本当の離職理由を証明するものを準備しよう
会社都合には16項目もある
正当な理由のある自己都合という選択肢もある

自己都合退職を強要するケースが増加

事業主から自己都合退職を強要され辞めたのに会社が作成した離職証明書(離職票)には「一身上の都合で退職」と記載されていて、失業給付が直ぐには受給できなくなってしまう労働者が後を絶たない。

自己都合退職を強要する理由

失業給付の支払いは国が行い企業の腹は痛まないのに何故こんなことが繰り返されるのか。それには二つの理由がある。一つは、解雇すると損害賠償を請求されたり、ユニオンが団体交渉を要求したり、裁判所を利用されたりという企業にとってのリスクがあること。

二つ目には、中小企業の多くがハローワークから何らかの助成金を受けていて、それが退職勧奨や解雇によってストップするというリスクがあることである。この二つ目の理由の方が大きいようである。

事実上解雇されているのに失業給付の受給権まで剥奪される社会

事実上解雇され、その上失業給付を受ける権利さえ奪われることがまかり通っている。本当の退職理由が証明されれば失業給付が受給できるのに、立証できなければ事業主の言分が正当とされてしまう。なかには、社長に口ごたえしただけで懲戒解雇とされ権利を奪われる例さえある。

機能しない審査請求制度

ハローワークで異議申立て(審査請求)をする制度はあるが、事実関係を裏付ける何らかの資料が無ければ決定を覆すことは難しい。覆すことができたとしても、相当な日数を要し、事実上自己都合と同じ結果になりかねない。無意味な異議申立ての制度となっている。

○審査請求制度の仕組み→http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/shinsa/roudou/02-01.html
審査請求制度には労災保険関係の審査請求と雇用保険関係の審査請求があるが、基本的に両制度とも同じ仕組みになっている。審査請求と再審査請求の2回までできることになっている。訴訟で争うのは2回の審査請求の後で無ければならない。労災が認められなければ訴訟も有り得るが、会社都合の退職が否認されて訴訟をする暇は労働者には無い。

失業給付についての処分に不服があれば1回目は都道府県労働局の雇用保険審査官宛てに審査請求を労働者の居住地のハローワークを通して行う。1回目の審査請求でも離職理由の会社都合への補正が認められなければ再審査請求を労働保険審査会にたいして行うことができる。

審査手続きに何カ月もかかるのであれば、その間に生活費が底をつくことになり、機能する制度とは思えない。

では、失業給付の申請から審査請求への移行はどのように行われるのか、ハローワークや安定部に聞きまくって纏めてみた。都道府県ごとに若干の相違は有るかも知れないが、離職票が自己都合とされた際にどう対処するのか、参考にして頂きたい。

離職票記載事項の補正手続きはどのように進むか

居住地のハローワークの所長判断で離職理由を会社都合へ補正してくれる場合がある
居住地のハローワークで補正できるのは労働者から十分な証拠資料が提出された時

① 【居住地の近くにあるハローワークへ離職票を提出】
(ア) 離職票の離職理由が解雇(重責解雇を除く)や退職勧奨による離職などであれば、その場で会社都合(特定受給資格者)としての受給資格が決定される。
(イ) 事業主が作成した離職票の離職理由が事実に反して「一身上の都合」となっていた場合は次の②となる。

② 【居住地のハローワークで離職理由を補正する】
1回目の審査請求の前に「一身上の都合」から「会社都合(特定受給資格者)」へ離職理由を補正してもらえる場合がある。それが、次の(ウ)のケースである。労働者とってここで補正できればハッピーだ。

ここで重要なことがある。
例えば、離職の本当の理由が会社から辞めて欲しいと言われて辞めたとしよう。かれが認められれば立派な会社都合(特定受給資格者)である。しかし、書面で通告されたわけではないので証拠が無い。そんな時、どうしたら良いか。

