パーキンソン病に多くみられる姿勢障害の<首下がり>を勉強しましょう。

首下がり
 首下がりでは、パーキンソン病の前傾前屈姿勢に加えて、更に頚部が前倒(頚部屈曲)している。首下がりの機序として、①頭・頚部の屈筋群の活動が亢進(ジストニア)、②頚部を伸展し、頚部を支える頚部の伸展筋の筋力低下(限局性筋炎など)が挙げられている。

 頻度は0.4~0.6%といわれているが明確ではない。もともと前傾前屈姿勢であり、患者が[頭が重い]、[前が見えない]等の症状を訴えて初めて診断されることが多い事、従来のパーキンソン病特有の姿勢と異なっていると気づくのが遅れる事、どこから首下がりと診断するかの定義の問題、どのように測定するか決まった測定法が未確立であるなど、理由はいくつか考えられる。

 首下がりを呈する多くの症例において、側頚部に肥大した肩甲挙筋が観察される。
これはパーキンソン病特有ではなく、首下がりを示す原因疾患には様々な疾患がある。

次回は後半を記載いたします。
詳細は下記または本文献をご覧ください。

パーキンソン病の姿勢障害に対する理学療法 ―特に首下がりについて―
林康子ら MB Med Reha No.135 : 45-53,2011


パーキンソン病は慢性進行性の神経変性疾患である。大脳基底核内のドパミン欠乏によって種々の機能障害を生ずる。中年以降に発症して10~25年の慢性の経過をとり、我が国の有病率は人口10万人に150人といわれているが、超高齢社会の到来とともに年々増加傾向にある。パーキンソン病に似た病像を示す別の疾患群はパーキンソン病症候群とよばれる。後者は病状の広がりや発症の経過の違いから注意深い検討が必要である。これを含めると患者数はさらに多くなる。
 最近の学説では、臨床症状の発現するかなり以前から病理学的変化が起こり始めているという。その変化が進むと臨床的な症状が出現し、振戦や固縮は一側の上肢あるいは下肢から始まり、同側の下肢あるいは上肢に、次いで反対側の上下肢にN字あるいは逆N字に広がっていくことが多い。ゆっくりとした進行であるが、症状が進むにつれて機能障害や機能的制限(能力低下)が明らかとなってくる。機能障害の進行は、当然、移動能力を含むADL(日常生活活動)に影響を及ぼし、この経過はHoehn-Yahr重症度分類で評価される。
パーキンソン病の治療は薬物療法を第一とするが、外科的には視床の定位脳手術に加えて最近では、深部脳刺激治療も行われている。欠乏しているドパミンの補充療法が、その病態から考えて最も可能性のある治療である。しかし、実際にはドパミン補充だけでは改善しない症状がある。また、抗パーキンソン病による治療は、疾患が緩徐進行性の慢性疾患であることから長期的には次のような問題が生ずることが知られている。
1)症状の日内変動
2)不随意運動
3)すくみ足
4)精神症状あるいは知的機能障害
5)薬物の効果減弱
6)強度の姿勢障害
 本稿では、これらのうちパーキンソン病に特徴的な姿勢障害を取り上げる。特に腰曲がりと呼ばれるcamptocormiaや首下がりと呼ばれる dropped neckあるいはdisproportioonate antecollisは、からだを伸展することが困難であり、前方が見えないことから歩行困難が、また、屈曲した頚部が喉頭や気道を圧迫して嚥下障害や呼吸障害なども来たすことが問題となる。これらの症状は、患者のQOLの点では大きな制限担っている。姿勢障害、ここで取り上げる首下がりは生活に影響を与える症状である。治療経過の中で出現し、薬物治療が困難であるといわれているが、我々は理学療法により改善する症例を経験しており、本稿では、首下がりの機序と理学療法の有用性について検討を行った。

健常者の立位姿勢
理想的な立位姿勢、いわゆる力学的に安定している姿勢では、側方よりみると耳垂やや後方、憲法、大転子、膝関節前部(膝蓋骨後面)、外果前方が一直線に整列、この直線が重要にも一致し支持基底面に落ちている。すなわち安定していると考えられる。頭部、頚部、胸部、腰部および骨盤はいずれもこの直線で相互に関係し、どこか1カ所ずれても他の部位に影響を及ぼす。
 立位姿勢と筋活動は、脊柱とこれを支える筋活動と帆柱と張り綱(guy wire)の関係にたとえることができる。人間の立位姿勢は周囲の全ての張り綱で支えられているのではなく、帆柱の傾きに応じて一方向からの張り綱で支えられている状態に似ている。体幹を後方から支えるのは脊柱起立筋である。主要姿勢筋は立位保持のための抗重力筋のうち、頚部筋、脊柱起立筋、大腿二頭筋、ヒラメ筋をさす。一方、深在筋は脊椎骨同市を動的に固定し、あらゆる方向の動きに対応している。

