デビュー以来ずっと追い続けてきたモッズのアルバムといえども収められた楽曲の内容、ジャケットワーク、アルバムタイトル等トータルで「やられた!」となるものはそんなに多くはない。

僕にとってはファーストアルバムの”FIGHT OR FLIGHT”、ミニアルバムの”GANGROCKER”、久しぶりの土屋正巳プロデュース”F.A.B”、アンチノス移籍後初のアルバム”KILBURN BRATS”、ROCKAHOLIC設立第一弾の”NO EXCUSE!” あたりがその「やられた!」に当たるのだが、モッズ30周年イヤーの2011年に発表された”LIKE OLD BOOTS”は久しぶりにトータルで「やられた!」となった1枚。

タイトルの”LIKE OLD BOOTS”を訳すと「徹底的に、激しく、けんめいに」。
ジャケットはメンバー個々のライブショットを中心にトータル10枚のフォトがバランスよく散りばめられ、そこに配されたアルバムタイトルとバンド名はあのビートルズのバンドロゴと同様のフォント文字で思わずニヤリ。
歌詞カードには各メンバーの写真が1ページ毎に割り与えられ、最後にステージの4人。
そして古いレコードを模したCDメディア。
否が応でも聴く前から(本当は針を落とす前からって表現したいとこ)期待が高まってしまうってものだ。

1曲目の”DOG & PONY SHOW”はモッズのアルバムのオープニングナンバーとしてはソリッドさ激しさはない所謂オーソドックスなロックンロールナンバーなのだが、歌われている内容はタイトル通り政治や世の中の茶番を歌っていてクール。

続く2曲目の”BABY ONE MORE CHANCE”も60年代のブリティッシュロックを感じさせるR&Bタイプの色恋の歌。森山達也もインタビューで「こういう曲は難しい内容を歌ったりしちゃダメ」と語っている。
しかし次の”STOP BREAKIN’TIME”では一転してシリアスに世界の危機的状況が歌われる。この曲のPVは広い草原の中で演奏する4人のメンバーがたまらないほどカッコよく、またその演奏風景と都会の風景が交錯しながら進んでいくところがクールな作品に仕上がっていて一見の価値あり。
5曲目”HOW MANY TIMES”は「何度、唇噛めば/お前にたどり着ける/何度、涙超えれば/サメない夢が終わる/まだここにいる俺さ」の歌詞が心に沁みすぎてしまうバラードナンバー。
7曲目”MONKEY BUSINESS”は30年間ロックの世界で暮らしてきたからこそのロックビジネスの辛さと愛着が歌われる1曲目に続くオーソドックスなロックンロールナンバー。
9曲目”スカでぶっ飛ばせ”はタイトル通りスカのリズムが小気味よく刻まれるナンバー。モッズではレゲエタイプの曲はよく演奏されるのだがスカのナンバーが収録されるのは案外珍しいかも。
10曲目”KISS KISS”は苣木教授が歌うフォーキーな佳曲。この何年か後にリリースされたソロプロジェクトDUDE TONEの傑作アルバム”十字路のGuitar”に繋がる一曲ではないだろうか。
そしてラストはメロディー、歌詞ともに深く胸に突き刺さる”ROCKAWAY”。

ライブのラストナンバーとして歌われることが多い”LOOSE GAME”に匹敵する名曲が遂に!と聴いた瞬間に思ったほどの名曲中の名曲。陳腐な言い方になるがこの手の”泣きのメロディ”にはホント弱い自分なのだ。

「戻りのチケット初めからないさ/自分のレース自分で終わらせ/あのブーツ黒いギターもキズだらけ/夢見た少年はもう55」。泣くなというのが無理。森山本人も書いている途中でこれは大切な曲になるかもと思ったらしい。

モッズというとパンキッシュなナンバーが並ぶタイプのアルバムであったり、ストーンズなどのオールドタイプの曲で統一されたアルバムであったりとどこか統一感を持ったアルバムが多かったのだが、このアルバムは王道のロックンロール、R&B、ブルース、スカ等長い年月でで培ってきた音楽性全てがバラバラになることなく気持ちがよいほどにうまく詰め込まれた1枚となっている。
いつも通り苣木教授と森山のギターが中心に据えられているのだが、このアルバムに関して言うと実はキーコのベースが肝になっているのでは?と思えるのだ。うまく言えないが”ベースが歌っている”というのが一番ピタッとはまる言葉かも。モッズのアルバムで自分がそう感じたのは初めて。そんな面でも「やられた!」アルバム。
帯に書かれた”三十周年、THE MODSからの回答は超弩級のロックンロール・ハリケーン!  これを聴かずして何を聴く‼︎” は伊達ではない。


雑誌でよく”人生を変えた一枚”なんて特集が組まれることがあるが、人生を変えたまでとは言わないが、僕の背中をポンと押してくれた曲が収められた一枚であることは間違いのないアルバム。
”ROCKAWAY”で歌われる「夢見た少年はもう55」の歌詞と同じ年齢となった昨年、10代の頃夢見たことはなんだった?  自分は今まで何をしてきた?  何を残してきた?  今も夢は見てるのか?、自問自答が続いた。
とにかくモリヤンが歌った55の歳で何かを始めなきゃこの後絶対後悔する、そんな思いへの答えとして出した結論が、自分の好きなロックやそこに対する思いを発信すること、この歳になってブログ、インスタにチャレンジすること。

今月には56歳を迎えるのだが、その前に、55歳のうちにどうしても紹介したかった一枚、「LIKE OLD BOOTS」に感謝。

さてさてこんな大切な一枚であるのだが、リリース直後「LIKE OLD BOOTS」を”古いブーツみたいに味のあるアルバム”と勘違いな解釈をしていたことは内緒に・・・できなかった自分である。