:食の安全

伊藤ハム東京工場=千葉県柏市(共同) 伊藤ハム東京工場(千葉県柏市)の井戸水から基準値を超えるシアン化合物が検出された問題で、かつて同工場の約300メートル東に旧日本軍の「毒ガス室」と呼ばれた施設が存在したことが28日、分かった。環境省が全国の旧日本軍施設の管理状態を調べる中で、平成18年に明らかになった。施設跡から漏れたシアン化合物が、井戸水から検出された可能性があり、柏市保健所などが関係を調べる。

 環境省によると、旧日本軍が開発した毒ガス弾の一つに、青酸ガス(シアン化水素)を瓶詰めしたものがあるという。同省は平成15年に茨城県神栖町(現神栖市)で地中に旧日本軍の毒ガス成分が染み出し、近隣の井戸水を飲んだ周辺住民に健康被害が出た問題を受け、各地で調査していた。

 同省の資料や当時の部隊関係者によると、工場東側の一帯は終戦まで軍用地で、兵舎や弾薬庫などがあった。駐留部隊の少尉だった男性が作成した見取図にも「毒ガス室」の存在が記載され、部隊で勤務した男性(83)は取材に、「『ガス講堂』と呼ばれ、ごく一部の兵が攻撃や防御の教育を受けるための施設があった」と証言した。

 シアン化合物はメッキ工場の工程で使用されるケースもあるが、伊藤ハムや柏市保健所は、現在まで周辺にシアン化合物を用いた工場は確認していない。同社は「工場は昭和43年にできたが、周辺の『毒ガス室』は初耳」(広報・IR部)としている。

◇ 伊藤ハムは28日、原因究明のため、同工場の操業を29日から停止すると明らかにした。



2008.10.26 【シアン検出】公表まで1カ月 伊藤ハム「担当者の報告遅れた」

シアンを検出で深々と頭をさげて会見にのぞむ、伊藤ハムの山田信一・専務取締役・生産事業本部長(左から2人目)ら同社幹部 =25日、伊藤ハム東京事務所(奈須稔撮影) 25日夜、伊藤ハムの東京事務所で記者会見した山田信一専務は、9月24日に最初の検査の結果が分かり、異常値だったことを把握しながら、公表までに約1カ月を要したことについて、「迅速な対応をしていれば、問題のある商品が大量に出回ることはなかった。担当者も初めての経験で対応に苦慮し、報告が遅れたようだ」と釈明した。

 工場内の3カ所の井戸のうち1カ所に最初の検査が行われたのは9月18日。3カ月に1回行われる定期検査だった。その結果が出たのは9月24日で、基準値を超えるシアン化物イオンなどが検出されていた。

 ところが、10月7日に1年に1度の定期検査が行われることから、水質検査をする機械のメンテナンスの担当者は「本社への報告はその結果を待ってから」と判断。同工場の中川修工場長へ報告が行われたのは、7日の検査結果として基準値を超えるシアン化物イオンなどが再度検出された10月15日だった。

 山田専務は「工場を稼働してきた約40年の間、同様の異常が報告されたことはなかった」と強調。「現場の担当者は水ではなく検査機械の異常を疑ってしまった。直後にもう一度定期検査が行われるから、その後でよいと判断してしまった」などと説明した。

 また、中川工場長が異常を本社に報告したのは自らが報告を受けた1週間後の10月22日。中川工場長も記者会見で「緊急事態の対応に追われ、結果的に報告が遅れた。私たちの判断ミスだった」と述べた。