板橋高校卒業式事件第8回最高裁要請行動【添付資料3】

 言論・表現の自由の権利の促進と保護に関する特別報告者 殿
 MR. Frank William La Rue Lewy(グァテマラ)

◆ 日本の言論・表現の自由の危機について訴えます
We appeal for the crisis of freedom of opinion and expression in Japan
2010年12月27日
国際人権活動日本委員会

 今年5月、国連人権高等弁務官ナビ・ピレイさんが来日し、お話をする機会を得ました。また、弁務官スタッフのリン・ホムさんとも長時間話し合う機会をもつことができました。そのとき、特別報告者制度について教えていただきました。貴言論・表現の自由特別報告者が来日し日本の現状を調査し、見解を表明していただきたくお願い申し上げます。

 ◆ 市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)第19条2には、「すべてのものは、表現の自由についての権利を有する」と記されている。
 戦前の日本は治安維持法等による弾圧と暗黒政治の下で、侵略と植民地主義、太平洋戦争など第二次世界大戦における犯罪を犯してきた。1945年、日本は敗戦し、深い反省の上に立って、再び過ちを犯さないために、新憲法を制定し、平和と民主主義を基軸とする国家を目指してきたはずであった。
 基本的人権の重要な柱である、言論・表現の自由について、日本国憲法第21条では「集会、結社、及び言論・出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と書かれている。これは自由権規約19条と完全に合致する。


 また、日本国憲法第98条は、「日本国が締結した条約及び確立された国際条約は、これを誠実に遵守することを必要とする」とあり、1979年に「自由権規約」を批准した日本国政府は遵守の義務を負う。
 戦後65年、言論・表現をめぐる激しい戦いが繰り広げられてきた。
 例えば、政権政党の主張にあわせさせようとする教科書検定制度は、実態においては戦前の検閲制度と同じであり、最近の教職員に対する入学式・卒業式の学校行事において、「国旗(日の丸)、に向かって起立し、国家(君が代)を斉唱せよ」との強制は、言論・表現・思想・良心の自由への侵害であり、子どもの「知る権利」を含め、「子どもの権利条約」にも反している。こうした問題に対して学者、文化人、出版労働者、教職員が闘い続けてきている。
 特に、50年前の日米安保条約に反対する広範な国民の戦いが起こって以後、日本の国家権力は革新的運動に対する街頭でのビラまき、ビラ貼りに対して逮捕・起訴するなどの弾圧を行ってきた。これらの弾圧には、公職選挙法、刑法における住居侵入罪、国家公務員法などを法的根拠としてきた。
 それに対して弾圧を受けた側から機敏な反撃、裁判闘争などが粘り強く闘われた。そうしたなかで1980年代以降、公選法弾圧は大幅に減少し、国家公務員法違反の政治弾圧も30年間の長きにわたって影を潜めてきた。

 ◆ 21世紀になってビラ配布、表現の自由に対する弾圧が相次いでいる。
 21世紀に入って、言論・表現、ビラ配布に対する弾圧が相次いでいる。

1)2003年4月、大分県豊後高田市で日本共産党市議の大石忠昭氏が、後援会ニュースを会員宅に配布したことを、公選法違反容疑で逮捕、起訴され、2008年1月最高裁で「罰金5万円」の有罪が確定。

2)2004年2月、東京都立川市の市民団体が、自衛隊宿舎にイラク戦争反対のビラを配布したとして逮捕され、2008年4月に最高裁は有罪判決を下した。

3)2004年3月、都立板橋高校の卒業式の開会前に保護者に「君が代」強制について説明した元教員の藤田勝久さんを威力業務妨害容疑で立件。2008年5月、東京高裁は罰金20万円の有罪判決を行い、現在、最高裁で上告審理中である。

4)2004年3月、休日に自宅近くで日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」号外などを配った社会保険庁職員の堀越明男さんが、国家公務員法違反容疑で逮捕。一審地裁で有罪、2010年3月、二審高裁では無罪。現在、最高裁で審理中。

5)2004年12月、東京都葛飾区のマンション共用部分で、日本共産党の都議会報告などのビラを配った僧侶の荒川庸生さんが住居侵入容疑で逮捕、一審無罪、二審で有罪、2009年11月最高裁は上告を棄却、有罪が確定した。

