【テーマ1】 転換期を迎えた『ふるさと納税』制度 今、私たちが考えるべきこと
良い意味でも悪い意味でも、話題が絶えない「ふるさと納税」。昨年も様々な議論を呼んだテーマであった。特に大きく話題になったのが「返礼品競争」であり、今年はこの返礼品に関する法規制の動きもあると言われている。そこで今回は、1.「ふるさと納税」の変遷2.2019年6月からいよいよ「高額返礼品」廃止へ3.私たち一人一人が考えるべきこと以上3点についてお話ししてみたい。1.「ふるさと納税」の変遷平成20年の制度のスタート以来、ふるさと納税の「受け入れ額」も「受け入れ件数」も年々増加し続けている。最新のデータを見ても、ふるさと納税受け入れ額については、平成20年度の約8億円から平成29年度は約3,653億円へ、受け入れ件数については、平成20年度の約53,000件から平成29年度は約1,730万件へと大幅に増加していることが分かる。「ふるさと納税」制度のスタートそもそも、ふるさと納税制度が作られた理由は、「過疎化する地方」と「人口が一極集中する都市部」との格差を埋めるためであった。さらに、このふるさと納税制度には、制度スタート当初から以下の3つの意義があった。 個人が寄付する自治体を選べる 地方の地域の役に立つ 地方自治体の競争力形は変化していても、こういった意義は見失うことなく今でも確かに貫かれている。しかし、この3つの意義を認識している人自体が少ないというのが実情かもしれない。ふるさと納税利用者数の急増ふるさと納税制度の創設から2年後、自己負担下限額の引き下げが行われ、それがきっかけで制度の利用者は増加したと言われている。しかし、それ以上にふるさと納税利用者の急激な増加をもたらしたのが、平成23年と言われている。この年、東日本大震災が発生し、被災地への支援金の多くが「ふるさと納税」制度の利用によって集められたものとなったからだ。その反動で、翌年は寄付額が減少しているが、さらにその翌年には再び増額に転じている。そして、この平成25年度の受け入れ額の増額は、「返礼品」の存在が広く知られるようになった時期だと言われている。*参照:「ふるさと納税に関する現況調査結果(平成29年度実績)」(自治税務局市町村税課)ふるさと納税ワンストップ特例制度の導入その後平成27年度には、ふるさと納税制度の改正が行われ、『ふるさと納税ワンストップ特例制度』が取り入れられた。これはつまり、寄付した自治体へ「ワンストップ特例申請書」を提出することで、寄付先自治体を5自治体に抑えることを条件に、確定申告不要で納税の寄付金控除を受けられるようになったのである。2.2019年6月からいよいよ「高額返礼品」廃止へ返礼品の当初の目的返礼品ははじめのうちは、地域のPRのためや寄付への感謝の気持ちとしての意味合いが強かった。そのため、返礼品を設けていなかった自治体も多かったり、もしくは寄付額によって返礼品の内容を変えるということは行わない自治体があったりで、今とは考え方が異なっていた。それが本来の姿であったし、今でもなお、そのスタイルを貫くことは間違った選択とは言い切れない部分がある。しかし、今となっては完全に、当たり前から外れた政策となってしまうだろう。返礼品競争で問題勃発平成29年度、ふるさと納税の受入額、受け入れ件数ともに1位となったのは「大阪府泉佐野市」で、2位以下に圧倒的な差をつけた結果であった。しかしそれが、返礼品の人気による結果であり、そしてその返礼品は地域に関係のない高価なものばかりという実情に、ついに総務省が動き始めた。当然、泉佐野市だけではなく、他にも多くの自治体が地域に関係のないものや、異常なほどに高価なものを返礼品として取り扱っていた。そのことを以前から国も問題視していたが、通達などを行っても一向に状況が改善しないことから国がついに改善に向けて本腰を入れ始めた。法律により返礼品の内容を規制へ高価すぎる返礼品などに対して、今までは通達や、口頭での呼びかけだけに限られていた国からの指摘は、今年とうとう「法律」への形を変え明文化されることになる。2019年度の自民党税制改正大綱によれば、返礼品の価格を「寄付額の3割以下」に抑えることや「地場産品」にすることなどを定め、来年6月以降の寄付から適用されることになるようだ。この規定に反する返礼品を扱う場合は、ふるさと納税として寄付していただいても税金の控除はしてもらえなくなるということになるため、寄付者が減ってしまうことになる。そのため、各自治体はさらに工夫をした返礼品を考えだしていかなければならなくなるのだ。*参照:「ふるさと納税、高額返礼品は対象外 19年6月から」(朝日新聞)クラウドファンディング型のふるさと納税誕生このように返礼品競争が激化するにつれて、寄付に対する還元の方法が根本的に問われるようになる。そもそも還元の方法は品物である必要はないのではないか。なぜなら、返礼品のはじめの意味は「地域のPR」であったはずだからだ。地域の魅力は「モノ」だけではない。自然や人という魅力も当然あるわけで、それを分かってもらう為には、「体験型」の還元というのも良いのではないかと考えられるようになった。またそれ以外にも、ふるさと納税は新たな形を生み出すに至る。それが『クラウドファンディング』である。寄付したい「自治体」は選べても、「活用される方法・事業」までは選べなかったふるさと納税が、「クラウドファンディング」という仕組みと結び付くことで、また新たな在り方が作り出された。「自治体」単位ではなく、「事業」単位で寄付先を決める。それが、最近ではふるさと納税の主流になりつつある。3.私たち一人一人が考えるべきこと昨年度、ふるさと納税の「受入額」、「受け入れ件数」ともに全国トップに立った大阪府泉佐野市が今は、ふるさと納税の返礼品の内容について大きな逆境に立たされている。寄付額に対する返礼品としての還元率の高さや、地場産のものにこだわらず、とにかくニーズの高いものを返礼品とするなど、そういった取り組みが「全国トップ」という結果に結びついた泉佐野市。それが、今年行われるであろう税制改革によって、実現出来なくなってしまう可能性が高まっている。しかしこれは、泉佐野市に限らず、他にも多くの自治体がぶつかる障壁となっていくだろう。こういった状況では、必ずその中心にいるのは自治体である。ふるさと納税の運営・企画を行っていくのは自治体であるのだから、それは当然なのかもしれないが、果たして今後のふるさと納税について考えるのは自治体だけで良いのだろうか。今後、「地場産品」ということが返礼品として認められるための一つの要件となるのであれば、尚更私たち一人一人もふるさと納税について考えるべきことはある。住民目線だからこそ知り得る改善すべき点や、もっと注力するべき点などを行政に伝える役割が私たちにはあるはすだ。しかし、自分の住む地域が、今どのようなことに注力をしていて、どういったモノやコトを地域のPRという名目でふるさと納税の返礼品としているのか、きちんと知っている人は案外少ないのではないだろうか。地域が今どのような状況で、どのようなことを課題としていて、どのようなことを得意としているのか、今一度私たちも考えていかなければならない。ふるさと納税に取り組む意味、目的は、行政だけで考えるべきものではなく、全ての人が平等に考えるべきことである。