パーキンソン病は,口腔では,流涎,口腔乾燥,ジスキネジア,嚥下障害が高頻度にみられ,嚥下障害が原因となる肺炎や窒息,栄養障害などは本疾患の死因の上位を占めている。

今回はパーキンソン病患者の嚥下障害の内容を詳細に分析することによって,嚥下運動と流涎の関係を定量的に評価することとした。
対象は嚥下造影検査(VF)を行ったパーキンソン病患者16 名。Hoehn& Yahr は,Stage Ⅲが9名,Ⅳが6名,Ⅴが1名であった。


結果.流涎スコアとVF 画像所見の間の相関性について
流涎スコアと口腔咽頭通過時間の間に有意な相関関係を認めた(r=0.659,p=0.011)。


以上です。次回は考察を記載させて頂きます。
詳細は下記または、本文献をご覧ください。


パーキンソン病患者の流涎と摂食・嚥下障害の関係
梅本丈二  老年歯学第24 巻第号2009
抄録:パーキンソン病患者の流涎と摂食・嚥下障害との関係を評価する。対象は福岡大学病院歯科口腔外科で嚥下造影検査(VF)を行ったパーキンソン病患者16 名(男性7名,女性9名,平均年齢67.3±8.0 歳)とした。Hoehn& Yahr の重症度分類では,Stage Ⅲが9名,Ⅳが6名,Ⅴが1名であった。患者への問診から流涎の重症度を5段階,頻度を4段階にスコア化した。また,側面VF 画像から口腔咽頭通過時間,舌運動速度,下顎運動速度を解析し,さらに口腔期の嚥下障害を37 点満点でスコア化した。流涎の重症度は,口唇のみが7名(44%),衣服まで及ぶものは4名(25%)であった。
流涎の頻度は,「ときどき」が8名(50%),「しばしば」という患者が4名(25%)であった。流涎スコアと口腔咽頭通過時間の間に有意な相関関係を認めた(r=0.659,p=0.011)。また,口腔期嚥下障害スコアと口腔咽頭通過時間(r=0.540,p=0.037),舌運動速度と口腔咽頭通過時間(r=-0.522,p=0.046)の間には有意な相関関係が認められた。パーキンソン病患者の流涎は,舌などの動作緩慢による唾液の送り込み障害が一因となっている可能性が示唆された。

緒言
パーキンソン病は,黒質の神経細胞の変性を主体とする進行性の神経変性疾患で,無動,筋固縮,振戦,姿勢反射障害などの運動症状を主徴とするが,精神症状,自律神経障害,睡眠障害などの非運動症状も高率に合併する。口腔では,流涎,口腔乾燥,ジスキネジア,嚥下障害が高頻度にみられ,生活の質に影響を及ぼすほか,嚥下障害が原因となる肺炎や窒息,栄養障害などは本疾患の死因の上位を占めている。
パーキンソン病患者の流涎の原因として,これまで唾液を嚥下する回数の減少や,頭頸部の前屈位などが指摘されている。パーキンソン病患者は口腔,咽頭筋の動作緩慢が嚥下障害の一因と考えられ,流涎も同様の原因から生じている可能性が考えられる。Nobrega らは,パーキンソン病患者16名についてCrysdale らの作成した流涎スコアをもとに,流涎と嚥下障害の間に相関関係を見出した。しかし,嚥下障害の内容は詳細に検討しておらず,流涎の原因は明らかにしていない。そこで,今回はパーキンソン病患者の嚥下障害の内容を詳細に分析することによって,嚥下運動と流涎の関係を定量的に評価することとした。
研究方法
1.研究対象
2008 年 月以降の16 カ月間に福岡大学病院歯科口腔外科で嚥下造影検査(Videofluorography;VF)を行ったパーキンソン病患者のうち資料の揃った16 名(男性7名,女性9名)とした。平均年齢は67.3±8.0 歳であった。Hoehn& Yahr の重症度分類では,Stage Ⅲが9名,Ⅳが6名,Ⅴが1名であった。対象患者の食事形態は,常食13 名,粥食2名,嚥下障害食1名であった。
なお,本研究は福岡大学病院の臨床研究審査委員会の倫理委員会で承認され,被験者全員から文書で同意を得た。
2.調査方法
Crysdale らの作成した流涎スコアを用いて患者らから問診を行い,流涎の重症度は5段階,流涎の頻度は4段階にスコア化した。
VF では,バリウム含有ゼラチンゼリー5gを普段の食事と同じ体位で自由に咀嚼,嚥下させ,側面VF画像をデジタルビデオに記録(30 フレーム/秒)した。
3.VF画像の評価方法
側面VF 画像は,コンピュータに取り込み,画像ファイルに置換した。画像解析ソフト(Dipp-MotionPro,Ditect)を用いて,VF 画像ファイルを1フレームごとに梅本らが用いた方法をもとに解析した。頸椎の任意の2点から原点とY軸を設定し,頭部の動揺を補正した。口腔咽頭通過時間はゼラチンゼリーが口腔内に入って,その先端が食道入口部を通過するまでの時間とした。また,舌運動速度は口腔咽頭通過時間内に舌背と下顎骨下縁の交点が1秒あたりにX軸方向に移動した距離とした。さらに,下顎運動速度は口腔咽頭通過時間内に1秒あたりにY軸方向に移動した距離とした。さらに,Hanらの作成した嚥下障害スコアをもとに口唇閉鎖,食塊形成,咀嚼,口腔失行,舌の口蓋への接触,咽頭への早期流入などから患者の嚥下障害をスコア化した。
4.統計解析
流涎スコアとVF 画像所見の間の相関性についてはスピアマンの順位相関係数を用いて,VF 画像からの測定値間の相関性についてはピアソンの相関係数を用いて相関係数の有意性を検定した。統計学的処理は,SPSS 13.0 J forWindows を用いて行った。

結果
1.流涎スコアの内訳
流涎の重症度は,口唇のみが7名(44%)と最も多く,衣服まで及ぶものも4名(25%)に認めた。流涎の頻度は,「ときどき」が8名(50%)と最も多く,「しばしば」という患者も4名(25%)に認めた。
2.流涎スコアとVF 画像所見の間の相関性について
流涎スコアと口腔咽頭通過時間の間に有意な相関関係を認めた(r=0.659,p=0.011)。しかし,流涎スコアと口腔期嚥下障害スコアや,流涎スコアと舌運動速度,流涎スコアと下顎運動速度の間には有意な相関関係はなかった。
3.VF 画像からの測定値間の相関性について
口腔期嚥下障害スコアと口腔咽頭通過時間(r=0.540,p=0.037),舌運動速度と口腔咽頭通過時間(r=-0.522,p=0.046)の間には有意な相関関係が認められた。口腔咽頭通過時間と下顎運動速度,口腔期嚥下障害スコアと舌運動速度や下顎運動速度の間には有意な相関関係はなかった。

引用:老年歯学第24 巻第号2009