ここのところは滅多にお目にかからないが、洋楽を聴き始めた70年代はアルバムタイトルも曲のタイトルも日本語(所謂邦題)のものが多かった。
当時は「なんでわざわざ邦題なんか付けちゃうのかなぁ、せっかくのタイトルが台無しじゃん」なんて思うことも多かったが、今となってはこれはこれで味があってなかなかなかだよな、なぜに最近は邦題をつけないんだろう?と思えてしまうのだから勝手なもんである。

ということで、今回は秀逸(?)なアルバムタイトル(邦題)から10撰。


まずはハードロック界から3タイトル。

■神(帰ってきたフライング・アロウ)/THE MICHAEL SCHENKER GROUP

スコーピオンズに続きUFOを去ったマイケル・シェンカーは自らのバンドで再びロックの世界に舞い戻ってきた。
そのデビューアルバムの原題はそのままTHE MICHAEL SCHENKER GROUP。
副題の「帰ってきたフライング・アロウ」は愛器フライングVを手にして再始動した彼をイメージしたものだというのは想像できたが、「神」の方は原題をただ訳したのだろうぐらいに思っていたのは友人に録音してもらったカセットテープで聴いていたから。

マイケル・シェンカーに憧れるファンたちは彼を「神」と呼んでいたのは後になって知ったこと。

リリース当時、すでに神と呼ばれていたのであれば納得。



■鋼鉄の処女/IRON MAIDEN

こちらもMSG同様バンド名をアルバムタイトルにしたもの。デビューアルバムのタイトルをバンド名にするパターンってのは多いですよね。
で、IRON MAIDENは人を串刺しするための拷問器具のことらしく、これをバンド名にしたようだが、邦題は単純にIRON(鉄)とMAIDEN(娘、乙女)の訳を組み合わせ鋼鉄の処女にしたのだろうが、鉄を鋼鉄に置き換えたこの邦題が怖々しいジャケットと合わせ、日本でのアイアンメイデンのイメージを強固なものにしたのでは?


■地獄への接吻/KISS

彼らの3枚目になるアルバムが日本ではデビューアルバムに。


原題はDRESSED TO KILL。殺すための服装ってことで、悩殺スタイルの服装を指すらしいが、ここで「地獄」というワードを使ったのは、地獄からやってきた野郎たちのようなイメージからだというのはこのアルバムの帯の説明からもわかるところ。
ここから「地獄」シリーズの邦題が続くのだから、初めに地獄を使った作者の貢献度はかなりのものだ。


6枚目のラブ・ガンで地獄が使われなかったときに落胆した日本のファンは多かったのではないだろうか。


続いて、少しアイドルチックに扱われていたバンドから。



■青春に捧げるメロディー/BAY CITY ROLLERS

当時のアイドル系ロックバンドの邦題に「青春」の文字が使われていた率はかなり高かった。B.C.Rはその中の筆頭株。このアルバムの前にも青春のアイドル、青春の記念碑と原題とはまったくかけ離れた青春の文字が使われていた。


このアルバムの原題はDEDICATION。直訳すると「献身」。これを青春に捧げるメロディーとしたのは、当時加入したばかりのイアン・ミッチェルが歌う同名タイトル曲の歌詞「This song I want to dedicate to you」の訳、「この歌を君に捧げたい」からなのだろう。
イアン・ミッチェルがB.C.Rを脱退して結成したロゼッタ・ストーンのデビューアルバムのタイトルも「青春の出発」と青春が使われていたのを思い出す。

 
■天国の罠/CHEAP TRICK 

チープ・トリック第3弾のアルバムタイトル原題はHeaven Tonight。直訳すると「今夜、天国へ」というところだろうか。

これをバンド名のTRICKと掛け合わせ「天国の罠」としたセンスは秀逸じゃなかろうか。罠の持つ響きと文字を目にしたときに沸き立つイメージがピッタリくるように思える。帯に書かれたタイトルの罠の文字の横にわざわざトリックと小さくルビをふっているのはどうかなと思うけど。


