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写真:ひっそりとしたままだった阿武松部屋=千葉県習志野市で2011年1月26日午後2時10分ごろ、藤野智成撮影 

大相撲の野球賭博事件で、元幕下の山本俊作容疑者(35)=賭博開張図利ほう助容疑で逮捕=が、山口組弘道会系暴力団組長(09年8月に死亡)から賭博に使われる「ハンデ表」をもらっていたことが分かった。警視庁組織犯罪対策3課は暴力団側に賭博の利益が流れていたとみて追及している。【川崎桂吾、前谷宏、袴田貴行】

 山本容疑者の逮捕容疑は、元幕下の藪下哲也容疑者(29)=賭博開張図利容疑で逮捕=に、野球賭博の賭け率に差を付ける「ハンデ」を携帯電話のメールで送信し、賭博開張を手助けしたとしている。組織犯罪対策3課によると、ハンデ表は愛知県内にあった弘道会系暴力団組長から組関係者を介して入手していたという。

 この暴力団の組長は山本容疑者の親族と交流があった。山本容疑者は05年3月から、組長を通じて野球賭博に客として参加。06年ごろには、組長から「自分で客を集めれば小遣い稼ぎになる」と勧められ、自らが胴元になって賭博を開いていたという。組長は山本容疑者から現金を受け取っており、組対3課は賭博の売り上げの一部が組長に上納された可能性が高いとみている。

 組長が09年8月に病死して間もなく、山本容疑者も野球賭博から手を引いたという。だが、山本容疑者から胴元がもうかると伝えられた藪下容疑者や元十両の古市貞秀容疑者(34)=同=が新たな胴元となり、古市容疑者の母米子容疑者(63)=同=は賭け金を管理していたとみられる。

 藪下容疑者の逮捕容疑は、09年4月17日~5月25日、プロ野球公式戦計41試合で賭博を開催、力士ら6人から計108万円を徴収した疑い。古市容疑者と米子容疑者の逮捕容疑は、昨年5月15日のプロ野球公式戦6試合で賭博を開催し、力士ら客3人から計23万円を徴収したとしている。

 組対3課の調べに、4人はいずれも「間違いない」と容疑を認めているという。

毎日新聞 2011年1月27日
http://mainichi.jp/enta/sports/news/20110127k0000m040127000c.html


 乗り越えた「現行犯逮捕」原則 証拠少なく難航

 野球賭博問題発覚から8カ月。警視庁組織犯罪対策3課による捜査は、「現行犯逮捕が原則」というハードルを乗り越え、賭博開張図利容疑での胴元の立件にたどり着いた。捜査が長期間にわたった背景には、賭博の注文をやり取りしたメールが削除されるなど証拠が極端に少ないという事情があった。

 賭博開張図利容疑で逮捕するには、賭博の対象になった試合や胴元、賭客を特定した上で、賭博の収益である「寺銭」が胴元に流れたことを立証する必要がある。賭博現場での現行犯逮捕なら証拠はほとんど残っているが、過去の事実を突き止めることは容易ではないため「現行犯逮捕が原則」とされる。

 だが今回の事件では、昨年5月の週刊誌報道が疑惑の端緒となり、この原則が通じなかった。関係者が証拠隠滅に走ったからだ。

 捜査関係者によると、野球賭博の勝ち金の精算は現金手渡しが多いが、胴元や仲介役が持つ勝敗記録の「付け帳」はほとんど破棄されたとみられ、同7月の家宅捜索でも押収できなかった。「唯一の物証」は携帯電話のメール履歴だったが、関与した力士の多くはデータを削除したり、機種を変更していた。

 組対3課はデータの復元に取りかかったが、携帯電話会社や機種によって保存期間はまちまち。復元に成功しても、メールの内容に対応する金の流れの裏付けが取れず、立件を断念したケースもあったという。賭博のキーマンだった山本容疑者がほう助容疑にとどまったのもこのためだ。

 胴元らの背景に見え隠れする暴力団については、現段階では立件が見送られた。元東京地検公安部長の若狭勝弁護士は「賭博事件を現行犯以外で立件するのは非常に難しいうえ、一般的にも暴力団の胴元まで立件するのは難しい。今後の取り調べの中で、真の胴元に関する話をどれだけ引き出せるかがポイントになるだろう」と話している。【川崎桂吾、前谷宏】

毎日新聞 2011年1月26日 21時48分
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110127k0000m040107000c.html