転載記事 毎日新聞 2012年4月1日 東京朝刊
 

南海トラフ地震:予測改定 津波、6都県20メートル超 高さは想定2~3倍 国土の7%で震度6強以上

 西日本の太平洋沖に延びる海溝「南海トラフ」で発生する巨大地震について、内閣府の有識者検討会(座長・阿部勝征東京大名誉教授)は31日、想定される最大の震度分布と津波高を発表した。満潮時の津波は高知県黒潮町の34・4メートルを最大に、東京の島しょ部から静岡、愛知、三重、徳島、高知の計6都県23市町村で20メートルを超えると予測。中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)付近は21メートルで、建設中の防波壁を3メートル上回った。震度6強以上の地域も国土の約7%の2万8000平方キロに及び、国は夏までに当面の対策をとりまとめる。
 南海トラフの巨大地震は近い将来の発生が懸念されている。政府が03年にマグニチュード(M)8・8の想定で被害を予測した際、津波は最大17メートルだった。今回は、最新の科学的知見や過去の津波の痕跡調査などから、考えられる最大級の被害を検討。震源域を約2倍、地震の規模を約3倍のM9・1とした。
 
 その結果、津波高は各地で前回想定の2~3倍、東京の島しょ部では5倍を超えた。震源の西端を宮崎県沖の日向灘まで延ばした結果、愛媛、大分、宮崎、鹿児島では約3倍の13~17メートルとなった。
 
 震度6強以上は21府県395市町村。震度7は静岡、三重、高知など10県153市町村計7000平方キロに及び、面積は前回想定の20倍以上になった。非常に強い揺れが3分近く続く地域も多いうえ、静岡、和歌山、高知の一部では最短2分で高さ1メートルの津波が来ると予測され、揺れの最中に津波に襲われる恐れもある。
 ただし、これらの被害が一度に起きることは「実際にはあり得ない」(事務局)という。
 検討会は4月以降、今回の予測を前提に浸水想定区域を公表する。【池田知広、八田浩輔】

 ◇浜岡原発、最大21メートル 保安院が対策指示

 内閣府の検討会で、中部電力浜岡原発が最大21メートルの津波に襲われる可能性が指摘されたことを受け、経済産業省原子力安全・保安院は2日にも、大津波による敷地浸水を前提にした追加の安全対策を検討するよう指示する。これにより、停止中の同原発3~5号機の再稼働はさらに遠のくことになる。
 中部電は、東京電力福島第1原発事故を受けて国が指示した緊急安全対策の一環で、海抜18メートル、長さ1・6キロの防波壁を年内完成を目指して建設中。しかし、検討会の推計では最大津波高は21メートルに達し、防波壁を越えて敷地内に流れ込むことになる。
 保安院は「従来想定していた津波よりはるかに高く、緊急安全対策は結果的に不十分だった」として、中部電に追加対策の検討を求める。【岡田英】
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 各地の震度分布、津波高は内閣府ホームページ(http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/nankai_trough/15/index.html)で閲覧可
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 ■ことば

 ◇南海トラフ

 駿河湾から九州沖まで延びる浅い海溝。フィリピン海プレート(岩板)がユーラシアプレートの下に沈み、100~150年間隔でマグニチュード8級の巨大地震を繰り返してきた。ここを震源域とする東海、東南海、南海地震について、国は今後30年間に発生する確率を60~88%と推測している。