6、経営者も現場制作者ももっと広く市民の中に入り、視聴者市民との対話を強化すること
1)視聴者運動との対話を
この「提案」の“はじめに”で、受信料制度の維持はすぐれて理念的な運動であって、経済的利害によるのではない負担、という制度は、一種の巨大な市民運動を必要とするほどのものである、と指摘しました。もしそうであれば、NHKは「あるべきNHK」への改革を、もっと視聴者市民とともに進めることが求められます。そのために、今よりも更に徹底した情報公開を進めるとともに、視聴者市民との対話をいっそう重視してほしいと考えます。
「ふれあいミーティング」と名づけたイベントを各地で数多く開催して、きめ細かく視聴者の声を聴く活動が展開されていることは評価できますが、残念ながら、NHKに対して批判的な市民団体、市民運動に対しては対話が閉ざされているという印象がぬぐえません。
NHKが主催するイベントだけではなく、市民が自主的に開催する集会などにも、経営者、労組は、積極的に出席して、ヒザ突合せて議論する努力をもっとしてほしいものです。なぜなら、今NHKに批判的な市民運動の担い手の中にこそ、公共放送について意識的に考え、それが重要であることを主張する人びとが多いからです。
また、NHKの現場の制作者は、自ら制作した番組を持って市民の中で上映運動をするような活動を試みてほしいものです。そこで番組批判や、番組への要請を直接聴くことはNHKと市民との関係を深め、市民の要求を放送内容に反映することを大きく助けるでしょう。
2)労働組合への期待
これまで述べてきたような改革の提案は、NHK経営者の自覚的判断ではなかなか実現しないことが予想されます。
そこには、メディア労組がはたす役割が大きくあるはずです。とくに取材・制作者の権利保障の機構の創設などは、経営側が自主的に設置するとは考えにくく、メディア労組、NHKにあっては日放労が実力を背景に迫らないと実現は難しい課題でしょう。また、一つの放送局だけでの実現も困難が予想されます。全国のメディア労組の固い結束と共闘が望まれるところです。
人事権をもった上司に、職場で異議申し立てをすることは勇気のいることで、現在の職場の上下関係の中では極めて困難です。こういうときに、職場の上下関係からは相対的に自由であるはずの労働組合の存在は決定的に重要です。その意味で、2004年、数々の不祥事が明らかになったときに、日放労が当時の海老沢会長の辞任を組織として要求したことは、そうした闘いの一例であり、労働組合としての存在意義を示した行動でした。
真に国民のためのNHKを目指す運動において、労働組合の闘いの意義は大きく、視聴者市民との連携、メディア労組との共闘、連帯を強めながら、奮闘することを期待したいものです。
かつて日放労は、事あるごとに市民に訴え、外に出て世論活動を展開してきました。私たち視聴者市民の団体は、労働組合の主張の内容によっては、支持と支援を惜しまず共闘する用意があることを表明します。
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7、おわりに ~残された問題~
以上述べたことは、現場制作者や視聴者の権利保障を中心とした、放送法を変えなくてもできる限定的な提案です。
このほか、NHKのあり方をめぐっては、周知の通り重要な問題が数多く横たわっています。政財界から声が上がっている保有チャンネル削減、受信料支払い義務化、アナログ波の停止と地上デジタル化、といった問題、また地域放送局のあり方、「放送と通信の融合」の時代におけるNHKのあり方、国会でNHKの予算・決算の審議が行われる際、事前に政権政党の審議を経ている、という国会審議のシステムの問題、等々、検討すべき重要テーマは多く、放送を語る会の今後の研究課題にしたいと考えます。
そのうち、保有チャンネルの削減要求については、今年6月に発表された「デジタル時代のNHK懇談会報告」の主張に共感できるものがあります。同報告は、人びとの意識の多様化に対応して、NHKも公共放送にふさわしい多種、多様な番組構成を実現すべきだとして、チャンネル数の検討は冷静に行なうべきである、と主張しました。
私たちはこの視点に加え、現在NHKが保有しているチャンネルは、放送の公共性を実現できる場として、今、まがりなりにも確保されているのだ、という捉え方が必要だと考えます。
「NHKが保有するチャンネル」というより、わが国で視聴率やスポンサーの意向を顧慮せず放送できる波を、視聴者市民が可能性として持っているのだ、と考えてはどうでしょうか。
