PSO2-Your another tale-

PSO2-Your another tale-

オンラインゲーム「ファンタシースターオンライン2」のオリジナル小説。
マターボードを手にしたプレイヤーとは違う「もう一人のプレイヤー」の物語。

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 新光歴238年。フォトンのエネルギー転用により恒星間を移動する巨大船団オラクルは、有史以前に遭遇した敵性存在ダーカーとの戦いを続けていた。
 もとより巨大船団オラクルは未知の惑星への調査を目的としていたが、組織名をアークスと変更してからはダーカーとの遭遇からはダーカーの殲滅を主とするようになり、侵食されていた惑星ナベリウスも、一度はダーカーを一掃したかに思えた……。





――――修了記念、何にしようか。
 四本足のダーカー、ダガンが獲物を仕留めんと前脚を振り上げた。胴体で鈍く光る赤いコアが見えたのを、モーリは逃さなかった。
 地面を蹴った勢いで、ソードを下から上へと振り上げ、そのまま空中で体を回転させる。振り上げられたソードがダガンのコアへ直撃した後、ソードごと回転したモーリから追撃が放たれる。フォトンアーツ、<ライジングエッジ>がダガンのコアを粉々にした。
 赤い粒子を放って消えていくダガンと共に、モーリはひび割れた市街地の地面へと降り立った。
 巨大船団オラクルを構成するアークスシップの一つ、128番艦「テネス」の市街地にモーリは立っていた。黒煙が立ち篭め、火種が飛び、人工の大地は大規模な地割れを起こしている。多くの建物は倒壊しているか炎に巻かれているかで、人の気配はほとんどない。大地と同じく人の手によって作られた空だけは、時刻設定された通りに痛々しい青空が広がっている。……もっとも、蛇のようにうねる黒煙が、そのほとんどを隠しているが。
 その日、突如としてアークスシップ「テネス」をダーカーの大群が襲った。惑星ナベリウスにおいて化石の収集任務についていたモーリは、その知らせを受け、キャンプシップをそのまま「テネス」へと向け、この市街地奪還作戦へ参加した。他にも多くのアークスがこの「テネス」には来ているはずだが、市民の救出などに人員が割かれているために、アークス一人に割り当てられる市街地奪還作戦の担当エリアは広大である。モーリは「テネス」の市街地にてダーカーを発見、撃破を繰り返しているが、一向に作戦終了の兆しは見えない。
――――やっぱエクエスティオーだよ。
 弟の言葉ばかりがモーリの頭をよぎる。振り払うようにモーリは拳で口元を拭った。カジュアルな黒髪のショートカット、若干ふくよかな体型のヒューマンである彼女は、一見すると戦闘服に身を包んでいても、とても大剣を振るうようなアークスとは思えない。
 モーリが今身にまとっている、ワンピースを模した女性用の戦闘服エクエスティオーは、ナベリウスでの試験修了後に彼女の弟が押し付けたものだった。
 ソードを背中に担ぐとモーリは瓦礫の上へと跳躍した。内心、不安と緊張で押しつぶされそうになりながらも、ダーカー殲滅のために標的を視界の中に探った。だが、積もった瓦礫や炎と黒煙が彼女からダーカーの姿を隠しているようだ。宙に浮かぶ量子コンソールでマップを表示しても、ダーカーのアイコンは見当たらない。
「グレッダさん、ダーカーの反応はそちらで掴める?」
 モーリが呟くと、すぐに耳元で電子音と共に反応が返ってきた。
『熱源動体が近くにいるのはわかるんですが、市街地はデータノイズが多すぎて……』
 グリッダという若い女のオペレータの言葉に、モーリは心の中でため息をついた。アークスシップへのダーカー強襲で情報が錯綜しているのはわかるが、いつもの他惑星への任務のように呑気に構えられては困る。
「他のアークスの交戦データとか、だいたいの位置でいいから!」
『は、はい! 今すぐ調べます!』
 慌てたようなグリッダの返事にモーリは心の中で再度ため息をついた。現場に比べて仕事が悠長過ぎるのはアークスのオペレータ全般に言えることだが、グリッダは仕事が遅すぎる。もともとアークスという組織自体に所属したのはグリッダのほうが先であるはずだが、後輩のモーリにオペレータとして充てられた時から、グリッダは怒鳴られっぱなしである。
『き、北へ2ブロック先に熱源動体の反応があります!』
 了解! と叫んで跳躍して地面へ降り立つと、モーリは地割れや瓦礫を避けながら2ブロック先を目指した。移動しようとも瓦礫の山や舞い上がる黒煙が広がる景色には変わりはなかった。
 数ヶ月前、少なくとも惑星ナベリウス内では一掃させたはずのダーカーが再度出現し、修了任務を行っていたアークスの研修生の多数が死亡した。モーリの弟も、その修了任務へ参加していた。
(ボクの修了任務の時に現れれば、アークスにさせることなんてなかった! ボクがあの時ナベリウスにいれば、助けることができた!)
