3月4日の日弁連のシンポジウムでは、『後見制度支援信託』の概要について、青木佳史弁護士が報告したうえで、パネルディスカッションでの司会も務め、理念的問題点について、上山泰筑波大学法科大学院教授が国際的な動向を踏まえて報告。赤沼康弘氏(弁護士/日弁連高齢者・障害者の権利委員)、多田宏治氏(司法書士/社団法人成年後見センター・リーガルサポート)、星野美子氏(社会福祉士/社団法人日本社会福祉士会常任理事・成年後見委員会委員長)が、それぞれの立場から発言され、この問題の重大性と日本の後見制度の後進性が明らかになりました。
申し込みが殺到し数日前には受付中止となるほどで、会場いっぱいの参加者でした。
2011-2-10 最高裁判所提案『後見制度支援信託』に関する日本弁護士連合会の要望
日弁連は、「最高裁判所提案『後見制度支援信託』に関する要望」を2011年2月10日付けで取りまとめ、同年2月15日に最高裁判所、法務大臣、社団法人信託協会に提出しています。
要望の趣旨
最高裁判所が2011年4月から各家庭裁判所において導入を予定している「後見制度支援信託」は、当連合会を含む高齢者・障がい者の権利擁護や成年後見制度の運用に関わる関係諸機関・諸団体及び国民との十分な検討を経ずに、最高裁判所、法務省民事局、社団法人信託協会の三者のみで導入が検討された制度であり、問題点を含むものであることから、拙速な導入は避けることを要望する。
要望の理由
1、最高裁判所は、今般、「後見制度支援信託」(以下「本件制度」という。)を、本年4月1日から全国の家庭裁判所において導入することを公表した。
最高裁判所の説明によると、この制度は、「後見累計(補佐、補助は除く)の申し立てがあった場合に、裁判所が専門職後見人(弁護士や司法書士)を選任し、数か月で、本人の生活の支援計画を立て、後見人がそれに必要な預金だけを残し、それ以外の従来の本人資産を原則として換価し、後見人と信託銀行との間で契約締結する。その後、専門職後見人は辞任し、以後は、親族後見人だけとなる。そして、従前の計画に含まれない一時的・臨時の出金や信託の解約の必要性が出た場合には、裁判所の指示書が出た場合のみ、可能とする」というものである。
2、成年後見制度においては、本人の自己決定の尊重と残存能力の活用、ノーマライゼーションの理念から、より制約的でない方法で、被後見人の絶えず変化する生活や意思に応じた柔軟な財産管理と身上監護を行うことが求められている。しかるに、今回提示されたせいどは信託契約を裁判所の指導で導入する制度として構築していると解さざるを得ず、そこでは財産の保全に主眼が置かれ、本人の権利擁護や身上監護が実質的に後退するのではないか、また、本人のための財産利用が抑制的になる、さらには、後見事件一般へ信託制度が波及し、後見業務が画一的な取り扱いになるのではないか等の懸念が生じている。
なお、この数か月、最高裁判所が党連合会担当委員会に対し、また複数の家庭裁判所において裁判官から各地の弁護士会担当者らに対し、「後見制度支援信託」の利用についての説明が実施されてはいるが、一方的なものにすぎない。そもそも信託制度を成年後見制度に導入することの是非、また、信託制度を採用するとしてどのようなケースにおいて信託が適当であるかについて、事前に関係者団体・専門職後見人等との間で意見交換がなされていない。
実際の運用において、ケースを調査し制度設計等を判断するのが専門職後見人であるとすれば、その責任は大きく、判断に迷うことも想定される。特に、個々の事案において親族らの理解を得ることが重要となるであろうが、預貯金や有価証券等財産の多くを換価し特定の信託銀行の信託に付することについて、現在最高裁判所から説明されている内容のみを持って被後見人や親族後見人ら当事者の理解を得られるか疑問である。
3 後見人選任数の増加に伴い、親族後見人等による不祥事が少なからず発生しているところから、その防止策が重要であることは否定できない。しかしながらそれは、後見人の権限乱用につき、どのような防止策をとるべきかという成年後見制度全体の見直しにかかわる問題でありる。家庭裁判所や行政機関、後見監督人等による指導・監督機能の強化、適正な第3者後見人の選任といった視点から、法改正や運用改善を早急に検討すべきものである。
4 以上のことから、当連合会は、最高裁判所提案にかかる本件制度については、拙速に運用を開始することなく、当連合会を含め高齢者・障碍者の権利擁護や成年後見制度の運用にかかわる関係諸機関・諸団体及び国民との間で議論を尽くすよう求めるものである。
