◇
巨大暴力団の山王会。会長の関内(北村総一朗)を頂点に、傘下の組長が権力争いを繰り広げている。関内は彼らを争わせることで利権の独占を図る。しかし、権謀術数が度を超え、仲間同士による血で血を洗う抗争に発展する。
北野監督は1997年のベネチア映画祭で金獅子賞に輝いた「HANA―BI」などヤクザ映画で国際的な評価を得た。しかし近年は、「監督・ばんざい!」「アキレスと亀」など創造の苦悩を吐露した作品が続いていた。
「エンターテインメントの反対をやりたくなって。でも2本ほどやったら『芸術病だな』って気づいた。観客が喜ぶ映画を撮らなきゃ、料亭のオヤジがカツ丼もつくれるところを見せなきゃ、とね」
「ソナチネ」(93年)などの暴力描写は壮絶な中に無常感を漂わせ、海外で絶賛された。今回はその美学を封印し、醜く痛い描写を畳みかける。5月のカンヌ映画祭でも多くの評論家を戸惑わせた。
「久々のヤクザ映画だが、原点に戻ったと言われたくなかった。『ソナチネ』の頃よりテクニックも上達しているし、観客を楽しませる点でも進化しているだろう、と」
暴力描写が独創に満ちている。意外な場所で多彩な道具を用いた暴力が噴き出す。
「いろんな暴力のアイデアを書き出し、それを効果的に使えるよう台本をつくった。歯医者のシーンは自分が治療を受けてる時に思いついた。今襲われたら怖いぞ、って」
本人以外、北野映画の常連俳優が出ていない。三浦友和や椎名桔平、石橋蓮司、加瀬亮ら初めて組んだ役者が好演している。
「プロデューサーに言われたんだけど、それも面白いなと。今までならクサいからやらなかったことも『これはアリだな』とか。新鮮だった」
従来は寡黙なヤクザを主役に、静寂が支配する作品が多かった。今回はみな冗舌で、下品な言葉をぶつけ合う。
「北野組の役者で撮ってたら、こんなにしゃべらなかっただろう。敵を追いつめる言葉の間合いって、漫才と同じなんだよ。『この野郎、馬鹿野郎』って次々言葉をかぶせていく。そういうスピードは得意だからね」
それにしても役者たちの迫力ある演技に圧倒される。
「リハーサルをほとんどやらないんだ。自分が役者やってて何度も同じ芝居するのが嫌だから。一発勝負だと役者はヤケクソになるところがあってね。細かくリハーサルやるとセリフはきれいになるけど、迫力がなくなっちゃう」
音楽は鈴木慶一。「座頭市」以来2度目のコンビだ。
「誰にも感情移入させない映画なんで、人物がいる時に音楽を鳴らすことで感情がいかないよう気をつけた。オレは音楽に関して危険なことはしない。大事なのは映像だから。音楽入れて失敗するくらいなら抜いた方がいい」
激しい暴力描写の連続ながら笑える場面も少なくない。
「今回はお笑いを入れる必要がないと思っていた。でも指を詰めて『痛え、切れねえじゃねえか』と言う場面なんか、意図してないけど笑えるんだよね。人間が必死になってると笑えるんだよ。人間って残酷だよね」割引 リング