 彼女の弟がダーカーに殺されてから、モーリはダーカーと対峙する時、常に弟のことが頭から離れなかった。
 フォトンによって強化された体を手に入れたアークスは、常人をはるかに上回る身体能力を持つ。一瞬にして崩壊したエリアを駆け抜けた彼女は、視界の中に黒い四本足を捉えた。
(ボクがあの時……ボクがっ! ボクが……)
 3匹のダガンが駆けてくるモーリに気づいてその黒い身体を向けた。足元には血に塗れて息絶えた市民の姿がある。
(いや……っ!)
 煙のせいもあって性別も年の程も遠目からでは全く検討がつかないが、ただ人がそばのダーカーの為に倒れているというだけで、モーリの怒りに火をつけるには十分だった。担いでいたソードを握ると、その切っ先で空中を切って彼女は得物を構えた。
(お前らがいたからだ!)
 モーリは三方向から向かってくるダガンに真正面からぶつかっていった。
 地面を蹴って瞬時に中央のダガンへ近づくと、右から横薙にソードを振るった。ダガンが脚を曲げて姿勢を落とした為にその刃は頭部を掠っただけであったが、躱された瞬間にモーリはソードを振るった反動で強烈な回し蹴りをダガンの頭部へ放った。思わず怯んだダガンをそのままに、次は左から迫るダガンへ向き直ってソードを突き刺し――――
「くらえぇっ!」
 叫びと共に突き刺したダガンを右から迫るダガンへと投げつけた。モーリが使った<クルーエルスロー>と呼ばれるそのフォトンアーツによって、二匹のダガンが絡み合いながら吹き飛ばされる。
 その間にも中央のダガンは体制を立て直し、前脚を振り上げ、その脚先に生えた鋭い爪をモーリの柔肌に突き立てようとしていた。モーリはフォトンアーツの使用によって体勢を整えて切れておらず、ソードで受けることが出来ないと判断すると、とっさにソードを手放してバックステップで距離をとって避けた。フォトンのエネルギー転用が未発達な有史以前であれば、自ら得物を放るような行動は愚策である。――――だが、そのソードは手放した途端に転送されて光とともにその場から消えてしまい、距離をとったモーリの手には転送された別の得物、パルチザンが握られていた。
 フォトンのエネルギー転用技術の発達により、データ化された物質は瞬時に転送、装着することが可能になった。これにより、地質調査や被検体の運搬などが容易となり、オラクルの文明は瞬く間に発達することとなった。
『モーリさん!』
 耳元で叫んだグリッダの言葉を聞く前に、モーリは右から吹き飛ばした二匹のダガン、そして正面のダガンが再度前脚を上げて襲いかかってくるのを察すると、パルチザンの大きく振り回した。フォトンによって威力を増した強烈な斬撃は同時に襲いかかった3匹のダガンを吹き飛ばす。コアへの直撃こそなかったものの、蓄積されたダメージによって内2匹が赤い粒子を放って消失し、残った一匹もパルチザンのとどめの一突きで絶命してしまった。
『モーリさん! 大丈夫ですか!? モーリさん!』
「……うん」
 無造作に転がっている市民の身体を一瞥すると、モーリは優しく抱き上げて仰向けに寝かせた。歳はモーリと少し下くらい、15、6ぐらいの少年である。血は乾いていない。戦闘服の大部分にその血が滲めど、モーリは遺体となった彼の瞼を優しく下げて、祈るような形に胸の上で手を組ませた。彼が生きている間にたどり着くことができず、その上すぐに埋葬もしてやれないモーリにとっての罪滅ぼしであった。
