はじめに
筆者らは、ALS患者の呼吸機能を継続的に検査することで、呼吸機能低下の速さや進行パターンを予測でき呼吸理学療法の取り組みに用いることができたとし報告している。

対象
ALS患者35名(男性19名・女性16名)を対象とした後方視研究。
発症部位による病型は、上肢型18名(平均57.8±11.8歳)・下肢型13名(59.2±13.0歳)・球型4名(67.3±9.0歳)であった。

結果.%VCの低下パターン(のみ記載)
A群:発症後1~2年の間に急激に低下せずにほぼ直線的に低下する(%VC変化率/月=-5.99%)、C群:発症後4~5年は%VC50%程度でほぼ一定のレベルを維持しその後急に低下する(%VC変化率/月=前半0.07%、後半-11.65%)、D群:発症後8年以上経過しても%VC25%以上を保ちゆっくりと低下する(%VC変化率/月=-1.95%)。B群が7名(50%)と最も多く転帰も様々であった。D群は2人とも下肢型であり2004年2月現在でも自発呼吸を維持していた。

%VCは重要な指標で、変化にパターンがあることがみえてきました。
詳細は下記または本文献をご覧ください。
明日は後編の考察を記載致します。


筋萎縮性側索硬化症における呼吸機能障害の経時的分析
理学療法学 第32巻第2号 66~71項(2005年)


はじめに
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動神経が選択的に障害される原因不明の疾患である。ALSの特徴は、筋力低下が急激に進行することと全身の随意筋に出現することである。横隔膜に代表される呼吸筋群も例外ではなく、呼吸筋力低下による換気の低下から呼吸不全をきたし、呼吸補助なしでの生存は困難となる。
ALSを含む神経難病を長期に扱う東京都立神経病院(当院)では、ALS患者の呼吸機能評価及び呼吸理学療法は重要な位置を占めている。我々はALSの呼吸理学療法について、呼吸機能及び呼吸補助の形態から6つのカテゴリーにわけ、その評価や理学療法のポイントを整理し治療のガイドラインとしている。
ALS患者に対する呼吸理学療法の目的は、呼吸の残存機能を維持し合併症を予防することである。具体的には、呼吸筋力の維持、胸郭や肺の可動性・伸張性の維持、過緊張や苦痛の緩和、排痰を促しより良い療養生活を維持していくことに主眼がおかれている。呼吸機能の評価は、患者の現状を把握し今後の予想をたて適切な呼吸理学療法を続けていく上で重要である。
今回我々は、ALS患者の呼吸機能を継続的に検査することで、呼吸機能低下の速さや進行パターンを予測でき呼吸理学療法の取り組みに用いることができたので報告する。

対象
1996年6月から2004年2月までの7年8ヵ月の間に当院に入院あるいは在宅で4回以上継続して呼吸機能評価が可能だったALS患者35名(男性19名・女性16名)を対象とした。初回評価時の平均年齢は59.4±12.1歳(35~84歳)、初回評価までの罹病期間は平均36.4±30.8ヵ月(4.9~143.5ヵ月)。発症部位による秒型は、上肢型18名(平均57.8±11.8歳)・下肢型13名(59.2±13.0歳)・球型4名(67.3±9.0歳)であった。
なお、35名全員呼吸理学療法を受けていた。

方法
換気機能の評価としては、肺活量(vital capacity : VC)をライトレスピロメータ(シチズン社製)にて測定しBaldwinの予測式のより%肺活量(percent-predicted VC : %VC)を算出した。呼吸筋力としては、口腔内圧をP-MAXモニター(英国Morgan社製)にて最大吸気位から最大呼気圧(maximal expiratory pressure : PEmax)を測定した。最大呼気流速(peak cough flow : PCF)は、最大吸気位から最大呼出(咳)の流速をASSESSピークフローメータ(米国ヘルススキャン社製)にて測定した。
検査は患者にとってもっとも安楽な姿勢(多くは膝を軽く曲げた背臥位)で疲労しないように休憩をとりながら、場合によっては数日に分けて検査を行った。姿勢による検査結果への影響を取り除くために初回より背臥位で測定することが多く、また病状の進行に伴い顔面筋の麻痺によりマウスピースでの測定が困難となるため、初回より救急蘇生用バックのマスクにて測定を行った。数年以上の呼吸検査の経験がある理学療法士が同一患者の測定を数回行いその最大値を代表値にした。
変化の様子をつかむために1ヵ月単位での変化率(変化率/月)=[〔(最終測定値-初回測定値)÷初回測定値〕×100÷評価期間(月)]%を算出した。同一患者で複数の呼吸補助形態(自発呼吸と人工呼吸器使用)を経験した場合には、それぞれを分けて変化率を求めた。また一般情報として、発病期間・初発症状・呼吸補助の種別を調査した。
測定結果を整理するための基準値として、MillerらのALSのケアに関するEBR(evidence-based review)より、%VC50%と25%(25~30以下では呼吸不全や死亡のリスクが高いと述べている)を、またBachの提唱するPCF270L/minと160L/min(160L/min未満では気管挿管が必要と述べている)を使用した。
統計処理にはStat View ver.50(SAS Institute Inc.)を使用した。初回評価時の喀病型による比較は一元配置分析を、また呼吸補助形態による変化率の比較には同様の分散分析とt検定を用いた。初回評価時の各検査の関連をPearsonの相関係数で求めた。いずれの解析も有意水準は危険率5%未満とした。

