あと2日もすると6月9日。所謂69=ロックの日と呼ばれる日を迎える。10代、20代の頃なら「何がロックの日だ。誰かが商売のためにでっち上げたんだろう」とゴロついていたところだが、「1年に1回くらいロックを祝う日があってもいいだろう」と思えてしまうのもここまで長くロックとともに年を重ねてきた証なのだろう。

せっかく迎えるロックの日なのだから、ここは満を持して生涯一押しのハードパンクバンド「THETRAVIS」のアルバムを紹介するしかないだろう。

THE TRAVISはSIMMZ(Vo)、無徒死(B)、YASS(G)、利洋(Dr)の4人が1990年5月に東京で結成したハードパンクバンドだ。
パンクバンドではなくあえて自分たちをハードパンクバンドと表していたのは、パンクバンドを標榜しつつも激しさの欠片もなくあまりにも軟弱にしか映らなかった周辺のバンド群と一線を画すための彼らなりの拘りだったはずだ。そしてその拘り、姿勢は終始一貫して貫かれていた。

彼らがメジャーのクラウンから1992年2月にリリースされたオムニバスアルバム「Power Plant of Punk Rock」に参加する際に「自分たちのメッセージが生かせないようなオムニバスになら入りたくない」と語ったことがこのオムニバスの企画者が雑誌インタビューで明かしている。

今回紹介する「JUSTICE AND INSANE」はそんな彼らの拘り、姿勢がフルに詰まったアルバムで1992年3月にリリースされた。帯にはバンド名の前に「REAL HARD PUNK」と記されている。

アルバムは胸高鳴るインストナンバーのイントロから始まり、1曲目の「COUNTER
CLOCK WISE」に繋がり”走り続けろお前のやり方で”と聴く者の気持ちを駆り立てる。そう、例えそれが世間とは逆のやり方であってもだ。

ちなみにこの曲は先のオムニバスアルバムにも収録されている曲である。

2曲目「GO FUCK YORSELF」。結成後初めて作られたオリジナルというだけあり、彼らの決意が強く感じられるナンバー。

“腹の底にたまってゆく煮え切らない力/吐きだして吐きだしても血肉沸きかえる“、“仲間たちに背を向けがっちり孤独と手を組んだ/首をかしげるお前らにわかりはしねぇ/見てる眺めが違うのさ/感じる色がズレてるぜ/俺は俺はまだまだ/おさえられねぇケリのつかねぇ/くすぶる力に“

今聴いても魂が震える名曲だ。

3曲目「DUAL NUMBER」。どの曲でも無徒死のコーラス(というより雄たけび??)は「これこそまさにパンク!」なのだが、この曲で聴くことができるSIMMZと無徒死とのかけあいはいつ聴いても惚れ惚れしてしまうほどカッコよい。この2人がいればトラビスで、どちらかが欠けてもトラビスにはなり得ない。そういうバンドであったと僕は思っている。


4曲目はタイトルがサイバーパンクっぽい「NEW ROMANCER」。

”目にも止まらぬイカれた時代の/流れもいよいよクライマックス”と歌われ始め”BRAND NEW ROMANCER 新しい始まり/ BRAND NEW SOLDIER 闘うために生まれてきたと”で締められる。曲が作られてから30年近く経ったウイズコロナとかわけのわからぬ言葉が躍る今の時代が歌われているのか?というような錯覚に陥ってしまうが、パンクバンドのナンバーには珍しいフェードアウトする終わり方もちょっとしたポイント。


5曲目「SHOUT OF LAUGHTER」。僕はこの30年近く、この曲の歌詞を肝に銘じ生きてきた。長くなるが全てここに記そう。


三角形の頂上で ふんぞりかえる奴らを
ねたむ前に考えな あんたに何ができるのか?

頭下げるばかりが 能じゃねぇだろ
笑われるぐらいなら 笑いとばせ
SHOUT OF LAUGHTER!

誰かがやるさ知らぬフリ みんなキメこむ無関心
騒ぐ前に考えな あんたは何をしてたのか?

陰口叩くぐらいなら 己を叩け!!
攻撃こそ最大の防御だぜ
SHOUT OF LAUGHTER!

平凡望む生き方と 野望を抱えるやり方と
どっちが利口かそんな事 死んであの世で解ること

信じたものモノこそが それぞれの真実
気負うことも何もないぜ 派手にやれ
SHOUT OF LAUGHTER!

