今回はパンクロックからは一番かけ離れた感があるアイドルバンドを。でも素晴らしいものは素晴らしいので。
僕が音楽に目覚めたきっかけは小6の時、隣に住んでいたF兄弟の3歳上のお兄さんからBCR(BAY CITY ROLLERS)のサタデー・ナイトのシングル盤を何の気なしに貰ったことだ。
それまでもずうとるびのライブ盤のレコードなんかは買って聞いてはいたが、そんなものより「侍ジャイアンツ」などの野球漫画の方に断然夢中だった。
F兄弟は兄弟の年齢構成がうちの兄弟と全く同じで小さいころからいつも兄弟同士で遊んでいたが、F兄弟の家で聞いたレコードといえば「およげたいやきくん」くらいのもので、なぜBCRのレコードなんかを持っていたのかはいまだ謎だ。
僕の方も歌謡曲くらいしか聞いたことがないのになぜ外国人バンドのレコードを貰うことにしたのか思い出せないし、貰った後家に帰ってすぐに聞いたのかの記憶も全くと言っていいほどないが、その後すぐに「S-A-T-U-R-D-A-Y!NIGHT!」の掛け声で始まるこの曲にどっぷりはまったことで、以降、現在まで45年近くもROCKから離れられなくなったのだから人生って何がきっかけで道が分かれていくのかはわからない。
サタデー・ナイトをきっかけにBCR漬けの日々になってしまった僕は「マネーハニー」「ロックン・ローラー/イエスタデイズ・ヒーロー」のシングル、LP「ニューベスト」等、誕生日やクリスマス、お正月と何かあるたびにBCRのレコードを次から次に買ってもらった。で、中一、13歳の誕生日の時に発売になったばかりの今回紹介する「恋のゲーム」のLPを買ってもらったのだ。
日本での人気が絶頂期を迎えて間もなく発売されたこのアルバムは、それまでのアルバムとはジャケットも収められた曲の感じも明らかに違い、アイドルバンドから本格的なロックバンドへ変化しようとしている過程の真っただ中にいることがまだ13歳になったばかりの僕にもはっきり感じ取れる内容だった(まぁ、雑誌でもそんなことが書かれていたってのもあるけど)が、僕はそれまでの彼らの音楽的指向より、このアルバムで聞かれるサウンドの方が何百倍も素敵に聞こえたのだけは確かだ。
このアルバムの作成過程で、アイドルバンドを続けていくにはかかせなかったはずのパット・マグリンが僅か半年間の在籍で衝撃の脱退。
このあたりからBCRに人気急落の影が見え始めたのも確か。ただ、このパット・マグリン、その若さとルックスからは想像できないほど実は音楽的センスは高かったようだ。
アルバムのメンバーにはクレジットされていない(ジャケット裏の写真も一緒に撮影されていたが急遽消されたらしい)ものの、アルバム作成に参加したのは確かで、曲のクレジットが珍しくBCRのバンド名義となっているファンキーでR&B風な佳曲「スイート・バージニア」はパットの手によるものだという噂があったし、その後パットが新たに結成したバンドのデビューアルバムに収められた何曲かはとても素晴らしいい曲だった(ただ、アレンジがあまりもひどかった・・・)ことからも、彼がBCRに残っていれば、その後このバンドがたどる道もまた違ったものになったのでは?と何度も想像したものだ。
先に触れたように、この「恋のゲーム」というアルバムはそれまでのアルバムとは違い、当時流行していたディスコサウンドやAOR的なアプローチが特徴的で、またプロデューサーがかつてデヴィッド・ボウイをプロデュースした経歴のあるハリー・マズリンだったことも大きく影響してかデヴィッド・ボウイ的要素も見受けられ(ボウイの炎の反逆もカバーされてるし)、僕自身は、これからもっと素晴らしいロックバンドに成長していくのではないかと大きな期待を持ったのだが、多くのティーンエイジャーファンは大きな失望を味わったようだ。
このアルバムの次に発表された「風のストレンジャー」では、かつてその年齢の高さから脱退を余儀なくされたオリジナルメンバーのアラン・ロングミューアーが復帰し、ボウイ的要素は薄れたものの、前作以上にウエストコースト風でAOR的なサウンドがアルバム全体を構成することになる。このアルバムに収められた「雨のニューヨーク」、「風のストレンジャー」はそのAOR的サウンドから生まれた名曲だと言っていいだろう。ただ、そのアルバムの内容とは大きく異なり、ジャケットはアイドルバンドどころか幼児向けとしか受け取ることができない感じが悲し過ぎでシャボン玉の中に4人それぞれの顔の絵が描かれているという・・・。
このアルバムを最後にバンドのフロントマンでもあるボーカルのレスリー・マッコーエンが脱退しBCRは解体していくことになるが、恋のゲームから風のストレンジャーに続く2枚のアルバムの方向性は間違いではなかったと僕は思っている。ただ、どちらのアルバムも飛躍的にベースとドラムのアレンジが飛躍的に向上しバンド自体の演奏は素晴らしいものになったのだが、反面、アコースティックギターのアレンジが僕的には「??」な部分が多く、管楽器を始めとするオーケストレーションのアレンジや「ハートで歌おう」、「世界は恋してる」なんかの邦題ががまだまだアイドルバンドから抜け出しきれていない中途半端なちぐはぐさが感じられたのは僕だけなのかな。
日本にもBCRを意識した「LAZY」というアイドルバンドが存在していたが、彼らはバンドの成長とともに自分たちの原点であるハードロックへの回帰を進め、「宇宙船地球号」というハードロックの金字塔的なアルバムを見事に完成させるものの発表後すぐに解散。バンドメンバーは更なるハードロックの高みを極めることになる「ラウドネス」、ポップ路線を継承する「ネバーランド」、ソロと3派に分かれることになったが、それぞれの道で活躍し、その後再び「LAZY」も復活させ、それぞれの活動と合わせ大きな成功を収めている。
BCRのその後というと、レスリー以外のメンバーはダンカン・フォールを新メンバーに迎え「THE ROLLERS」と改名しパワーポップ路線に転向、レスリーはソロとしてデビューするも路線が定まらず迷走、それぞれ成功を収めることなく同窓会的な再結成を何度も繰り返し、最終的にはメンバー間でバンド名義の使用を争うまでに・・・。
彼らも「恋のゲーム」以降、方向性をしっかり定め突き進んでいれば、解散となったとしてもそれぞれ活躍できるほどの才能はあったと思うのだが、LAZYとの違いはメンバー、マネジメント側ともに「変化することへの恐れ、とまどい」と「ぶれない芯を持っていなかった」ことに尽きるのではないかというのが素人的な感想である。
少し批判的な内容となったかもしれないが、「恋のゲーム」と「風のストレンジャー」の2枚は僕にとっては今でも素晴らしいアルバムだし、その後のロック人生を導いてくれた彼らには感謝しかないのである。
さて、友人のパンクパンド「ベインビール」が出演する2月29日土曜の渋谷TAKE OFF7でのライブイベントまであと2週間を切った。僕は今回参戦できないが、お近くの方でパンクが好きな方は是非駆けつけてほしい。きっと素晴らしいパンクロックに出会えるはずだ!