結果
評価期間は平均で23.0±18.7ヵ月(2.3~70.3ヵ月)また評価回数は平均8.5±4.3回(4~20回)であった。当院には外来部門がないため評価は入院時と在宅訪問時に行われた。そのため発症初期の段階での評価は少なくまた評価間隔は一定にはならなかった。経過とともに球麻痺症状が強まり、PCF・PImax・PEmaxが測定不能となる場合も多く、総測定件数は各検査で異なった(VC272,PImax181,PEmax176,PCF146件)。%VCは他の指標に比べより進行した状態でも評価できる事が多かった。

1.初回評価時の結果
呼吸理学療法開始時の呼吸機能としては、%VC56.6±26.9%、PCF172.5±85.7L/minと低下していた。病型の比較では下肢型がやや高く球型が低い傾向であったが有意差はなかった。
2.全測定の結果
35名全員のVC全測定(272件)の結果から、%VCが80%以上は10名17件(6.3%)、80>%VC≧50は20名が61件(22.4%)、50>%VC≧25は28名90件(33.1%)、25%未満は25名104(38.2%)であり、50%未満が34名194件(71.3%)と多かった。PCFについては、測定ができた25名146件のうち270L/min以上は7名11件(7.5%)、270>PCF≧160は16名38件(26.0%)、160L/min未満は21名97件(66.5%)であり、160L/min未満が多かった。
3.経時的変化
%VC、PImax、PEmax、PCFは、経過と共に低下傾向を示したが、一部の患者のある時期では上昇を示す時もあった。
評価期間中における呼吸補助の状況は、自発呼吸のみ16名、初回評価時より非侵襲的換気(non-invasive ventilation : NIV)5名、初回評価時より気管切開による侵襲的換気(tracheal ventilation : TV)2名、自発呼吸からNIV移行6名(1名はその後TVに移行したが、TV移行後の検査はできなかった)。自発呼吸からTV移行6名であった。
NIVの導入は、%VCが50%付近と25%付近にばらついていたが、TVは全員%VCが25%以下で導入されていた。
%VC変化率/月については、絶対値でNIV期間<自発呼吸期間<TV期間の傾向がみられたが、統計的に有意ではなかった(df=2/39.F=2.406.p=0.1034)。また、PImax変化率/月、PEmax変化率/月、PCF変化率/月についても有意差はなかった。
自発呼吸期間中における%VC変化率/月との関係では、PImax変化率/月(r=0.840.p<0.0001)、PEmax変化率/月(r=0.721.p=0.0002)、PCF変化率/月(r=0.666.p=0.0025)となり、%VCの変化率の割合が大きいほど他の変化の割合も大きかったが、PImaxやPEmaxに比べPCFは関係が薄い傾向にあった。

4.%VCの低下パターン
%VCが25%以下に低下した時期を発症後2年以内・2~4年・4~8年・8年以上の4期間に区分したところ%VCの推移は4つのパターン(群)に集約できた。
各群には以下のような特徴があった。A群:発症後1~2年の間に急激に低下せずにほぼ直線的に低下する(%VC変化率/月=-5.99%)、C群:発症後4~5年は%VC50%程度でほぼ一定のレベルを維持しその後急に低下する(%VC変化率/月=前半0.07%、後半-11.65%)、D群:発症後8年以上経過しても%VC25%以上を保ちゆっくりと低下する(%VC変化率/月=-1.95%)。B群が7名(50%)と最も多く転帰も洋々であった。D群は2人とも下肢型であり2004年2月現在でも自発呼吸を維持していた。

引用:理学療法学 第32巻第2号 66~71項(2005年)