ここで知っておく必要があるのは、会社都合(特定受給資格者)には16項目もの内容(「倒産等」が4項目、「解雇等」が12項目)があることだ。例えば、「離職の直前3か月以上の長期間残業(45時間超)が続いたので自分の判断で辞めた」というのも会社都合となる。下の「特定受給資格者の範囲」をチェックして自分が該当しないか、そしてその証拠書類が無いか調べてみることだ。
○「特定受給資格者」及び「特定理由資格者」の範囲→https://www.hellowork.go.jp/insurance/insurance_range.html#jukyuu

会社都合(特定受給資格者)に拘らなくても良いケースが二つある。
 一つ目は「期間満了で更新を希望していたのに更新されない場合」
上の「特定受給資格者(会社都合)」を見てわかることは、更新されて3年以上となった場合は「特定受給資格者(会社都合)」になることだ。

ついでに「特定理由離職者」の1を見て頂きたい。3年以上とならなくても「特定受給資格者(会社都合)」ではないが「特定理由離職者」にはなっている。そして、実質的に会社都合と同等に取り扱われている。但し、受給資格に係る離職の日が平成24年3月31日までの間にある方に限られる。次をクリックして頂ければ、その冒頭にそのことが書いてある。→https://www.hellowork.go.jp/insurance/insurance_benefitdays.html

 二つ目「正当な理由のある自己都合により離職した者」
「特定理由離職者(正当な理由のある自己都合離職者)」の場合である。よくあるのはうつ病などの病気を理由とする離職者である。このケースの場合には、3か月の待期期間が無くなる意味では会社都合並みになるが、受給期間は自己都合と同じである。

但し、被保険者期間が12か月以上(離職前2年間)ない場合には受給期間も会社都合と同じとなる。ちょっとわかり難い言い回しだが、要は被保険者期間が6カ月から1年未満の場合に90日間となり、この部分は会社都合と同じである。在職中の診断書が証拠となる。健康保険の傷病手当金との併給はできないので傷病手当金が終了した翌日から受給すればよい。

(ウ) 労働者が離職の本当の理由を証拠立てる資料とともに離職票を提出できれば、そのハローワークの所長の判断で離職理由補正手続きがされ会社都合(特定受給資格者)として受給資格が決定される。その為には、主張だけでは無理で十分な資料が必要となる。

③ 【1回目の労働局の雇用保険審査官への審査請求】
(エ) 労働者の主張を立証する証拠が不十分な場合には、「離職理由に係る申立書」を労働者が記載し離職理由の補正を申立てる(都道府県労働局の雇用保険審査官に対する審査請求)。労働者から客観的な資料が提出されていれば、安定所はそれを添付して会社を管轄する地域の安定所(ハローワーク)への補正依頼を行う。

④ 【会社を管轄する地域にある安定所での事実認定作業】
(オ) 補正依頼を受け取った安定所は労働者が働いていた事業所へ事実認定を行う。(事業所側に事業所の主張を裏付ける「退職願い」などの客観的資料があれば徴取する。)事業主が労働者の主張を認めればよいが、なかなかそうはならない。事実認定には相当な時間がかかる場合がある。そして、補正の可否を決定する。この時、労働局の雇用保険審査官が何らかのかたちで関わると思われる。

⑤ 【事業所を管轄する地域の安定所から労働者の居住地の安定所への回答】
(カ) 補正可否の結果を労働者の居住地域の安定所に回答する。

(キ) 回答が離職理由を会社都合(特定受給資格者)に補正するとの内容であれば会社都合(特定受給資格者)としての受給資格が決定する。

(ク) 回答が補正しないとの内容で有れば、労働者にその旨回答する。

⑥ 【再審査請求】
(ケ) 労働者が不服で有れば「労働保険審査会」への再審査請求となる。
再審査請求には新しい事実を示す資料が無い限り、同じ結果となることが多い。時間ばかりかかるので、これを利用する人は極めて少ないと思われる。