・包括的自由化がTPPの原則であり、全品目の関税撤廃を目指して交渉を行っている。
 ・「包括的自由化」の解釈は国よって異なる。

 さらに、センシティブ(重要)品目の扱いについて、以下のように各国で内容が異なる意見があったとまとめている。そこでは、「センシティブ品目の扱いは合意しておらず、最終的には交渉次第である」とする国があった一方で、「関税撤廃について特定品目を除外してもいいという合意はない」と解釈する国もあった。さらに、注目すべきなのは、次の発言にみられるように、例外扱いといっても当面のことで、センシティブ品目は段階的撤廃で対応すると受け取られているということである。
 ・種々のセンシティブ品目への対応として7年から10年の段階的撤廃により対応することが、基本的な原則としてすべての交渉参加国で合意されているが、本当にセンシティブ品目の扱いについては今後の交渉を見極める必要がある。
 ・センシティブ品目への配慮は段階的関税撤廃で対応すべき。
 ・現在の議論の対象は関税撤廃をどれだけの時間をかけて行うかである。
また、こうした意見に続けて、
 ・除外については議論していない。
 ・除外はTPPの目標と一致しない。
といった原則論を確認する発言をした国もあったという。

 では実際はどうなのか? 石川幸一氏(亜細亜大学教授)が『季刊国際貿易と関税』Autumn 2010,に発表した論文「環太平洋戦略経済連携協定(TPP)の概要と意義」の中で、TPPにおける「物品の貿易は段階的であるが例外なく自由化されている」としてブルネイ、チリ、ニュ-ジーランド、シンガポールにおける関税撤廃の経過を紹介している。

石川幸一「環太平洋戦略経済連携協定(TPP)の概要と意義」
http://www.iti.or.jp/kikan81/81ishikawa.pdf

 これを見ると、ブルネイでは2010年の時点では関税撤廃率は1.7%に過ぎなかったが、協定発効時には92%となっている。同じくチリ、ニュージーランドでも、2008年あるいは2009年の時点では撤廃率は1%未満だったが、発効時には、チリは89.39%に、ニュージーランドでは96.5%になっている。また、シンガポールは発効時に100%となっている。

いつまでも関税が残るという例外はない~国会でも確認された原則~

 219日に開かれた参議院予算委員会で質問に立った紙智子議員(日本共産党)は、201111月の衆議院予算委員会で林芳正議員(現農水相)が、例外措置は何年でゼロにするかという例外はあっても、関税が残るという例外はないのではないか、と野田首相(当時)追及したことを紹介し、これに対して野田氏が例外を認めさせても510年で関税がゼロになると答弁したことを明らかにした。

「論戦ハイライト TPP不参加しかない 参院予算委 紙議員が迫る」(しんぶん赤旗、20132.20
(審議カレンダーの219日、予算委員会を選択。画面上の休憩後の映像の残り時間2:29:15あたりから)

 こうした重大な質疑を全く伝えず、安倍首相の個人的「感触」で「例外扱い」を引き出せるかどうかに国民の耳目を引き寄せるメディアの愚鈍、問題の核心を洞察する理知の欠落を質さなければならない。