6)2005年9月、休日に職場から離れた場所で「しんぶん赤旗」号外を集合住宅の集合ポストに投函した厚生労働省職員の宇治橋真一さんが住居侵入容疑で逮捕。国家公務員法違反で起訴。一審有罪、2010年5月東京高裁は一審有罪を維持。宇治橋さんは最高裁に上告、審理中。

 ◆ 画期的な「自由権規約委員会」の懸念・勧告
 こうした言論・表現の自由の弾圧に対して、国内での闘いを繰り広げると同時に、国連人権機関にも不当な現状を訴えてきた。
 2008年10月、自由権規約委員会は、第5回日本政府報告書審査を経て、懸念を表明し、次のように勧告した(文書No.CCPR/C/JPN/5)。
 「規約19条(表現の自由)、25条(政治活動の自由)のもとで保障されている政治活動やその他の活動を警察、検察及び裁判所が過度に制限することを防止するため、その法律からあらゆる制限を撤廃すべきである」、ここにいう「法律」とは、その文脈から「公選法」と「国家公務員法」を指すことは明らかである。
 この勧告は国内の闘いに大きな影響を与えている。前述した、4)の堀越事件の高裁判決は、一審の有罪判決が憲法21条違反であるとした上で、異例ともいえる付言がつき、「わが国における国家公務員に対する政治的行為の禁止は、諸外国、とりわけ西欧先進国に比べ、非常に広範なものとなっていることは否定しがたい」とし、様々な分野でグローバル化が進むなかで、「世界基準」という視点からこの問題を考えるべきだとしている。自由権規約の勧告が生かされた判決だと評価している。
 10月22日、自由権規約委員会による一般的意見34(文書番号CCPR/C/34/CRP.4)を高く評価し、歓迎します。

 ◆ 寄せられている国際的批判・意見
 これまで日本の裁判所は、
 1)の大石事件の一審の裁判に、元自由権規約委員のエリザベス・エヴァットさんが「日本の公職選挙法は、国際人権規約に適合しない」と証言したにも関らず、有罪判決を下した。福岡高裁は、エヴァット証言は「個人的な見識で、規約人権委員会の「公式の意見ではない」と有罪にし、最高裁もそれに準じた。
 08年10月に、自由権規約委員会の公式な見解が出された。しかし、6)の世田谷国公法弾圧事件の東京高裁判決では、「国際人権委員会が本件を取り上げて懸念を表明したことを指摘するが、交付されたB規約の解釈権限はわが国の裁判所にあり、上記懸念なるものは、何らの法的拘束力は持たないものである」とするなど、4)の堀越事件高裁判決以外は日本の裁判所の判決は依然として言論・表現の自由を守る立場に立ったものは少ない。
 3)の板橋高校 藤田勝久さんの事件では、2010年5月、ベルギーのデレク・フォルホーフ教授が、自由権規約だけでなく欧州人権条約(EUHR)第10条が「公権力による干渉を受けない」表現の自由を、基本原理の一つとして保障しているという法律意見書を最高裁に提出した。
 こうした国際的な批判、意見が寄せられているが、日本の司法が言論・表現の自由を守る判決を出すか否かは非常に危惧される現状である。

 ◆ 日本政府は、個人通報制度を批准していない
 113カ国が批准している自由権規約第1選択議定書(個人通報制度)を、多くの人権機関から批判されているにもかかわらず批准していない。
 そのために、日本において、最終的な手続き(最高裁)を終えても納得できない場合、国際機関に訴えることができない。
 5)の荒川庸生さんは、最高裁の不当判決に怒り、「個人通報制度があれば訴えたい」と発言している。国際人権活動日本委員会は荒川さんの意を受けとめ、2010年2月、国連人権理事会に文書発言を行った(文書番号A/HRC/13/NGO/41)。
 日本では、昨年秋、自民党から民主党に政権交代し、千葉景子法務大臣が誕生した。氏は就任したときから、個人通報制度、国内人権救済機関、取調べの可視化の実現を公約していたが、公約を実現しないまま退任し、現在の仙谷由人法務大臣は、これらの課題について所信を明確にせず、いずれも実現していない。

※正文は英文 
http://jwchr.s59.xrea.com/x/shiryou/09tokubetsuhoukokushaseido.pdf

『国際人権活動日本委員会HP』
 THE JAPANESE WORKERS’ COMMITTEE FOR HUMAN RIGHTS
 NGO in Special Consultative Status with ECOSOC
http://jwchr.s59.xrea.com/

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