『うわ……』
 グリッダが一瞬漏らした不快感にモーリは怒りを覚え、心を落ち着かせるために、ため息のような深呼吸をした。少なからず常識の範囲内で最低限の正義と人道を弁えているつもりの彼女にとって、まるで映画かドラマのように、人の生死について他人事なグリッダの不快感が許せなかった。
「グリッダさん」
『あ、はい。次の熱源動体は……』
 その不快感を漏らしたことに悪びれる様子がないところもまた、彼女を苛立たせた。
「……いや、ごめん。なんでもない」
 再度深呼吸して感情を抑え込むと、モーリはパルチザンとソードを転送して入れ替えると、その大剣をしっかりと背中に担いだ。






(もっとこの人たちがしっかりしてたら……リブラが死ななかったかもしれない)
 またもや弟のことがモーリの頭をよぎった。モーリの弟、リブラは惑星ナベリウスにてアークス研修生としての修了任務の途中に、再出現したダーカーと遭遇。他の研修生と共に迂回ルートでキャンプシップの回収ポイントまで向かったものの、途中で負傷したために回収ポイントまでたどり着けず死亡してしまったのだ。
 当時、修了任務を行うアークス研修生は、キャンプシップへ帰還できるテレパイプの所持を許可されておらず、回収ポイントに向かわねば惑星ナベリウスからの脱出ができなかった。その上、オペレータとの通常回線どころか緊急回線まで遮断されており、救出の要請すら満足にできなかったのだ。安全性の配慮に欠けた修了任務はモーリの頃より以前から行われていたが、指摘する声が上がってもその方針はなかなか変わらなかった。
 そもそも研修を終え、一人前のアークスとなった今でも、オペレータを始めとした後方と実際にエネミー達と戦う現場では温度差がある。オペレータは不確かで曖昧な情報を度々伝えてくるし、伝達の遅れ、突然の命令変更などで振り回されることもある。アークス本部からのオーダーに関しては、龍族のまぶたを集めるといった何を目的としているのかわからない、説明されないものも多々ある。命を賭けて戦うアークス達と違い、あまりにも不誠実な仕事をしてくるのだ。
(何でこんなに。もっと、ボクが思っていたのは……)
 モーリは子供の頃からアークスへの憧れを抱いていた。屈強で、勇ましく、格好いい。そして何よりヒューマン、ニューマン、キャスト……どんな種族であれ、男だろうが女だろうが関係なく、アークスという一つの戦士である以上平等だ。自分のことを女らしいとも思っていない彼女は、自分が女であることにコンプレックスを持っていた。いっそ男であればと思っていた。けれどもそれはアークスであれば関係ないのだ。様々な惑星での調査交流を経て依頼をこなし、時にはダーカーをその力で持って撃破する、巨大船団オラクルという組織にとって欠かせない存在。そんなアークスに――――なにがきっかけで憧れることになったのか? そんなことは思い出せないが――――彼女は憧れていた。けれども―――
(そんなアークスが……。こんな風にぞんざいにされてるなんて)
 心の中で渦巻いている苛立ちは、弟の死によってさらに強くなった。
(とにかく、でも……。でも、今は)
『っ! 付近に熱源動体多数! 注意してください』
(今はとにかくダーカーを!)
