ALS患者の理学療法
松尾善美ら   MB Med Reha No.113:31-36,2009

Abstract
理学療法は重症度に応じた対応が求められる。軽度から中等度の負荷強度を個々の症例や筋ごとに適切な判断をおこなったうえで与えれば、短期の陽性効果が得られるであろう。全身持久力の改善には、嫌気性作業閾値までの有酸素運動が適している。必要であれば補助換気併用化で実施する。患者に適した歩行練習の手段を選択し、かつ日常環境をふまえたうえでどのように歩行にアプローチを実施していくのかを判断し、介入する。歩行の実用性が低下すれば、下肢装具などの活用により、距離の延長、危険回避、疲労軽減などを通じて歩行機能の維持を図る。しかし、ALSの理学療法にランダム化比較試験、準ランダム化比較試験がこれまでなされておらず、これらの効果を論じるにはさらに研究が必要である。

今回勉強した内容のアブストラクトを上記に記載しました。
下記には同文献を引用し理学療法効果を①筋力②全身持久力③呼吸リハに分けて記載しました。

筋力・筋持久力運動
筋力増強運動に関してはDal Bello-Haasらは、毎日のストレッチと週3のレジスタンス運動を在宅で実施したレジスタンス運動群において、6ヵ月後副作用の発現なしに通常ケア群よりALSFRSとShort Form-36の身体機能の値が有意に高値を示していた。
Droryらによると、隔日に15min、筋持久力改善を目的として中等度の運動プログラムを実施した運動群において、3ヵ月コントロール群よりもALSFRSとAshworthスケールの低下が有意に少なかったが、6ヵ月では有意差はなかった。よって、規則的な中等度身体運動プログラムは短期間の陽性効果をもたらすと結論している。
井上は、進行する筋力低下は立位・歩行障害に直結するため廃用による筋力低下に対しては、特にADL自立期には筋力増強運動が行われることが多いとしている。しかしながら、過用を生じる可能性から、下肢筋力増強運動を行うことは禁忌とするような見解もまだ多く認められているため、ADL介助期以降に実施することは避けることが多いのが実情である。

全身調節運動・全身持久力運動
Pintoらは、NPPVをしようしているALS患者に単盲検法で8名の運動群と12名のコントロール群を比較した。機能的自立度評価表は2群間で有意差があったが、Bathelスコアは有意差がなかった。運動群で臨床経過の緩徐化と呼吸機能検査値勾配に有意差をみとめた。NPPV使用下では運動は末梢や筋での酸素化に有益であると結論付けている。
Sicilianoらは乳酸性作業閾値は健常者に比較して40-50%であると報告している。
2つの報告より全身調節運動・全身持久力運動としては嫌気性代謝閾値以下での運動が望ましく、歩行運動が推奨される。必要であれば補助換気を併用する。

呼吸理学療法
小森らは、呼吸理学療法により最大吸気圧が吸気筋トレーニングを行った全9例で3-6ヵ月後まで保たれたと報告している。
Nardinらは、8名のALS患者に横隔膜トレーニングと呼吸コントロール法を実施し、6週・12週後の呼吸機能とQOLを測定した。呼吸機能の低下率の鈍化傾向があったものの、有意差はなかった。半数の患者で、呼吸パターンを変化させることに成功した。

引用文献 : ALSの理学療法 MB Med Reha No.113:31-36,2009

以上です。
ALSの理学療法についてはエビデンスが足りないと思っていませんか?それは正解です。
しかし、少なからず何らかの報告はされています。アンテナ張って情報をキャッチしていきたいですね。
筋トレについてはやはりOverworkに気をつけて、初期であれば短期効果を得られるかもしれません。実際、運動してない人・寝たきりだった人は、廃用が改善して筋力が上がるケースを経験します。
色々な視点から、シングルケーススタディで十分だと思いますので、私たちで多くの報告ができれば良いですね。皆様の経験が報告されることで、多くの患者様のお役にたてるのではないのでしょうか。