30年以上バンドを続けていると当然それなりの歴史が刻まれる。バンドが辿ってきた足跡、そこに辿り着いたときの彼らの横顔。
今回はそれらを追ったドキュメント映画を劇場で公開されたものに絞って紹介。
劇場版SAサンキューコムレイズ
出演:SA(TAISEI NAOKI KEN SHOHEI)、コムレイズ
結成から30年。一時活動を休止した後に新たなメンバーで再始動してから14年でようやく日比谷野音でのライブに辿り着いた不屈のパンクバンドSA。
本作は、当時無謀とも言われた彼らの野音ライブ(2015年7月11日)挑戦に密着したドキュメント映画。
第一部(UNDER THE FLAG)はリハーサル、ライブ当日のメンバーの様子にライブを織り交ぜて。
第二部(UNDER THE SKY)はライブにファン(コムレイズ)の姿を織り交ぜて。
なお、第一部の主演はSA、共演はコムレイズ、第二部は主演コムレイズ、共演SAとなっているところにも制作側の熱い思いが感じられる。
第一部の劇中、楽屋に入ったTAISEIが「ステージ見てこようかな」と呟いて設営準備中の会場へ。その観客席からステージを見ながら「すげーな、よくやったよ」、「ゴールがないなんて辛いじゃん。一つのゴールのテープは切らなきゃいけないと思ったし、一回はゴールした方がいいと思ったし。だから次があるんじゃないかな。まだまだここで終わるわけじゃないからさ。でも、よくやったなぁ」と語る。
この場面に出会うだけでもこの作品を見る価値は大きい。長く続けりゃいいってもんではないが、誠実に活動を続けてきた長い道のりの先に辿り着いた一旦のゴール。それを迎える彼らの心境は彼らだけにしかわからないものであり、我々にとっては計り知れないものではあるのだが、TAISEIのつぶやくように語る言葉の重さに、自分の人生はどうだったのか、よくやったよと自分に語りかけることができる人生を歩んできたのか、と感じずにはいられない。
自分たちのバンドのツアー中にわざわざ駆けつけた怒髪天のメンバー、楽屋を訪れNAOKIと抱き合うラフィンのチャーミー、ポンが映し出される場面にも涙。
DVDとして発売されたものは第一部、第二部に加え、映画本編とは違った編集で制作されたライブを完全収録したBRING ON FINAL(結)があり、怒涛の3枚組、TOTAL286分に及ぶ。
30周年で一つのゴール迎えた彼らは翌年まさかのメジャー契約を果たし、新たなステージで新しい歩幅で歩み始めた。
50歳を過ぎたって、いや50歳を過ぎてこそ、挑戦を続けていくことが大事なんだ。
さらば青春の新宿JAM
主演:THE COLLECTORS(加藤ひさし 古市コータロー 山森”JEFF”正之 古沢”cozi岳之)
出演:會田茂一 岡村詩野 片寄明人 黒田マナブ THE BAWDIES 真城めぐみ 峯田和伸 リリー・フランキー The NUMBERS!
声 :曽我部恵一
1980年にオープンした新宿の老舗ライブハウス「新宿JAM」。東京モッズシーンの聖地と謳われていたそのライブハウスが2017年12月31日、37年の歴史に幕を下ろした。
ここを出発点にメジャーデビューを果たし、閉店と同年の2017年3月1日に日本武道館でメジャーデビュー30周年記念ライブまで開催するに至ったコレクターズ。
彼らが12月24日行った新宿JAMでのラストライブ、その前後のコレクターズのメンバーの姿に、新宿JAMを中心とした東京モッズシーンやコレクターズに関わってきた多くのミュージシャンや著名人のインタビューを織り交ぜたドキュメント映画。
「別に好きで新宿JAMでやってきたわけではない」、「あの人、新宿JAM嫌いだったんじゃないかな」などと語りつつも、ライブに向け、当時と同じ衣装でライブを行うためにわざわざ京都のショップで黒のスーツを新調する加藤ひさしと、同じくフレッドペリーのショップでステージで着るポロシャツをどれにしようかと悩む古市コータローの姿。
長くアルコールを断ち武道館でのライブ後でさえビールを口にしなかった加藤がラストライブ終了後の楽屋で「まっいいか」と言ってビールを飲む姿。こんなちょっとした場面から、なんだんかんだと言いながらも新宿JAMへの確かな熱い思いが伝わってくる。
それとは逆に、閉店した後のビルの様子を見る加藤とコータローの思いのほかすっきりした様子からは、過去に縛られず常に前へ前へと進んできたロックバンドとしての自信を垣間見ることができる。
また、愛車のベスパをライブ当日に向けてカスタマイズするためバイクショップに向かったり、自宅でモッズを特集した当時の雑誌ポパイを片手に当時の日本のモッズシーンの状況を語る加藤ひさしなんかは何度観ても飽きないしモッズ愛が確認できるところ。
この映画、固い絆で結ばれたメンバーがいるバンドこそが長く地に足がついた活動を続けることができるではないかと思わせるほど、加藤ひさしと古市コータローの熱い関係性(でも決してべったりとはしていない)が伝わってくるのも一つの見どころ。この辺はストーンズのミック&キース然り、モッズのモリヤン&キーコ然り、SAのタイセイ&ナオキ然り。