 グリッダの声を聞いてモーリは大剣を構えた。瓦礫で溢れた市街地を見回し気配を探る。薄く聞こえる銃撃や爆発音、ダーカーの叫びの中から、モーリはただ標的のみの気配を。
――――ヴ……ヴヴ…ヴ……。
 微かに聞こえた羽音を捉えようと耳を澄ました瞬間、不意に横から飛び出したクラーダの鎌が、彼女の頬を掠めた。索敵に気を向けたために反応が遅れたモーリは、その小さな鎌に気づかなかった自分の迂闊さを呪った。いつの間にか無数のバッタ型ダーカー、クラーダに囲まれている。
(今の羽音はなんだ? クラーダじゃない!)
 次々と飛びかかってくるクラーダを、モーリはソードでなぎ払う。しかしひと振りする間に背後から、側面からと体当たりや鎌での攻撃がモーリの体力を奪う。正面から飛んできたクラーダを蹴りで弾き返すと、同時に飛んできた三匹のクラーダをソードで切り払った。その間にも背後にまわった何匹かのクラーダが続けて体当たりをしかけ、モーリは体勢を崩してうつ伏せに倒れかけた。
 ソードを地面に突き刺し、倒れかけた身体を支えたものの、無数のクラーダの鎌の斬撃がモーリの背中を襲って、鈍いうめき声を上げた彼女は思わず膝をついた。目の前にはクラーダが今にも襲いかからんと、その前脚代わりの両鎌を大きく持ち上げていた。





「ぐっ!」
『モーリさん!』
 攻撃の予測自体はついていなかったものの、おそらくもう一度複数の方向からの攻撃が来るであろうと予測した彼女は、ソードから手を離し、前転をするようにあえて目の前のクラーダの懐へ飛び込んだ。案の定左右から飛び出したクラーダは空中で激しくぶつかり合い、正面で鎌を持ち上げていたクラーダは前転をしてきたモーリにぶつかって大きくのけぞった。
 その瞬間を逃さず、モーリはパルチザンを転送させると、その長い得物を大きく振りかざし、周囲のクラーダに激しい斬撃を加えた。フォトンアーツ<スライドシェイカー>だ。その激しい斬撃を食らって吹き飛ばされたクラーダ、それに巻き込まれたクラーダは周囲の瓦礫へ強く身体をぶつけ、モーリを囲んでいた小さな鎌たちの半数以上が赤い粒子を出して消え去った。
――――ヴ…ヴヴ……ヴヴヴヴヴ!!。
『接近する熱源動体を確認! モーリさん気をつけて!』
 残った2、3匹へとモーリが視線を移したとき、グリッダの通信と共に、微かに聞こえていた羽音が突然激しく聞こえてきた。とっさに羽音の方向へ身体を向けたモーリのもとへ、巨大な黒い塊が目にも止まらぬ速度で突っ込んでくる!