アルバムに収められている同タイトル曲はまんまヘヴン・トゥナイトとなっているのも解せないところ。



■苦悩の旋律/JAPAN

ジャパンのセカンドアルバムの原題はOBUSCURE ALTERNATIVES。訳すと曖昧な代替案。

なのに苦悩の旋律という邦題が付いたのは、1作目の「果てしなき反抗」に続きアイドルバンドとして売り出そうとした日本のレコード会社がとったイメージ戦略からくるものだろう。
事実彼らが本格的なロックバンドとして認知されていくきっかけとなった3作目「QUIET LIFE」以降は、このような邦題が付けられることはなくなったし。


ここからはパンク関連の4枚。



■すべての若き野郎ども/MOT THE HOOPLE

解散の危機にあったこのバンドを救おうとデヴィッド・ボウイがプロデュースを務めたことでも有名なヒットアルバムの原題はALL THE YOUNG DUDES。
同タイトル曲はそのデヴィッド・ボウイの手による彼ら最大のヒット。
邦題もこれをそのまま訳したものだが、DUDESを「野郎ども」としたのがセンスということなんだろう。これを気取り屋たちとか別の言葉にしていたらその後のパンクバンドの邦題もまた違ったものになっていたはず。
クラッシュのミック・ジョーンズも彼らをフェイバリット・バンドとして挙げていたんじゃなかったけか。

今回紹介している中で唯一手元に残っていないアルバムで、なぜに手放したのかは謎。


■地獄に堕ちた野郎ども/THE DAMNED

ロンドンパンク初のアルバムとしても有名なダムドのデビューアルバムもバンド名をタイトルに。


このDAMNEDを訳すと「くそったれ」というところか。
このくそったれたちのイメージを「地獄に堕ちた野郎ども」という言葉にして表したのだろうが、これもフープルの「すべての若き野郎ども」という邦題があったからこそのタイトルなのではと容易に想像できる。


■動乱(獣を野に放て)/THE CLASH

クラッシュのセカンドアルバムの原題はGIVE’EM ENNOUGH ROPE。訳すと勝手にさせておけということらしいので、どちらかというと副題の「獣を野に放て」の方が原題訳に近いのかも。

これを「動乱」としたのは、当時の政治情勢などを慮ってということなのだろうか。この辺の邦題の意味に迫る寄稿を目にしたことがないのが残念だが、言葉から様々な状況を想起させるという点ではなかなかなタイトル(邦題)かも。


このアルバムに収められた「ALL THE YOUNG PUNKS(すべての若きバンクスども)」がモット・ザ・フープルの「ALL THE YOUNG DUDES(すべての若き野郎ども)」に触発されてというのはタイトルからも一目瞭然。フープルの邦題が違っていたらこちらも変わっていたのだろう。


また、ザ・モッズの「PRISONER(野獣を野に放て)」という曲がクラッシュのアルバムタイトルに感化されているだろうことも、こうして見ていくと興味深い。



■勝手にしやがれ/SEX PISTOLS

あまりにも有名すぎるピストルズのデビューアルバムの「NEVER MIND THE BOLLOCKS」。

くずはほっとけ、とか、金玉のことは気にするな、となるらしい。少しだけクラッシュのセカンドのタイトルにも近しいのが面白いところ。


それにしても邦題を「勝手にしやがれ」としたのには脱帽。これが別な訳し方であったのならば、ピストルズの日本のパンクスに与えたイメージもかなり違ったものになったのではないかと思えるほどの傑作タイトル。



さて、今回の日本語タイトル(邦題)はどうだったでしょう?


かつての自分のように、邦題はいらないとか思われている方もたくさんいらっしゃるでしょうが、邦題がなかったらちょっとだけつまらなく感じてしまうのは、レコードやCDに帯がないとどうにも落ち着かない気分になってしまうのにも似ていて、日本人特有の粋にも繋がるのではないか?という自説をもって、今回はこの辺で・・・。