キラキラと鈴虫の声が聴こえて、ドロドロと生暖かい風が吹く。


青々として、芳ばしくて、どこか懐かしい草や土の匂いがする。



そんな静かな夏の夜に。



いつも感じる。



どこからか来る孤独感。


どうしようもない不安感。



何だろう。この切なさは。



まるで自分がこの世にたった一人であるかのような。


真っ暗で、ただ、月明かりだけが見える。


歩いても歩いても辿り着くことのない道を、ひたすら歩いているような。



そんな。



気がする。



今夜も香る。夏の匂い。


自分にとっての一番の幸福とは何か。



際限のない財産や時間、他の誰に劣ることのない才能やセンス、そして、自分だけを愛してくれる最も理想の恋人。

そんな、人間が欲するモノを全て手に入れること。



正直そんなものはいらない。



自分にとっての一番の幸福とは



何も感じないこと。



辛いことや悲しいことを一切経験しなくて済むのなら、


嬉しいことや楽しいことも何もいらない。




そんな臆病で、弱虫で、ちっぽけな人間。


そんなくだらない人間。



中身のない友情や恋愛。そんなものが何故大切なんだろうか。俺には全く理解できない。



俺はよく「アナタと付き合えたらいいのに…。」と言われる。そしてそういう女に限ってバカな男と付き合っている。


浮気を繰り返したり、賭け事で暮らしている人間や根本的に性格が悪い人間。本当にくだらない男だ。


そして、そのことに対して女は散々嘆く。



当然、「だったら別れれば?」と俺は言う。



もちろん、恋愛は理屈じゃないってことは過去に自分も思い知った。


それにしてもだ。何故俺の言葉を理解しない。


性格が合わないとかの問題じゃない。人間的にどうなんだってことなんだよ。



それでも「彼にも優しいところがあるのよ」と女は言う。



如何にも夫に暴力を振られていそうな女が言いそうな言葉。


俺はさ。アンタらの行動や考えを全て予測した上で言ってんだよ。


それはアンタらが望んでる「幸せ」とは100%違う。



そして俺の言葉を聞かない女は寸分狂わず俺の助言した通りになる。



最初からそれを言ってんだよ。そうなることはことなんて経験と感で分かってんだよ。


まぁ、これは親が子供に言い聞かせんのと同じなんだろうな。


親の言っていることは全て正しいけど、子供はそれを認められない。と言うか認めたくない。


でも、この世の中にはそんなくだらない付き合いが横行している。



正直者がバカを見るっていうのか分かんないけど。そういったバカな男の方が人生楽しめるんだろう。


ただ、一番バカなのは、そういう男に騙されるような女と付き合っている、この俺なのかもしれない。



あぁ、パラドックス。




音楽を聴きながら、街中を歩いたり、電車に乗っていると、よくテレビを見ている様な感覚に囚われる。



この人は妻子持ちかなんかで、家ではいいお父さんなんだろうか。


もしかしたら極悪非道な犯罪者なのかも知れない。



この人は働きもせず、昼間っから賭事ばっかりやっている人間なんだろうか。


もしかしたらそれでも、面白い人生を送っていて、中身のある人間なのかも知れない。



そんな風に第三者的な視点から、周りの人間を傍観していると、


まるで自分が其処には存在せず、自分の視覚だけを切り取った映像を、


テレビかなんかで見ている様な感覚に囚われることがある。



このまま電車の手すりと同化して。


このまま街中の横断歩道の白線になって。


自分の存在も無くなってしまえばいいのに。



この映像をただ、見ている。そんな、ただの視聴者になれたらいいのに。


今、正にその感覚に陥っている。



もしくは、自分が今まで構築してきた空間を。この世に生まれてきた事実を。



消したい。



天才の価値というのは天才ではない人間が存在するから認められるでワケであって。この世の人間全てが天才ならば、天才と呼ばれる人間は消滅する。



つまり、才能がない人間に生まれてきた場合、その高々天才達の価値を見出す為に生かされてんじゃないか。なんて最近思う。



いくら努力しようが、努力なんかじゃ辿り着けない領域に彼らは住んでいて。その努力の方法でさえ、まず、根底から違う。



誰にだって何らかの分野に「才能」を持っていて。それが誰にも負けないものであったら、それはそれでいいと思う。



だけど俺には何にもない。片手で握り締められるほどの能力さえもない。



例えばRPGのゲームのキャラクターのように。レベルを上げただけキャラクターのパラメーターが上がる。そんなんだったらいいのにな。



人間の全ての能力が、今まで努力してきた時間や労力だけで決まれば文句ないよ。



そういう格差って。なくなんねーもんかな。