もし削減すれば、空いたチャンネルは市場原理、利潤追求の経済原理に委ねられる可能性があり、放送における公共性を実現する領域が狭められるおそれがあります。
チャンネルの削減ではなく、NHKが保有するチャンネルをどのように生かし、市民に開放し、利用できるようにするのかを先に検討すべきです。
NHK、民放がキャンペーンを強めている2011年の地上放送のデジタル化完全移行については、現在の受信機でテレビが視聴できないことへの不安が広がっています。
これは国策であって、電波・放送行政の責任ですが、視聴者の実態をよく知るNHKは、視聴者の立場に立って、行政に対し、この施策を強行せず、慎重にすすめるよう提言すべきです。
また、さらに重大な動きがあります。受信料支払いを現在の「契約義務」制から「支払い義務」制に変え、支払わない場合には罰則を科すという放送法改正の問題です。
「デジタル懇談会報告」は、この新しい制度が実現すれば、NHKが公権力の強制力によって維持・運営されることになる、とし、強く反対しました。
私たちの見解もこれに近いものですが、もし罰則つきの受信料支払い義務制になれば、極端に言えばNHKは視聴者の意見を聞く必要はなくなるわけです。政権政党がNHKを支持して、その経営方針、予算等を承認してくれれば安泰、ということになります。
現在の受信料制度では、本提案の5、で指摘したように、受信料支払い者はNHKに対し事実上無権利状態に置かれています。受信料の支払いを停止、あるいは留保することが、わずかに受信者主権の行使であるという状態です。
「支払い義務制」になれば、その重要な権利をも行使できなくなります。現在のような視聴者の無権利の状態をそのままにして、「受信料義務化」は論外というべきでしょう。
この提案をいったん閉じるにあたって、NHKのあり方に関心を持つ多くの市民に呼びかけます。ぜひ、団体、個人を問わず、NHKにたいする提言や要求を議論し、取りまとめ、NHKに提起する活動を展開して下さい。
いま、政財界と視聴者市民の間で、NHKを獲りあう「綱引き」のような状態が生まれているのではないでしょうか。
NHKを市民の側に取り戻し、ひきつける活動が必要です。その運動に、このささやかな提案が一つの刺激となれば幸いです。
1)視聴者運動との対話を
この「提案」の“はじめに”で、受信料制度の維持はすぐれて理念的な運動であって、経済的利害によるのではない負担、という制度は、一種の巨大な市民運動を必要とするほどのものである、と指摘しました。もしそうであれば、NHKは「あるべきNHK」への改革を、もっと視聴者市民とともに進めることが求められます。そのために、今よりも更に徹底した情報公開を進めるとともに、視聴者市民との対話をいっそう重視してほしいと考えます。
「ふれあいミーティング」と名づけたイベントを各地で数多く開催して、きめ細かく視聴者の声を聴く活動が展開されていることは評価できますが、残念ながら、NHKに対して批判的な市民団体、市民運動に対しては対話が閉ざされているという印象がぬぐえません。
NHKが主催するイベントだけではなく、市民が自主的に開催する集会などにも、経営者、労組は、積極的に出席して、ヒザ突合せて議論する努力をもっとしてほしいものです。なぜなら、今NHKに批判的な市民運動の担い手の中にこそ、公共放送について意識的に考え、それが重要であることを主張する人びとが多いからです。
また、NHKの現場の制作者は、自ら制作した番組を持って市民の中で上映運動をするような活動を試みてほしいものです。そこで番組批判や、番組への要請を直接聴くことはNHKと市民との関係を深め、市民の要求を放送内容に反映することを大きく助けるでしょう。
2)労働組合への期待
これまで述べてきたような改革の提案は、NHK経営者の自覚的判断ではなかなか実現しないことが予想されます。
そこには、メディア労組がはたす役割が大きくあるはずです。とくに取材・制作者の権利保障の機構の創設などは、経営側が自主的に設置するとは考えにくく、メディア労組、NHKにあっては日放労が実力を背景に迫らないと実現は難しい課題でしょう。また、一つの放送局だけでの実現も困難が予想されます。全国のメディア労組の固い結束と共闘が望まれるところです。
