転載記事
毎日新聞2012年4月12日 朝刊

AIJ問題:穴埋めで「会社倒れる」 零細企業悲鳴

 AIJ投資顧問による企業年金消失問題で、同社の浅川和彦社長の証人喚問が13日に国会で行われる。AIJに委託した企業年金は10年度末で84あるが、このうち中小企業などで作る74の厚生年金基金は公的資金の一部(厚生年金の代行部分)も運用しているため、損失が生じれば加入企業などが「持ち出し」で穴埋めしなければならない。企業の中には個人の預貯金を取り崩して運転資金に充てている零細企業もあり、さらなる負担を懸念しながら喚問を注視している。

 84基金(加入・受給者約88万人)のAIJ への委託総額1852億円余のうち、74基金(同約81万人)の委託額は1578億円を超える。委託割合が最も高いのは56.9%の神奈川県印刷工業厚生年金基金。加入企業の一つで、川崎市内の印刷会社の70代社長は、「AIJでなくなったお金は加入者1人当たり260万円と基金から説明を受けた。うちだけで780万円だ」とため息をつく。

 
従業員9人のうち、既に年金受給者の社長自身と妻、パートを除くと、厚生年金を支払う正社員は長男ら40代の男性3人。30年以上前に工場を始めた際、従業員は25人だった。近年、印刷物は軒並み電子データに置き換わり、売り上げは当初から約4割の減。仕事を依頼してきた同業者が未払いのまま行方不明になったり、倒産したこともあった。
 年金受給者となった10年ほど前から自身は無給。土曜日も含めて午前8時半から午後5時までほぼ毎日、役所やなじみ客を回る。だが約6年前、地域の大規模病院から受注していた数万枚のカルテが電子化され、大きな仕事を失った。経理担当の妻も無報酬だ。
 自身の月約二十数万円、妻の十数万円の年金収入のほか、預貯金を取り崩して日々の資金や設備投資で生じた数千万円の借金返済に充ててきた。
 
従業員の給与や正社員の基金掛け金(月約6万円)は一度も穴を開けていないが、社員からは「先の見えない年金の掛け金を払うのはやめたら」との声も上がる。「社員が安心と思えないのがつらい。でも、うちのような小さな会社がなくなれば、従業員の再就職は難しい」と社長は案じる。
 同じ基金に加入する横浜市内の印刷会社の社長(51)は8年前に従業員8人を解雇し、機械も手放した。父親が創業した会社自体は残し、なじみ客からの受注は同業者に仲介している。現状では損失を抱えたまま基金を解散すれば、同社にも負担が求められる。
 社長は「倒産や破産に至り、神奈川の印刷会社の半分はなくなるのではないか」と懸念した。【野倉恵】