東京ロッカーズ。

S-KENスタジオを中心に活動していた東京地方のパンクバンドの集合体ともいえるし、その集合体を中心とした一大ムーブメントのことともいえる。

ただ、自分がその東京ロッカーズのことを知った時にはその集合体としての活動はとっくに終わっていた。メジャーデビュー後のリザードの虜になり、リザードの歴史を追う中で知ったのだから仕方あるまい。

簡単におさらいすると、東京ロッカーズとは1978年、東京六本木のはずれにあった小さなビルの地下にオープンしたS-KENスタジオのオープニングギグ「パンク仕掛け99%」に出演したスピード、紅蜥蜴(後にリザードに改名)、ミスター・カイト、ミラーズ、フリクション、S-KENのうち、スピードを除いた5バンドがS-KENスタジオを中心に共同で活動を始めたことに端を発した、その後の東京に巻き起こった一大パンクシーンのことだと自分は理解しているが、この辺りのことはこのムーブメントの真っただ中で写真を撮り続け、後にインディーズレベルのテレグラフ・ファクトリーを立ち上げた地引雄一氏の著書「ストリート・キングダム」に詳しいので、興味を持たれた方は是非探してみては。


今回はこの東京ロッカーズの流れで出会ったいくつかのアルバムを紹介することに。


東京ロッカーズ/VA

S-KENの田中唯士氏のもちかけた企画話に乗ったCBSソニーからリリースされた、先の5バンドによる新宿ロフトでのライブを収めたオムニバスアルバムで、このアルバムのリリースをきっかけにこのムーブメントがさまざまなメディアで取り上げられ、その名を世間に広めることになる。


自分はリザードにのめりこむ過程でこのアルバムを知り、リザードの未聴曲、ロボット・ラブとレクイエムをとにかく聴きたくて購入したはず。リザード以外ではミスター・カイトのEXIT・B-9という曲が、東京という都会の風景の一場面を切り取って淡々と表現されているさまが好きだった。

また、このアルバムで聴くことができるフリクションのCOOL FOOLは後にリリースされた1stアルバムに収めたられたバージョンよりソリッドさが際立っていて、その名の通りクール!断然こちらの方がお薦めだ。



GOZIRA SPECIAL DINNER/VA

東京ロッカーズの流れから誕生した日本初(らしい)パンクロック専門レーベル「ゴジラ・レコード」からリリースされたシングルをコンピしたアルバムで、このレーベルの存在を知った時には、リリースされたレコードはどれも高値で取引されていて手が出せずにいたので、このアルバムのリリースは嬉しかった。


このレーベルの主催者ヒゴヒロシのバンドであるミラーズ、先にも紹介したMr.カイトの他、フリクション加入前のツネマツ・マサトシ、あの高木完が在籍していたフレッシュ、オートモッド結成前にジュネが在籍していたマリア023、後にロック・ライターとして名を馳せる鳥井賀句がボーカルを務めるPAINの曲が収められている、まさに垂涎のアルバム。

個人的にはオート・モッド以前のジュネがマリア023で、フリクション加入前のツネマツマサトシが、それぞれどんなサウンドを叩き出していたのか興味津々だった。

個々のバンド毎に聞く分には愉しめるが、アルバムのトータル感としては先の東京ロッカーズには及ばず、というのはあくまでも個人的な捉え方で、記録的な面からはとても貴重な一枚であることに間違いはない。

CD化に際し、PAINの曲が省かれているのが残念。



魔都/S-KEN

S-KENスタジオ設立者の一人であり、東京ロッカーズの仕掛人と言っていい田中唯士氏率いるバンド(この時はすでに個人として名乗ってたかも)S-KENのメジャーデビューアルバム。リザードのモモヨがサウンド・コーディネーターみたいな役回りで参加しているということで手に入れた一枚。