人事権をもった上司に、職場で異議申し立てをすることは勇気のいることで、現在の職場の上下関係の中では極めて困難です。こういうときに、職場の上下関係からは相対的に自由であるはずの労働組合の存在は決定的に重要です。その意味で、2004年、数々の不祥事が明らかになったときに、日放労が当時の海老沢会長の辞任を組織として要求したことは、そうした闘いの一例であり、労働組合としての存在意義を示した行動でした。
真に国民のためのNHKを目指す運動において、労働組合の闘いの意義は大きく、視聴者市民との連携、メディア労組との共闘、連帯を強めながら、奮闘することを期待したいものです。
かつて日放労は、事あるごとに市民に訴え、外に出て世論活動を展開してきました。私たち視聴者市民の団体は、労働組合の主張の内容によっては、支持と支援を惜しまず共闘する用意があることを表明します。
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7、おわりに ~残された問題~
以上述べたことは、現場制作者や視聴者の権利保障を中心とした、放送法を変えなくてもできる限定的な提案です。
このほか、NHKのあり方をめぐっては、周知の通り重要な問題が数多く横たわっています。政財界から声が上がっている保有チャンネル削減、受信料支払い義務化、アナログ波の停止と地上デジタル化、といった問題、また地域放送局のあり方、「放送と通信の融合」の時代におけるNHKのあり方、国会でNHKの予算・決算の審議が行われる際、事前に政権政党の審議を経ている、という国会審議のシステムの問題、等々、検討すべき重要テーマは多く、放送を語る会の今後の研究課題にしたいと考えます。
そのうち、保有チャンネルの削減要求については、今年6月に発表された「デジタル時代のNHK懇談会報告」の主張に共感できるものがあります。同報告は、人びとの意識の多様化に対応して、NHKも公共放送にふさわしい多種、多様な番組構成を実現すべきだとして、チャンネル数の検討は冷静に行なうべきである、と主張しました。
私たちはこの視点に加え、現在NHKが保有しているチャンネルは、放送の公共性を実現できる場として、今、まがりなりにも確保されているのだ、という捉え方が必要だと考えます。
「NHKが保有するチャンネル」というより、わが国で視聴率やスポンサーの意向を顧慮せず放送できる波を、視聴者市民が可能性として持っているのだ、と考えてはどうでしょうか。
もし削減すれば、空いたチャンネルは市場原理、利潤追求の経済原理に委ねられる可能性があり、放送における公共性を実現する領域が狭められるおそれがあります。
チャンネルの削減ではなく、NHKが保有するチャンネルをどのように生かし、市民に開放し、利用できるようにするのかを先に検討すべきです。
NHK、民放がキャンペーンを強めている2011年の地上放送のデジタル化完全移行については、現在の受信機でテレビが視聴できないことへの不安が広がっています。
これは国策であって、電波・放送行政の責任ですが、視聴者の実態をよく知るNHKは、視聴者の立場に立って、行政に対し、この施策を強行せず、慎重にすすめるよう提言すべきです。
また、さらに重大な動きがあります。受信料支払いを現在の「契約義務」制から「支払い義務」制に変え、支払わない場合には罰則を科すという放送法改正の問題です。
「デジタル懇談会報告」は、この新しい制度が実現すれば、NHKが公権力の強制力によって維持・運営されることになる、とし、強く反対しました。
私たちの見解もこれに近いものですが、もし罰則つきの受信料支払い義務制になれば、極端に言えばNHKは視聴者の意見を聞く必要はなくなるわけです。政権政党がNHKを支持して、その経営方針、予算等を承認してくれれば安泰、ということになります。
現在の受信料制度では、本提案の5、で指摘したように、受信料支払い者はNHKに対し事実上無権利状態に置かれています。受信料の支払いを停止、あるいは留保することが、わずかに受信者主権の行使であるという状態です。
「支払い義務制」になれば、その重要な権利をも行使できなくなります。現在のような視聴者の無権利の状態をそのままにして、「受信料義務化」は論外というべきでしょう。
この提案をいったん閉じるにあたって、NHKのあり方に関心を持つ多くの市民に呼びかけます。ぜひ、団体、個人を問わず、NHKにたいする提言や要求を議論し、取りまとめ、NHKに提起する活動を展開して下さい。
いま、政財界と視聴者市民の間で、NHKを獲りあう「綱引き」のような状態が生まれているのではないでしょうか。
NHKを市民の側に取り戻し、ひきつける活動が必要です。その運動に、このささやかな提案が一つの刺激となれば幸いです。