パーキンソン病における首下がりについて 後編

理学療法のポイント
実際の治療では背臥位で頭頚部・肩甲帯・胸椎に位置関係が正しくなるように筋活動を促す。さらに上肢、下肢へと筋活動を促していく。端座位においては左右非対称姿勢の修正を行う。立位ではバランス訓練を通し、上部体幹のアライメントに注意しながら頚部・体幹・下肢の伸展活動を促していく。仰臥位で後頭部がベッドにつけられず枕が必要な症例は、頚部前面に軟部組織の短縮がおこっていると考えて、この部分を伸長する必要がある。

治療効果
61~86歳までの男性5例、女性11例、原因疾患としてはパーキンソン病5例、多系統萎縮症1例を含むパーキンソン症候群5例、変形性頸椎症3例、その他(開胸術後・筋萎縮性側索硬化症)3例がその内訳である。16例のうち理学療法を行った14例中6例(43%)に改善がみられた。

以上です。アライメントを整えたことで、どのような日常への影響が起こったかを評価することが大切です。
詳細は下記または本文献をご覧ください。


パーキンソン病の姿勢障害に対する理学療法 ―特に首下がりについて―
林康子ら MB Med Reha No.135 : 45-53,2011


理学療法のポイント
首下がりに対し、いきなり頚部にのみ加療を施行するのではない。まず姿勢・肢位の評価を行う。本来、原因が明らかであればそれを改善することが第一の治療法であろう。しかし、原因が分からないことも多い事、また、原因が何かによらずに頚部の局所的な筋肥大は共通にみられることから、パーキンソン病および関連疾患では、もともとの前傾姿勢に何らかの要因で頚部が前倒(頚部屈曲)し、経過において不可逆的になったと仮定した。全身の姿勢でも評価した通り、首下がりは単に頚部の屈曲の実が起こっているのではなく、多くの症例にみられる共通点として骨盤後傾に引き続く腰椎前弯の減少、遠パイ、そして頚部屈曲の姿勢異常である。
一見関係なさそうな骨盤の位置をまず正しい位置に戻し、肩甲骨の位置を正しい位置になるように誘導し、脊椎下部(腰椎・胸椎・頸椎)から脊椎全体が正しい位置になり、適切な筋収縮が得られるように治療を行う。実際の治療では背臥位で頭頚部・肩甲帯・胸椎に位置関係が正しく(アライメントの修正)なるように筋活動を促す。さらに上肢、下肢(大殿筋・ハムストリング起始部・腹筋群)へと筋活動を促していく。端座位においては左右非対称姿勢の修正を行う。立位ではバランス訓練を通し、上部体幹のアライメントに注意しながら頚部・体幹・下肢の伸展活動を促していく。仰臥位で後頭部がベッドにつけられず枕が必要な症例は、頚部前面に軟部組織の短縮がおこっていると考えて、この部分を伸長する必要がある。

治療効果
61~86歳までの弾性5例、女性11例、原因疾患としてはパーキンソン病5例、多系統萎縮症1例を含むパーキンソン症候群5例、変形性頸椎症3例、その他(開胸術後・筋萎縮性側索硬化症)3例がその内訳である。16例のうち理学療法を行った14例中6例(43%)に改善がみられた。
改善が明らかであった症例の2例については、治療経過を脊柱のアライメントの変化を比較した。治療後には、骨盤が前傾し、腰椎の前弯が増し、胸椎・頸椎の伸展が増している。
経過の長い症例においては治療効果の少ない場合があるが、比較的発現早期の症例では治療効果が高いと思われる。骨変形(変形性頸椎症)が軽度の症例では、やはり理学療法で首下がりが改善したが、治療中に頸椎症に関連する神経症状の悪化がないか注意が必要である。

パーキンソン病のリハ
中村隆一らが示す、パーキンソン病の障害構造モデルをみても、パーキンソン病の変性過程や病期・薬理学的変化によって生ずる振戦・筋固縮・無動・姿勢反射障害・注意覚醒障害・自律神経障害を一時的な機能障害と考える。その結果、前傾前屈姿勢、体幹筋の拘縮、亀背、骨盤の働きに制限、胸郭運動制限などが起こる。これらは二次的に筋骨格系に現れた機能障害と考える。この結果、転倒しやすいパーキンソン病の姿勢反射障害が生ずる。筋骨格筋の機能障害が長期化すれば心肺機能(フィットネス)の低下を来たす。これらは複合して無動を増強させる。身体的に動作が緩慢で、歩行が困難になると、自律神経機能障害に関連して唾液分泌過多に前屈姿勢や無動が加わり、流涎や嚥下障害が生ずると人前での食事が困難になり、これらが複合してうつ状態、ひきこもりなど身体的、感情的、社会的な機能的制限をきたす。すなわち慢性の経過中に様々な障害が付加されるということである。このような機能障害、機能的制限の関係を理解して、機能訓練を実施する必要がある。出発点として、パーキンソン病患者の姿勢がなぜ前傾前屈姿勢をとるのかは不明である。しかし、治療困難と考えがちな首下がり病態は、①その姿勢、頚部の局所的筋肥大、筋電図活動のパターン(屈筋群ではなく、伸筋群の持続的活動で、重心の前方への傾きを代償しているように見える)が、他の原因の首下がりと違いがない事、②骨盤から頸椎にいたる軸のアライメント(配列)の修正で一定の改善がみられることから、一時的な原因が何であっても同一の機序が、すなわち、重心軸のずれと、これに起因する二次的な機能障害で加わっていると考えることができる。
パーキンソン病の首下がりについても、理学療法による治療は是非、実施すべきと考える。一方、一時的な屈曲姿勢の原因、理学療法の効果が乏しいものについてはその原因は何かなど、さらに検討すべき事も多い。

引用:MB Med Reha No.135 : 45-53,2011