所謂パンク・ロック的なエッジの効いたサウンドではないが、都会の裏通りで繰り広げられる夜のストーリーを存分に味わえる貴重な一枚。

魔都っていう言葉の響き、ウルトラQのようなどこか鬱屈した都会の風景を感じるジャケットもクール。


これ以降のアルバムに手を出さなかったのは、彼の活動がパンクの流れとは違うものになっていたからなのか、単なる気分だったのかはもう忘れてしまったが、最近手に入れたセカンド・アルバムを聴いて、その時の選択はある意味正しかったかも、と感じたのは作品の出来とは別な次元の個人的な嗜好の問題ということでご容赦を。


Kiss-off/SPEED

シティロッカーレコードからリリースされた、今なお語り継がれる名盤。


今回紹介しているアルバムの中では唯一レコードを入手できなかったもので、当時、別の高校に通う友人から借りて録音したカセットテープを繰り返し聴いていたが、いつしかそのカセットテープもどこかへ消えてしまい暫く聴けずにいたシロモノ。レコードは今でも高値で取引されていて手が出ず、最近プライベート盤(本来あってはならない?)のCDをオークションサイトで見つけ格安落札。


当時はバンド名のとおりのスピード感たっぷりのパンクロックとして聴いていた記憶だが、今、改めて聴いてみるとスライダースやルージュ辺りのオーソドックスなロックン・ロールサウンドに近しい印象。

結成当初は村八分の青木真一も在籍していたはずだが、このアルバムのメンバークレジットにその名は残されていない。他のメンバーでは、Boy(Dr)とVanilla(B)は後にフリクションを脱退したツネマツマサトシとE.D.P.Sを結成(このバンドのファーストアルバムもかなりお勧め)、WakuはMrカイトへ参加している。



REBEL STREET/VA

東京ロッカーズというよりは、80年代初期のポスト東京ロッカーズのバンド群のナンバーを収めたオムニバス・アルバムで1982年にジャパン・レコードから発売された。


当時は、リザードのモダン・ビートのリミックスバージョンとゼルダの幻のシングル曲ソナタ815が聴けるということで発売時に即購入。

目当ての2曲よりもベースがリードする裏で静かに刻まれるリズムギター、曲の後半に重なる笛(もしかたらオカリナ?)の最小コンパクトなサウンドで聴かせる、女性2人組ユニットのロンドのシャンプーというナンバーの透明さが印象的で繰り返し聴いていた。

また、町田町蔵と連続射殺魔の和田哲郎(後に琴桃川凜に改名し活動)のユニットによるボリス・ヴィアンの憤りという曲で聴くことのできる町蔵から吐きだされる言葉の嵐が何を訴えているのか理解しようと繰り返し聴くも、結局わからずじまいだったのが悲しい思い出(笑)

他にも、ヒゴヒロシがミラーズ解散後に結成したチャンス・オペレーション、突然段ボール、E.D.P.S.、ノン・バンド、アレルギー、吉野大作&プロスティチュート、P-MODEL、アレルギーと豪華な顔ぶれ(あくまでも自分にとって)のナンバーが並ぶ。


アルバムジャケットの意味するところも知りたいところだが、何事にも知識不足のため今だ謎。


ROCKERS

最後は東京ロッカーズの熱狂ライブを映像で体験できる貴重な作品。


個人的にはリザードのモモヨがボーカルに専念する直前のギターを抱えて歌う姿を目にすることができたというだけで買った価値があった一枚。


ビデオからDVD化された際、ツネマツマサトシのモノと思われるレスポールJr.のジャケットから新宿ロフト前の光景に差し代わったのが残念であったが、代わり(?)にストラングラーズの演奏シーンが加わり完全版となったのはそれを上回るほどの喜びではあったかも。



東京という一地方(この場合、なぜか地方ということに拘る自分)の小さなスタジオに落とされたほんの一滴の雫が、音叉の如く増幅されて大きな波紋へと拡がっていった東京ロッカーズというムーブメント。これがなかったとしたら、現在の日本におけるパンク・ロック・シーンも大きく変わっていただろう。

いつか、また、どこかの地方からこんなムーブメントが起きないものかと何十年にも渡って秘かに願い続けている自分である。


今週も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。