パーキンソン病患者の姿勢
そもそも、パーキンソン病では前傾前屈姿勢(stooped posture)が特徴であるといわれている。前傾前屈姿勢とは膝・股関節は軽度屈曲、骨盤が後傾、腰椎の生理的前弯の減少から胸・腰椎の後湾(体幹の前屈)、頚部の前弯(伸展)、顎が前方にやや突き出している姿勢である。後述するが、身体の重心線は前方に偏っている。この状態では、首は下がっておらず、むしろ上がっている。

首下がりについて
1.首下がりの出現頻度
パーキンソン病あるいはパーキンソン症候群における首下がり発現頻度は、正確には明らかでない。文献によるとその頻度は0.4~0.6%ばらつぎがある。もともと前景前屈姿勢であり、患者が[頭が重い]、[前が見えない]等の症状を訴えて初めて診断されることが多い事、従来のパーキンソン病特有の姿勢と異なっていると気づくのが遅れる事、どこから首下がりと診断するかの定義の問題、どのように測定するか決まった測定法が未確立であるなど、理由はいくつか考えられる。
我々は、2008年から3年間に、16例の患者を首下がりとして新両氏、そのうち14例に理学療法を行った。大部分は、脳神経内科や整形外科からの紹介である。
首下がりがあるものとそうでない者を比較すると、姿勢としては体幹から下肢はほぼ似通った姿勢をしている。一方、首下がりでは、パーキンソン病にみられる胸椎から頚部の伸展が消失し、上部胸椎で強く屈曲し顔面は地面を向いているようにみえる。

2.首下がり患者の頚部視診上の特徴
 首下がりを呈する多くの症例において、側頚部に肥大した筋が観察される。この筋の走行をCTを使用して検査したところ、筋の棋士は頸椎横突起(C1-4)、停止は肩甲骨内側縁上部にあった。この走行から肩甲挙筋と同定された。この肉眼的な筋肥大はパーキンソン病だけでなく、変形性頸椎症や特に明らかな原因のない心臓バイパス術施行例でも観察された、神経内科医は、首下がりはパーキンソン病との関連が強いと考えがちである。しかし、首下がりを示す原因疾患には様々な疾患がある。このことから、首下がりは単一の疾患でなく症候群であると考える立場もある。我々の経験した16例(パーキンソン病あるいはその関連疾患10例の他に、変形性頸椎症3例、筋萎縮性側索硬化症1例、特に原因のみられない2例)にも、局所的筋肥大が共通して観察されている事は、疾患特異的な所見の他に、首下がりという症状に共通する要素の存在が伺える。
頚部伸展筋としては、僧帽筋、頸板状筋、頭板状筋、頸半棘筋、頸多裂筋がしられているが、肩甲挙筋も伸展筋として作用する。

首下がりの病態機序
 患者自力では修正できず、前方ましてや上方に顔面を向けることは困難で、日常生活においては、歩行時の前方確認やコップからの院吸いも困難となり日常生活に支障をきたしている。首下がりでは、パーキンソン病の前傾前屈姿勢に加えて、更に頚部が前倒(頚部屈曲)している。首下がりの機序として、①頭・頚部の屈筋群の活動が亢進(ジストニア)、②頚部を伸展し、頚部を支える頚部の伸展筋の筋力低下(限局性筋炎など)が挙げられている。われわれが観察した首下がり症例では、原因疾患に関わらず、頚部・体幹の表面筋活動がみられ、頚部・体幹の屈筋群の活動亢進は観察されていない。健常者の立位時には、頚部・体幹のいずれの筋にも持続的な活動はみられない。また、首下がりの姿勢をまねるように指示すると、頚部の前屈には斜角筋や胸鎖乳突筋など屈筋群が活動し、前方に崩れた重心を支えるように頚部・体幹の伸展筋群が活動する。いずれも首下がり症例でも、頚部が屈曲して顔面が地面をむいてしまうような機序は、筋電図上はみあたらず、重心の前方への傾きに対して身体を支える代償的な脊柱起立筋活動の更新が共通して観察される所見であった。
頚部の伸筋群の筋力低下については、徒手筋力検査を座位で行った場合、確かに頭部を自動で直立させることはできないことが多く、したがってMMT2以下と判断される。しかし、60°程度の傾斜台に寝て頭部を伸展する時には十分に検者の抵抗に抗することができることから、筋力は比較的保たれているものと考えられる
一方、座位で検者が患者の頚部を受動的に伸展すると、屈筋群(例えば、胸鎖乳突筋)の筋活動が増加することから、屈筋群の伸張反射が亢進していると指摘する論文もある。我々の観察では、このような症例では臥位では枕がないと頭が浮いてしまう状況もみられ、首下がりが持続し屈筋が短縮していたことによって、頚部屈筋の二次的な短縮をきたした可能性があると考えている。

引用:MB Med Reha No.135 : 45-53,2011