リハーサル前のスタジオで、オークションサイトであれを落としたとか、中田商店にあのサイズがあるとか語り合うシーンはそんなメンバーの関係性が見ることができる隠れた名場面。
タイトルは当然ながらモッズ映画の最高峰「さらば青春の光」のオマージュなのだが、東京モッズシーンの重鎮黒田マナブが「さらば青春の光」をこの邦題でははなく原題の「QUADROPHENIA」と表現するとこなんかは、それぞれの拘りも垣間見れて少しだけクスッとさせられたりする。
Blu-rayとして発売されたものには特典映像としてライブ映像全編とカーナビー・ストリートのモッズショップやモッズ・ミュージカルに潜入する加藤も観ることができDVDより断然お薦め。
この映画好きすぎて●●オクで映画のチラシまで手に入れてしまったし、酒が入る休日前の夜にはついついBlu-rayのパッケージに手が伸びてしまい、なかなか他の未見の映画を観ることができないのが目下の悩み。
元在籍していたメンバーへのインタビューなんかがあったら更に楽しめたかも。
照和 My Little Town KAI BAND
監督:フジカツマサカツ
出演:甲斐バンド(甲斐よしひろ 田中一郎 松藤英男) 千葉和臣(海援隊) 森山達也(THE MODS) 陣内孝則(THE ROCKERS)
語り:大森南朋
デビュー35周年を迎えた甲斐バンドが2010年4月、彼らの原点とも言うべき博多の伝説のライブハウス"照和”で行った、わずか60席、3日間で合計約300名の観客しか体験することができなかった歴史的ライブの映像にバンドのメンバーや森山達也(THE MODS)ら“照和”出身アーティストのインタビューを交えたライブ&ドキュメンタリー映画。
ライブハウスのスタッフとして働いていた甲斐よしひろが語る当時の照和や博多ロックシーンの様子はなかなか興味深い。ただ、先に紹介したさらば青春の新宿JAMと同じような形態の映画ではあるのだが、甲斐の語りやライブ映像からはコレクターズの映画のような”熱さ”が伝わってこないのはなぜなのか。
ただし、海援隊の千葉和臣、モッズの森山達也の語る姿からは彼らの誠実さが伝わってくる。
個人的には森山達也が語る当時のバンド「開戦前夜」での出演オーディションの話、見る側に決して気づかせないのだが、彼の表現者としてのこだわりからくる語り方、語る際の仕草、衣装なんかを見ることができるだけでも価値があった映画。
そういえばこの映画だけはしっかり映画館で観たんだっけ。そこは甲斐バンドファンというよりモッズファンとしてのこだわりか。
映画館で観たときの印象からモノクロ映画として記憶されていたのだが、DVDを買って再度見てみたら以外にもカラフルな映像だったという…。
甲斐バンドファンなら必見の映画ではあります。自分も甲斐バンドファンですよ(笑)
あっちゃん
監督・編集・撮影:ナリオ
主演:イノウエアツシ(ニュー・ロティカ)
出演:歴代ニューロティカメンバー 蒼井そら 綾小路翔 大槻ケンヂ 石坂マサヨ まちゃまちゃ ヒカゲ ポン 増子直純 宮田和弥 井上綾子(母) 他
2014年に結成30周年を迎えたパンクバンドのニューロティカ。映画の主演でバンドのフロントマンあっちゃんことイノウエアツシのステージでのピエロ姿は一度見たら誰もが忘れられないはずだ。
2015年に公開されたこの映画は元メンバーや彼らに近いミュージシャン、著名人のインタビューを交え、そのバンド活動でのメンバー同士の確執やあの頃のバンドブームの裏側にも迫るとともに、バンド唯一のオリジナルメンバーでありながら家業のお菓子屋「藤家」さんの若旦那としてのあっちゃんの日常をも浮き彫りにしたドキュメンタリーとなっている。
あっちゃんのドキュメンタリーが映画に、しかも劇場で上映!とびっくしたのだが、制作資金はクラウドファンディングで当初の目標金額375万円を大幅に超える940万3669円という驚愕の金額が全国のファンから集められたということだ。
本作は先に紹介した3作とは異なりライブ映像はほんの少しだけで、あっちゃんの家業を中心とした普段の暮らしとバンドの元メンバー、関係者のインタビューを軸に構成されていると言う。
かつてメンバー同士の確執があったとはいえ、映画には歴代メンバーがこぞってインタビュー出演しているし、彼らがあっちゃんを語る姿からはニューロティカ、あっちゃんへの愛が確実に伝わってくる。
雑誌やリリースされたバンドの作品からはあっちゃんの陽の部分ばかりがクローズアップされがちだが、この映画ではどちらかというと彼の人生(家業、バンド等々)に対する厳しい姿勢の部分を感じずにはいられない。公開後発売されたDVDのパッケージ裏面にも記されているが「パンク=生き方」ということを教えてくれる作品に仕上がっているのだ。
ニューロティカファン、パンク好き以外の方にも是非観ていただきたいパンクな名作である。もちろんパンク=生き方という意味で。
しかし、甲斐バンドは別にして世間的にはメジャーではないバンドが映画に、しかもしっかり劇場公開されるとは、製作側の熱い思いと挑戦する姿勢にただただ頭が下がるところだ。