組織は常に変化に対応していかなければ衰退の道をたどる。現状維持は退化とイコールで、変化することが常態でなければならぬ。
会社勤めの僕が呪文のように自分に言い聞かせていること、いや、言われ続けているというのが正しいのか。

バンドやミュージシャンはどうなんだろう??
作品毎に自ら変化を求めているバンド、事務所やレコード会社から変化を求められるバンド、前作が売れたからあえて変化しない、変化することを止められるバンド。様々か。

ということで、ある変化、路線の変更がその後のターニングポイントとなったであろうバンドのアルバムをいくつかピックアップ。

まずは、ARBの「ONE and ONLY DREAMS」


オリジナルメンバーの田中一郎が脱退しギターがバウワウの斉藤光浩に変わったときは、ハードロックバンドのボーカリストがARBのギタリストに??と驚いたものの、それまでのソリッド感は失われずに、というかそのソリッド感に石橋凌のいうところの「色」が加わり、自分の期待を大きく上回る(どんな期待だ!というのは置いといて)作品を数多く残してくれた。


その光浩も脱退し、後任ギタリストが元モッズの白浜久と聞いたとき、少しだけ不安を感じたのは正直な気持ち。
というのも、デビュー前のモッズに在籍していた白浜久がソロデビューということで、当然モッズに近いサウンドを期待して購入したファーストアルバムが所謂めんたいビートと言われていたサウンドからは大きくかけ離れたものだった、という経験からさほど時間が経たないうちでのARB加入で、あのサウンド感がARBにも持ち込まれる??といった危惧が頭を過ぎったのだ。


いや、彼のデビューアルバム「NON FICTION」は自分の期待と切り離して聴くと素晴らしい内容で、今でも年に何回かはターンテーブルに置くお気に入りではあるのだが、当時は当然ながらそれまでのARBサウンドとはちょっと、いやかなり違うものになるんじゃないかと肝を冷やしたのだ。


ただ、「NON FICTIONN」で歌われたリアルな世界観はARBがそれまで表現してきたものに近いものではあったし、石橋凌は田中一郎脱退以降常々ARBのサウンドにもっと色を付けたい、みたいな発言を繰り返していたのでその辺りを更に求めての白浜久加入だったということは今なら理解できること。


で、白浜久加入後すぐに発表されたアルバム「ONE and ONLY DREAMS」は予想通りそれまでのソリッド感が際立っていたギター主体のサウンドからは大きく転換し、コアなファンの間で大きな物議をかもした。
それでも白浜久加入以降のARBは日本武道館や代々木競技場でもライブを行えるようになり、「大会場中毒」なんてコピーが使われるほど大きなバンドになっていったのだから、バンドとしては(というより石橋凌にとって?)白浜久加入による変化は大成功だったと思われる。 


ちなみにこのアルバムのラストナンバーとして収められている「灰色の水曜日」は自分の中で白浜期のベスト3に入る名曲。シングル盤になった「Private Girl」もヒットしてもおかしくなかった佳曲(この曲で夜のヒットスタジオにも出演したし)です。

続いてルースターズの「DIS」


R&Bサウンド中心のファースト「ザ・ルースターズ」、R&Bにロックンロールのポップ感が加わったセカンド「ROOSTERS A-GO-GO」、そしてパンキッシュなサード「インセイン」と、ある意味わかりやすい変化を見せてきたルースターズが4枚目としてリリースした「DIS」は、パンキッシュなサウンドからは一変し、サイケデリックなナンバーが並ぶアルバムとなった。


ドラムでオリジナルメンバーの池畑潤二の脱退、サポートメンバー(その後Z期の正式メンバーとなる)として加わった下山淳、安藤広一の影響もあったのだろうが、ボーカリスト大江慎也が映画「爆裂都市/バーストシティ」への出演をきっかけに精神的変調をきたしたことが大きく影響したのは明らかだ。

彼の不安定な状態がそのまま表れたサウンドは、それまでの疾走感はすっかり消え失せ、フォーキー・サイケデリック・ロックなんて言われることになった。


この前のアルバム「インセイン」B面の2曲、CASE OF INSANITYとIN DEEP GRIEFでその予兆は見られたものの、そのサウンドの大きな変化にはかなり驚かされたのだが、その後の「GOOD DREAMS」、「φ」の2枚と合わせて、結構気に入っているアルバムではある。


この変化でひとつだけ残念なのは大江慎也のボーカル自体がライブだけではなくレコードトラックの中でも徐々に不安定になっていったこと。
まぁ、そんなところは抜きにしてルースターズはアルバム毎に変化していくサウンドを大いに楽しめる稀有なバンドでなのである。



最後に意外なところでハードロックバンドBOW WOWの「GLORIOUS ROAD」



芸能プロダクションが売れるロックバンド(この辺はARBの結成と似通っていますな)としてメンバーを集めたバウワウ。

リードギタリストとして選ばれた山本恭司の影響が大きかったようで、本格的なハードロックバンドとして認知されていくことになる。

エアロスミスやキッス日本公演のフロントアクトを務めたり、「吠えろ!バウワウ」、「SIGNAL FIRE」、「CHARGE」の初期3枚から、コアなハードロックファンを獲得していくのだが、結成のいきさつからわかるとおりバンド運営の主体はプロダクション/事務所側ということもあり、中期に入ると次第に歌謡ロックと呼ばれる方向へ路線が転換され、1980年2月にリリースされた5枚目のアルバム「GLORIOUS ROAD」は目を覆いたくなるくらい雑誌のレビューでもかなり酷評されていて、ハードロックファンでもない僕ですらその方向転換に大いに興味をそそられた記憶がある。


あれから長い時間を経て再発されたこのアルバムを購入して聴いてみた。

確かにポップなサウンドで歌詞も歌謡曲的な内容であるにはあるが、大仰に「売れ線狙いの歌謡ロックに寝返った」と言われるようなものではなく、逆にハードな面とポップな面がうまくミックスされた良盤であると感じたのだが、当時のロックファンの空気感はこういう変化を許さなかったのだろうな。

今の時代なら、というか、ロックを聴き続けて歳を重ねてきたファンが多い今なら許されたのではないだろうか。


この手のサウンド、自分は好き。

他にも路線転向が良い方向にはまったレイジーの「宇宙船地球号」や、バウワウ同様多くのロックファンからひんしゅくを買ってしまったパンタの「KISS」、「唇にスパーク」あたりも紹介したいとろであるが、それらは次の機会に。



自分としては、仕事も音楽も常に変化を志向しつつ、普遍的に変わることのない芯(ベース)の部分があるというのが理想かな。