 とっさにパルチザンでガードしようとしたものの間に合わず、その黒い塊の衝撃をもろに受けたモーリは自分の身体が軋む音を感じた。大きく吹き飛ばされ、空中をコンマ数秒漂った彼女の身体は瓦礫まみれの地面へと叩きつけられ、モーリは受身も取れずに強く頭を打ってしまった。
 腹部に、ダーカー特有の赤いコア。モーリのふた周りほど大きな体躯と、それに見合う長い触手が頭部からなびいている。節の多い腕部にはクラーダのような長く鋭い鎌が携えられていた。その黒い塊の正体は、空中を高速移動する中型ダーカー、エルアーダだった。
「く…っそ……! 出るなら出るで、出なかったら出ないで、……極端なんだよ!」
 激しく吠えてパルチザンを構えたモーリに、再度エルダガンが高速で突っ込んできた。巨大で強力な弾丸となったその黒い塊は、とてもパルチザンのガードでは凌ぎきれるものではない。モーリはとっさに右へステップすると、すれ違いざまにエルアーダへパルチザンを振るった。下から上へ突き上げるようにしたその刃はエルアーダへ確かに届いたが、黒い塊はダメージを受けた様子を微塵も感じさせることなく、突撃状態から体勢を立て直してモーリへと向き合った。
 近くの炎から立ち上る黒煙の中で、エルアーダの鎌が煌めいた。不愉快な羽音をあたりに響かせながらゆっくりと黒煙を割いて現れる。モーリは冷静にパルチザンを構えながらも横目で残ったクラーダ達の様子を探った。エルアーダが現れたとはいえ、クラーダ達もその戦闘意欲を失ったわけではない。彼らもまたその前脚替わりの鎌をモーリへと向けていた。
(ガンスラッシュで距離を……。だめだ、エルアーダの突進は止められない)
 様子を伺いながらもモーリは後退りを始めた。とにかく囲まれていてはモーリに勝利はないことは彼女自身が自覚していたからだ。
『モーリさん! 一旦退いてください! このままだと危ないです! モーリさん!……』
 耳元で叫ぶグリッダの通信を鬱陶しい。モーリはこの状況の打開策に頭を巡らせた。ゆっくりと距離を縮めようとするエルアーダへ神経を集中させながらも、目線は周囲を探る。クラーダ達もモーリへの距離を少しずつと縮めていた。
(ソードならエルアーダの攻撃は受け止められる。ソードへ武器を切り替えて、とにかくエルアーダをなんとかするしかない!)
――――ヴヴヴヴヴ!!
 エルアーダの羽音が一層強くなった。その大きな鎌を不意に持ち上げる。
(くる……!)
 彼女の予想通り、黒い塊はその鎌からの素早い斬撃を繰り出してきた。しかし先ほどとは違う、突進攻撃ではなくモーリへ身体を向けたまま左右の鎌を振り下ろす攻撃だ。
(好都合!)
 その攻撃を予想していたわけではない。だが、突進攻撃をしてこないのであれば、彼女の思う通り好都合であった。モーリは真横に構えたパルチザンの柄でその両鎌を受け止めると、そこを力の支点として浮遊しているエルアーダの下から背後へと滑り込んだ。そして滑り込む際にパルチザンから両手を離し、ソードが彼女の手元へ転送される間に、エルアーダの後方にいたクラーダへ全力疾走した。
 瓦礫を飛び越えた彼女にソードが転送される。そしてそのまま、眼下にいたクラーダへとソードを振り下ろし、その小さなダーカーを真っ二つに叩き切った!
 エルアーダの攻撃前にクラーダの位置を頭に叩き込んでいた彼女は、すぐに身体をねじって大きくソードを振るった。<ソニックアロウ>と呼ばれるそのフォトンアーツである。振るわれたその刃から凝縮されたフォトンがエネルギー刃のように放たれ、射線上にいた2匹のクラーダの身体をバラバラにした。
 そのクラーダ達の死を確認する前にモーリは突進してきたエルアーダをソードで弾き返すと、バックステップで距離をとった。受け止めた反動でソードを握る彼女の両手は軽くしびれている。
(次で決める!)
