半径120cmのヨナシゴト

半径120cmのヨナシゴト

大人のオンナの日常。

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父の治療で要になるのはやはり抗がん剤治療です。

抗がん剤治療の副作用は人それぞれあるらしく、吐き気、下痢、食欲後退、脱毛などが
あると先生に説明されました。

治療1日目の夕方は『だんだん薬が効いてきてちょっと辛いなぁ』などと言っていましたが
自分の状況を実況出来るくらいだったので、まだ少し余裕はあるようでした。
ご飯は匂いで気持ちが悪くなるため一切口に出来ませんでした。

そして入院1日目という事もあり、夜中貧血をおこしてしまいました。

食事は2日目以降も口にすることは出来ませんでした。

3日目から抗がん剤が全身に回ってきたのか常に吐き気をもよおし、ずっと辛そうにしていました。
この日は母は病院に泊まり込み、父のそばにいました。
夜中じゅう父は吐き気に襲われていたようでしたが、全く食べていない父は胃液しか出ない
状態でもそれでも吐き気は落ち着いてはくれませんでした。

数日したら薬に慣れたらしく、入院後初めて自分から食べたいものをリクエストしてきました。
病院に行く前に私は父から頼まれたお菓子を買って会いに行きました。
2.3口しか食べられませんでしたが安心しました。

そしてその夜、父は母にメールを送りました。

『明日は煮玉子が食べたいので作ってきてください。』

病気や治療の辛さはいろんな欲をも奪っていきます。
人が生きていくのに大切な食欲が父に戻ってきました。
欲しいものを選ぶ元気が出てきました。

こんな当たり前の姿に泣きそうになるのです。

どんなに悲しい現実を言われても泣かないと決めたのに
こんな些細な事で私の涙腺は簡単にこわれるのです。



食欲も出てきて体の調子が良くなってきたので父は夜が暇になったようです。
ある夜、仕事が多忙で体調を崩していた私に父はメールを送りました。

『体調はいかがですか?あなたは昔から体が弱いので心配しています。
 お母さんも毎日の病院通いにストレスがたまっているようです。
 お母さんとテニスでもいってあげて下さいね。』

気持ちに余裕が出来たのでしょうか?この状況で父に心配をかけるとは思わず、
私はまだまだ子供だなと思いながら
何となく嬉しくなったのです。

『私は大丈夫です。意外と頑丈です。
 少し落ち着いたらお母さんとテニスに行きます。』


入院して初めて届いた父からのメール。家族を気遣ったメール。
父は何かを感じとったのでしょうか?

その夜母はひどくうなされていました。何度声をかけてもうなされ続けました。
やっと目を覚ましてどうしたのか聞くと、怖い夢をみたとの事でした。


毎日長時間の病院通い、毎日お見舞いに来る方への対応、それでも待ってはくれない仕事の締切。
そしてこの先への不安。

私は父が病気に勝つ未来しか想像がつきません。現実的ではないのかもしれませんが、
父がいなくなると考える方が今の私にとっては現実的ではないのです。
でもあるいは、そう考えることで自分を保っているのかもしれません。

しかし母はいろんな未来を受け止めています。

そんな気持ちをそばにいる父は感じとったのでしょうか。


お父さん、お母さんはもう大丈夫だよ。水を飲ませたらまたすぐ寝息をたててたよ。


夫婦の絆を感じた夜のお話。