6曲目「MACHINGUN TRUBLE」。ここで歌われる”格好だけかよ”JAPANESE ROCKER/骨きしませろ/命削れ/力見せてれ”は、冒頭のパンクバンドを標榜する周囲の軟弱バンドに対するアンチテーゼとも受け取れるがどうだろうか。


7曲目「JUSTICE-SS」。ハードパンクナンバーが並ぶアルバムの中でも1,2を争う高速ナンバー。


8曲目「WATCHE GONNA DO」は珍しい横揺れナンバー。しかし、そこで歌われる内容は”誰もかれもが握りつぶした/中指おっ経つ解せない矛盾に/空切る拳放ちつづける/俺は今でもFIGHTING THE LAW」とそのサウンドとは逆にあまりにも力強い。

9曲目「LIFE FOR SALE」は他の曲とは少し詩の内容が違って聞こえるのはこの曲が無徒死がトラビス結成前に在籍していたVALLEY OF THE DOLL時代の曲が原型だからなのか。

自分が学祭用のコピーバンドをやってた頃VALLEY OF THE DOLLはすでにオリジナルを演っていてえらくびっくりした記憶があるが、確かその時にはもう演奏されていた曲だったはずだが、なんせ古い話なので違っていたら勘弁を。

10曲目「T.O.J(S CRAP AND BUILD)」は「JUSTICE-SS」と並ぶ高速ナンバーだが歌詞はアルバム中最も長く、彼らの我が国日本に対する憂い(T.O.J=THINK OF JAPANESEの略!)がかなりなものだったことが推察される。

11曲目の「ANTI THESIS」はアンチテーゼを標榜する訳知り顔の奴らに対するアンチテーゼと僕は受け取っているのだが本当のところはどうなのだろう?

そしていよいよアルバムラスト「BOTTOMLESS BOTTOM」。”刻み込まれたHISTORY/時がどんなに流れても/事実は受け継がれてゆく/恨みつらみ憎しみだけが/WANDER漂う/残された人々へ深く重く”
どうだろう。現在の、たった今のこの時代のことそのものだと言ってもおかしくないのではないか。結局のところ、いつまでも深く心に刻まれる詩(うた)というものはどの時代にあっても深く頷ける同時代的な何かを感じるものなのだ。

SIMMZも無徒死も古くからの友人であるが、そのことを抜きに贔屓目なしで聴いても素晴らしいアルバムであることは保証しよう。

REAL HARD PUNKの謳い文句は伊達ではない。

でも、ひとつくらいは何か指摘すべきことを書いておかないとただ単に知り合いバンドを薦めているだけに思われても・・・なので、あえて一つだけ残念に思うところを挙げるが、録音上の技術的なところは全くもってわからないのだが音のバランスが曲によって、また曲の中でも微妙に「??」と感じるところが少しだけある。ここさえクリアできていれば超絶完璧なアルバムだが、それでもやはり、メジャーで活躍するパンクバンドのアルバムにもひけをとらない、いやそれ以上のアルバムだと断言できる。


このアルバムがリリースされたときは、これはメジャーに行ってブレイクするかもなと思ったし、そうなってほしいとも願っていた。冒頭に紹介したメジャーでのオムニバスでも、収められていた他の12バンドと比べても曲のクォリティはトップレベルだった。
だが、バンドというものは不思議なもので少しでも何かのタイミングがずれてしまうとうまく前に進むことができなくなっていくものだ。残念ながらトラビスもあともう少しのところまできたところで解体への道へ向かっていってしまった。

まぁ、それも仕方のないことだったのだろうし、それでもこのアルバムの素晴らしさは何ひとつ変わりはしない。今聴いても出色のREAL HARD PUNKだ。

このアルバムにはあの時の、いや今も変わらないはずの彼らの怒り、憤り、痛み、そしてプライドが込められ、そこに吹く風は厳しく激しい。だが、その厳しさ、激しさの裏に込められた優しさを見逃してはいけない。

真の風は優しいものなのだ。そうだろう??


〈追記〉
あれからもう30年近く経ってしまったが、SIMMZはMAFUYUと名乗って新バンド「ベインビール」を立ち上げ再び闘い始めた。

ここのところは自粛ムードもあり活動は控えざる得なかったようだが、そろそろ新たな活動を展開するはずだ。50を過ぎてから新たなパンクバンドを立ち上げオリジナル曲で勝負していく事ってあまりにも素敵じゃないか!!

僕も僕のやり方で走り続けよう!

気になった方は是非チェックを。

そうそう、トラビスの「JUSTICE AND INSANE」は三軒茶屋のフジヤマで今でも取り
扱っているようなのでこのブログで興味を持たれた方はこちらも是非!!