大阪弁護士会からも、3月1日付で、最高裁判所・法務省民事局・社団法人信託協会に対して、成年後見制度の基本理念からして重大な疑義があるため、この制度の導入に反対し、親族後見人等の不祥事対策については早急に専門職団体等との協議を行って、適正な後見人の選定や運用改善に直ちに取り組むよう提案した意見書が提出されています。
申し込みが殺到し数日前には受付中止となるほどで、会場いっぱいの参加者でした。
2011-2-10 最高裁判所提案『後見制度支援信託』に関する日本弁護士連合会の要望
日弁連は、「最高裁判所提案『後見制度支援信託』に関する要望」を2011年2月10日付けで取りまとめ、同年2月15日に最高裁判所、法務大臣、社団法人信託協会に提出しています。
要望の趣旨
最高裁判所が2011年4月から各家庭裁判所において導入を予定している「後見制度支援信託」は、当連合会を含む高齢者・障がい者の権利擁護や成年後見制度の運用に関わる関係諸機関・諸団体及び国民との十分な検討を経ずに、最高裁判所、法務省民事局、社団法人信託協会の三者のみで導入が検討された制度であり、問題点を含むものであることから、拙速な導入は避けることを要望する。
要望の理由
1、最高裁判所は、今般、「後見制度支援信託」(以下「本件制度」という。)を、本年4月1日から全国の家庭裁判所において導入することを公表した。
最高裁判所の説明によると、この制度は、「後見累計(補佐、補助は除く)の申し立てがあった場合に、裁判所が専門職後見人(弁護士や司法書士)を選任し、数か月で、本人の生活の支援計画を立て、後見人がそれに必要な預金だけを残し、それ以外の従来の本人資産を原則として換価し、後見人と信託銀行との間で契約締結する。その後、専門職後見人は辞任し、以後は、親族後見人だけとなる。そして、従前の計画に含まれない一時的・臨時の出金や信託の解約の必要性が出た場合には、裁判所の指示書が出た場合のみ、可能とする」というものである。
2、成年後見制度においては、本人の自己決定の尊重と残存能力の活用、ノーマライゼーションの理念から、より制約的でない方法で、被後見人の絶えず変化する生活や意思に応じた柔軟な財産管理と身上監護を行うことが求められている。しかるに、今回提示されたせいどは信託契約を裁判所の指導で導入する制度として構築していると解さざるを得ず、そこでは財産の保全に主眼が置かれ、本人の権利擁護や身上監護が実質的に後退するのではないか、また、本人のための財産利用が抑制的になる、さらには、後見事件一般へ信託制度が波及し、後見業務が画一的な取り扱いになるのではないか等の懸念が生じている。
なお、この数か月、最高裁判所が党連合会担当委員会に対し、また複数の家庭裁判所において裁判官から各地の弁護士会担当者らに対し、「後見制度支援信託」の利用についての説明が実施されてはいるが、一方的なものにすぎない。そもそも信託制度を成年後見制度に導入することの是非、また、信託制度を採用するとしてどのようなケースにおいて信託が適当であるかについて、事前に関係者団体・専門職後見人等との間で意見交換がなされていない。
実際の運用において、ケースを調査し制度設計等を判断するのが専門職後見人であるとすれば、その責任は大きく、判断に迷うことも想定される。特に、個々の事案において親族らの理解を得ることが重要となるであろうが、預貯金や有価証券等財産の多くを換価し特定の信託銀行の信託に付することについて、現在最高裁判所から説明されている内容のみを持って被後見人や親族後見人ら当事者の理解を得られるか疑問である。
3 後見人選任数の増加に伴い、親族後見人等による不祥事が少なからず発生しているところから、その防止策が重要であることは否定できない。しかしながらそれは、後見人の権限乱用につき、どのような防止策をとるべきかという成年後見制度全体の見直しにかかわる問題でありる。家庭裁判所や行政機関、後見監督人等による指導・監督機能の強化、適正な第3者後見人の選任といった視点から、法改正や運用改善を早急に検討すべきものである。
4 以上のことから、当連合会は、最高裁判所提案にかかる本件制度については、拙速に運用を開始することなく、当連合会を含め高齢者・障碍者の権利擁護や成年後見制度の運用にかかわる関係諸機関・諸団体及び国民との間で議論を尽くすよう求めるものである。
大阪弁護士会からも、3月1日付で、最高裁判所・法務省民事局・社団法人信託協会に対して、成年後見制度の基本理念からして重大な疑義があるため、この制度の導入に反対し、親族後見人等の不祥事対策については早急に専門職団体等との協議を行って、適正な後見人の選定や運用改善に直ちに取り組むよう提案した意見書が提出されています。