 弾き返されたエルアーダも大したダメージは受けていないようだった。竜巻のように身体を回転させて空中に舞い上がると、すぐに両鎌を左右に広げた。
(エルアーダの攻撃に合わせ、すれ違いざまにフォトンアーツを)
 モーリはソードを構えながらエルアーダの挙動に注視した。黒い塊は左右に広げた鎌をゆっくりと下げるとモーリを亡き者にせんと突撃体勢に入った――――その瞬間、銃撃と共に無数の弾丸がエルアーダのコアを撃ち抜き、鎌を携えた黒い塊は甲高い悲鳴をあげて崩れ落ちた。




『モーリさん! 大丈夫ですか!? 他のアークスが来てくれたみたいです』
 あっけにとられたモーリが銃撃のした方へ視線を向けると、一人の水色のキャスト――――パーツの構成からして、男性のようだ――――がライフルを構えていた。一瞬遅れてグリッダの言葉を咀嚼したモーリはやっと状況を飲み込んだ。どうにも、助太刀を受けたようである。
「手こずっていた割に、獲物を取られたって顔だな」
 くぐもった声が水色のキャストから響いてきた。どうやらひどい顔をしていたらしい。モーリはすぐに頭を下げて会釈をした。
「なるほど、礼儀知らずというわけではなさそうだな」
 モーリ自身、キャストと関わることがあまりないため、そのメカニカルなパーツに詳しいわけではないが、それでもその特徴的なパーツには見覚えがあった。まるでバケツのような巨大なヘッドパーツ、ヒューマンやニューマンの胸部を模したような平面的なボディと、シンプルなアームとレッグ、いわゆるマギウスシリーズと呼ばれるパーツだ。多くの男性のキャストの例に漏れず、水色の彼の身長は2メートルを超えていて、四肢も太くたくましい。パーツを彩る鮮やかな水色が炎と瓦礫だらけの市街地によく映える。
「すみません助かりました。ありがとうございます」
「なに、気にするな。多対一でハンターが苦戦するのは知っている」
「見ていたんですか?」
「なにせ俺はホバー移動だから、凸凹した道を走るのは苦手でな」
 相手がキャストのために表情はわからないが、声のトーンから皮肉っぽく笑ったのは確実だった。ところで、とキャストが肩を上げてみせた。
「この辺は俺の管轄エリアだったはずだが……。自分のエリアは片付けたのか? それとも気づかないほど夢中で戦っていたのか?」
「えっ……。いや、ボクはオペレータから指示を受けて、熱源動体を追っていたら」
『……あ、あのう、すみません、エリアが変わっていたことに気づきませんでした』
「…………」
 モーリがコンソールに表示されたグリッダを睨む。
「まあ怒るなよ。せっかくヒューマンに生まれたんだ。表情筋の無駄遣いをするな」
「ボクがどういう顔をしようが、関係ないと思いますが」
 キャストがやれやれ、と首を傾けた。
「ヒューマンやニューマンらしい表現をするなら、可愛い顔が台無しだと言ってるんだ」
「……ふざけないでください」
 からかわれていると感じてモーリは声のトーンを落とした。キャストはしかし、と言葉を置くとこう続ける。
「そんな様子なら、作戦状況もよくわかっていないんだろう? もうテネスの市民はほとんどが脱出した。俺達第一陣は各自合流しながら各エリアを再探索した後に、第二陣と交代になっている」
「えっ」
 キャストに言われてモーリは慌てて量子コンソールを表示させると、自分の任務状況を確認した。確かにメールにて作戦状況と任務段階の変更が伝えられていた。
「グリッダさん?」
『あ、す、すみません……私も見逃してて……』
 思わずモーリは短い溜息をつくと、水色のキャストへ視線を移した。バケツのような頭をゆっくりと左右に振ると、
「それで、隣のエリアのアークスを探しに来れば、これだ。……まあ、近くまで来てくれたのは手間が省けてよかったよ」
 と、水色のキャストが続けた。
「合流してってことは……」
 アークス本部から送られたメールの文面には、彼の言った通り各自合流の二文字が書かれている。モーリは彼へ視線を移すとまたもや短く溜息をついた。
「これから少しの間だけパーティを組むんだ。もう少し穏やかに接していただきたいな」
 前述したように、モーリはキャストのヘッドパーツの機構には詳しくない。だが、彼がふ、と鼻で笑ったように聞こえた。