ハンドルに持たれて待つ車内には、あなたのビタミンであるホソギの曲が流れる
日付が変わる少し前から始めたWLIVEを見ていた。
とても嬉しそうで、終始笑顔が絶えなかった。
それは当たり前のことよね。だって、あなたの誕生日を多くの人たちが、祝っているのだもの。
ギターの弾き語りで締めくくったあなたから、すぐにメッセージが届いた。
『今から帰るよ。』
『駐車場にいるわ。』
『え?先に帰ってなかったの?』
『待っていたくて。』
『ありがとう、すぐ向かうよ。』
『慌てないで来て。』
『ありがとう。』
Labを出たあなたは、お気に入りの黒のサンダルを履いて、早足で歩いて来る、きっとそう。
ハンドルから体を起こし姿勢を正すと、メーター横の時計が1分毎に数字を刻む。
ひとつ、ひとつ増えるその様子を見て、もしかして…
その瞬間に扉が開きあなたの姿が目に飛び込んで来た。
フロントガラス越しに手を振る私に、目元を細めて微笑むあなたは、扉を開き助手席に乗り込む。
「待っててくれてありがとう。」
そう告げる唇が優しく頬に触れる。
何となく予感はしていた。でも、本当にその時に来てくれたことが嬉しくて、あなたを包み込むように腕を回した。
「お誕生日おめでとう、ユンギ。」
お祝いの言葉と共に口づけを贈る。
「間に合った。」
「39分ね。」
「うん。」
その頷く笑顔は二十代を終えたとは思えないほど、堪らなく可愛くて、愛しい。
3と9と言う数字。
それは、あなたのお誕生日と私の生まれた時間にある数字。
ただそれだけと言えばそれだけ。
でも、そんな偶然はそう簡単なことではない。
そう思えるから、特別。
「運転代わる?」
「大丈夫よ。今日も仕事大変だったでしょ。少しでも休んで。」
「そう?それなら、お言葉に甘えて。」
目を閉じ前方を向いて座り直すあなたを確認して、車を走り始めた。
地下駐車場を出ると、思いのほか行きかう車の数が多く、ハンドルを握る手に力がこもって車体が揺れる。
あなたが不安になる運転はしたくないのに、ごめんなさい。
すると、あなたの手がハンドルを握る手に重なる。
「大丈夫?」
「え、あっ、大丈夫。」
ほんの一瞬のことなのに、あなたは私の緊張を感じ取る。
「大丈夫ならいいんだ。大丈夫なら。」
「休んでてって言ったのに、不安にさせたわね。」
手を重ね、瞳は閉じたまま、言葉を続けるあなた。
「ソルフェの運転に不安になったことなんてないよ。誰の運転よりも安心してる。」
「本当?」
「もちろん。」
「セジンさんや他の人たちの方が圧倒的に運転上手よ。」
「運転が上手いとか、そう言う問題んじゃないから。」
「そうなの?」
「そう。」
「なら、何?」
「何って、ソルフェが運転してるってこと自体に安心してるってこと。」
「私が運転してること自体?」
「そう、俺が全てを預けた人だから、そのあなたのすることに不安なんて一つもないんだ。」
「ユンギ…」
「着くまで寝るね。」
想いを告げたのに、何だか恥ずかしそうにするあなたが愛おしい。
「ええ、休んで。」
「ありがとう。」
「少し遠回りするわね。」
「なら、いつもの3倍くらいで。」
そう告げあなたの口元は、いたずら気にほんの少し右の口角が上がっていた。
「ええ、そうするわ。」
”いつもの3倍”
それが意味することに、私も思わず口元が綻ぶ。
夜この時間なら、社屋から住まいまでは13分。
3倍なら39分。
39分間の夜のドライブをして、そして私達の家に着いたら、改めてあなたのお誕生日を祝いましょう。