8月15日。今年もこの日がやって来た。

正直なところ、毎年この日が来るたびに何かを思ってきたわけではない。
しかし、ここのところのさまざまな動きが妙に胸に引っかかるというか、嫌なものがそろりそろりと近づいてくる、あり得ないのだろうけど今にも軍靴の響きが聞こえてくるんじゃないか、そんな風に感じているせいで、今年は少し今までとこの日の捉え方が違っているようだ。

そんなわけで、今回は軍靴の響きを扱った曲をいくつか。


❶軍靴の響き/頭脳警察
タイトルもそのものズバリの「軍靴の響き」。
この曲が収められた頭脳警察セカンドが制作された1972年は戦後25年は過ぎていたものの、まだまだ戦争、戦後をリアルに感じていた記憶がある。
お祭りに行けば軍服姿の元兵士と思われる方がアコーディオンを弾いていたり、軍事将棋なんてものに熱中してたり、プラモデルも戦車やゼロ戦辺りが主流だった。

この曲で聴くことができる低音で歪んだベースが軍靴の響きそのものに聴こえるのは単なる思い込みなのか。



❷ミーシャ/リザード
シングル浅草六区にカップリングされたナンバー。
軍靴(ぐんか)という言葉を知ったのはこの曲の歌詞「砂漠に轟く軍靴の響き」でだったと思う。
ただ、最初は軍靴ではなく軍歌だと勘違いしていたのだけど。

頭脳警察の軍靴の響きから8年が過ぎた1980年、この曲のレコーディング直前に起きたアフガニスタンへの侵攻で感じた「あながたは戦争を愛してるのですか?」という個人的な疑問を素朴に歌ったものだとモモヨはその後に語っている。
↓浅草六区に続いてミーシャが聴けます



❸さらばベルリンの陽/セックス・ピストルズ
アルバム勝手にしやがれに針を下ろすとまず耳にするのが「ザッ、ザッ、ザッ」という軍靴の響きとそのあとに続くパワフルなギター。

この曲がピストルズの中で一番好きなのは、高1の時に初めて行った地元楽器店主催のアマチュアコンサートで友人のバントがこの曲を演奏していたというのが影響しているのは間違いない。

シドとベルリンの壁を訪れた時のスリリングな経験にインスパイアされた曲だとジョニーが語っている。
アルバムの中では数少ない、グレン・マトロック脱退後に作られたナンバーで、ザ・ジャムの「イン・ザ・シティ」をパクったとシドがポール・ウェラーに向かって堂々と語ったという。



❹BLUE RESISTANCE/THE MODS


さらばベルリンの陽同様、「ザッ、ザッ、ザッ」という軍靴の響きからギターに繋がるのはそれを意識してのことなのか。

モッズの作品の中でも突出して尖ったアルバムに感じるのは、この曲の印象がが大きいから。
これがミニアルバムじゃなくフルアルバムだったら・・・と当時残念に思った少年の思いは、25年以上の時を経てGang Rocker…Ifという形で実現された。



❺赤いラブレター/ARB

サウンドにも歌詞にも軍靴の響きは登場しないが、この曲が収められたアルバムBOYS & GIRLSの何曲かを取り上げて軍艦島で撮影されたショートムービーで、この曲を演奏するARBのライブを観ているオーディエンスにカメラアングルが移った時に軍靴を履く兵士の足元が映される。


この曲が終わり、会場の劇場を出てタバコに火をつける石橋凌の前を軍靴を響かせる兵士たちが過ぎていくのも印象的だった。

また、レコードでは「奴の大事なパトロンたちが」と歌われているところがショートムービーでは「奴の大事なアメリカたちが」と歌われている。もしかしたらこちらの方がそもそもの歌詞だったのかもしれないなと想像するのもこのショートムービーがあったからこそ。



戦地に赴いた祖父も、戦後、樺太から北海道へ引き揚げてきた戦中生まれの父ももうすでに鬼籍に入ってしまい、今となってはそれぞれの戦中の経験や思いを聞くことはできない。なんであの頃一緒に酒を飲みながらでも聞いておかなかったんだろうと今さら思ってみても後の祭り。

せめて今夜は刺身を肴に滅多に口にしない日本酒を呑みながら少しだけ祈ってみることにしようか。

平和な暮らしと刺身と日本酒は祖父のお気に入りだったはずだから。