「聞いてよ!またあたしの勝ちだった。」
英語の小テストの勉強をしているアイリの前の席にどかっと腰を下ろしてあたしは言った。お洒落しか気にしてなさそうに見えるアイリだけど、なんだかんだ根は真面目だ。
「まだやってんの?」
綺麗な形の眉をつり上げてアイリは言う。
「付き合い始めたからもうやめたんだと思ってた。」
「なんで?」
あたしは聞く。
「なんでも何もないでしょう。」
アイリはあきれたように目をぐるりと回した。
「この世の中で彼氏と一か月間にもらったラブレターの数競争してる人なんてツバサ以外に一人もいないわよ。」
「なんで?」
またもやあたしは聞く。
「なんで?そんなの分かりきったことじゃない!彼氏が別の女子からラブレターもらってんのよ!気になんない方がおかしいわよ。」
「そんなものなんかなぁ。」
「逆になんで気になんないのよ。」
アイリがおたふくかぜに感染した人を見るような目であたしを見ながら言った。
「だってあたしがレンの彼女だもん。そうやって安心するために付き合うんじゃないの?」
「違うわ。無条件にデートに誘ったり手繋いだりできるように付き合うのよ。」
アイリの言ったことを少し考えてからあたしは言った。
「じゃああたしたちは新しい形のカップルだね。完璧にお互いを信頼しあってる。最強のカップルだ。」
「なんとでも言ってなさいよ。」
アイリが付き合ってられないという風に首を横に振った。
「自分の彼氏がもらったラブレターを誇らしげに見せてきたら、私ならフルわね。」
アイリが言った。
「っていうかここんとこずっとツバサが勝ってんのは単に周りの女子があんたに遠慮して沢渡に渡すのやめたからでしょ。案外知らないところでこっそりアピールされてるかもよ。LINEとかでね。」
「そんなの聞いたことないし!」
あたしは言い返した。
「今まではそれだって教えあってたし。それにさ、あたしだって彼氏できたんだから同じ立場じゃない?」
「ツバサは女子、同性にもらってんでしょ?そんなの彼氏が気にするって誰も思わないわよ。」
「まあ、そうだけどさぁ。でもあたしが女の子に惚れる可能性だってないことないじゃん!」
「でもそれよりレンがレイカみたいな絶世の美女に告白されてなびいちゃう可能性の方が高いじゃない。」
「レンは、見た目で判断なんかしないし...。」
少し自信がなくなって声が小さくなった。あたしだって、何ならあたしの方がレイカに告白されたらなびいてしまいそうだ。
「ま、私はどうでもいいわよ。好きにしたらいいと思うわ。人それぞれだしね。」
アイリはそう言って肩をすくめた。
本当にそうなのだろうか。付き合う、ということがいまいち良く分からない。一緒に登下校して、お互いを信頼しあって、たまに手を繋いでみたりする。こんなんじゃ駄目なのだろうか。あたしは付き合うっていうのは友達から親友に昇格するみたいな感じだと思っていた。親友に他に友達ができたって誰も気にしないじゃん?いない方がおかしいし。でも親友は自分だけ。そう思ってる、それだけで何が駄目なの?あたしには嫉妬っていう感情がいまいち良く分からない。独占欲とか。レンだっていつも楽しそうにモテ競争してるし、あたしが他の男子友達の話をしたって全く気にしてなさそうだし。お互いそうなら、それでいいんじゃないの?
「あ、ちなみに私の場合、モテ自慢をしてきたことに全く嫉妬しているそぶりを見せない彼氏もフルわね。」
アイリが思い出したように教科書から顔を上げて言った。
「あんたはどんな奴だろうがすぐフルんでしょ!」
あたしがそう言うのを聞いてアイリはまた肩をすくめて勉強に戻った。