パンクスにロカビリー好きは多い。
クラッシュのポール・シムノンがロカビリーを敬愛しているのは有名な話で、ロンドン・コーリングや、クラッシュ解散後に彼が結成したハバナ3AMのサウンドにそれは顕著に表れている。
かくいう自分もロカビリー好きかというと、嫌いではないしどちらかというと好きな方であるのは間違いないのだが、深く追い求めるほどでは全くない。
手元にあるCDも初期のプレスリー、ストレイ・キャッツの1st、エディ・コクランのベストに、コンピ、数枚のジャパニーズロカビリーバンドくらいなもの。
そんな中にあってベストオブロカビリーアルバムといえば、ジャパニーズ・ロカビリー・バンド、ブラック・キャッツの1st「クリーム・ソーダ・プレゼンツ」だろう。
このアルバムが発売された1981年といえば、どいつもこいつもクリームソーダのコームを学ランの内ポケットか尻ポケットに突っ込んでいるくらい、ちょっと不良ぶるのが最先端のような時代だった。
その原宿にあったロカビリーショップ「クリームソーダ」の店員6名で1981年に結成されたのがブラック・キャッツで、メンバーのほとんどが初めて楽器を手にしたところから始まったというこのバンドが、結成からそれほど時を経ずにデビューしていること、L.Aのチャイナクラブでデビューライブが行われているのは大きな驚きだ。
また、バンドが練習の場として使っていたロフトが、かつてキャロルがデビューを飾った伝説のロックンロールカフェ怪人二十面相だったというのも彼らの歴史に華を添えているのではないだろうか。
50’Sの雰囲気一杯のポップなイラストがジャケットのアルバムは、ジニー・ジニー・ジニー、サマータイム・ブルース等の超有名ナンバーのカバーと、彼らのオリジナル曲がほどよくミックスされていて、誠一のしゃくりあげた甘いボーカルが満喫できるオープニングナンバーから、それとは真逆のボーカルスタイルのオットーが唄うラストナンバー、タイトルもズバリ「ブラック・キャッツ」まで飽きることなく一気に楽しめる1枚になっている。
中でもラブ・ストーリー、カバーガール、シンガポール・ナイト、LOVE IS BLINDなどに見られる、甘く、切なく、胸がキュンとなるような10代にしか味わえない、夏の日の恋の唄がこのアルバムの世界観を創っていると自分的には捉えている。
僕の彼女は いかしてるんだぜ
そんなに美人じゃないけれど
とてもかわい My Sweet My Baby Girl
<LOVE IS BLIND>
美人じゃなくても可愛く思える、そう、これが恋だよ。
この感じは、ルースターズの「GIRL FRIEND」によく似ている。
シルクのドレスがよく似合う
あの娘がおいらのガールフレンド
そんなに美人じゃないけど
とってもかわいく笑ってみせる
<GIRL FRIEND by THE ROOSTERS>
誰がなんと言おうとロックン・ロールにはありきたりのラブ・ソングなんかじゃなく、こんな感じの恋の唄じゃなきゃダメなんだ。
わかってもらえるだろうか・・・
もう1曲、シンガポール・ナイトは、クリーム・ソーダやピンクドラゴンの創業者として有名な山崎眞行氏がオープンさせた同名のカフェを舞台にした恋の唄。
OH,BABY 今夜もあの娘と
シンガポール・ナイト
街のはずれの こいきな
フィフティーズ・カフェ
ドアを開ければ
流れるロックン・ロール
だからごきげん Feel So Happy
<シンガポール・ナイト>
このアルバムがリリースされた当時、僕にもよく通っていたカフェPがあった。
今夜もあの娘とじゃなく、放課後に仲間と。
街の外れというか中心街から少しだけ外れた50’sといえば50’sな感じのカフェ。
流れるのはロックン・ロールの時もあったし
行けばなんてことのない時間が流れていただけのことだったのだけど、今思い返すとそれはなんともゴキゲンな時間が流れていたのだった。
シンガポール・ナイトを聞くと、あの頃のPで多くの仲間たちと過ごした時間が、夏の日の2人の恋の風景と交互に僕の脳裏に寄せては返す。
だから今でもブラック・キャッツといえばVIVIENEでもHEAT WAVEでも東京ストリートロッカーでもなく、甘酸っぱかった夏の日の夕暮れの日々のような時間を味わえるクリーム・ソーダ・プレゼンツと決まっているのだろうと思うのだ。
最後に、ブラック・キャッツを通してロカビリーとパンクが繋がる興味深い話を。
世界的にも名を馳せたブラック・キャッツではあるが、メンバーは普段は相変わらずロカビリーショップ「クリームソーダ」の店員として働いていた。
ある日、そんなブラック・キャッツのメンバーを訪ねてショップにやって来たのがクラッシュの面々(!!)。自分たちはブラック・キャッツのファンだと言い、その場で5年分の会費を払ってブラック・キャッツのファンクラブに入会したという。我々日本人が英国や米国のバンドに憧れるように、その逆もあるんだと改めて思い知ることになる、あまりにもいい話ではないか・・・。