(Number Web)
大相撲夏場所が終わったが、平日でも「満員御礼」の垂れ幕が見られたのは、先場所は負け越しはしたが、これまでとんとん拍子に出世してきた遠藤と、鶴竜の横綱昇進があったからだろう。
私も遠藤が楽しみで、大相撲中日8日目に国技館に足を運んだのだが……、遠藤が稀勢の里に吹っ飛ばされたのには、心底、驚かされた。
ほんの数秒前、遠藤が有利な体勢を作っていたからだ。
そして9日目には、横綱?白鵬が「電車道」で遠藤を一気に押し出し。
中盤から遠藤は負けが混みだし、12日目には将来のライバルと目される大砂嵐のかち上げに一発で沈んだ。
夏場所の遠藤を見ると、上位を狙っていくにはまだまだ時間がかかるという印象を持った。
私が先にあげた稀勢の里、白鵬、大砂嵐戦の内容があまりにも一方的過ぎたからだ。
上位陣の「肉体」が簡単に太刀打ちできるものではないことが明白になった。
厳然と立ちはだかる「体重差」。
そこで、遠藤が勝った力士と、負けた力士の体重を調べてみることにした。
遠藤の体重は146kg。幕内力士の平均体重は158.6kgだから、軽量の部類に入る。夏場所では7番勝ったが、その内訳を見てみると、
旭天鵬 151kg
玉鷲 164kg
鶴竜 155kg
豊ノ島 154kg
千代鳳 171kg
嘉風 140kg
貴ノ岩 148kg
と、170kgを超す巨漢、千代鳳と玉鷲を除けば自分より軽い相手か、プラス10kgの範囲の力士にとどまっている。
体格負けしない鶴竜からは金星を得るも……。
夏場所のハイライトは、横綱?鶴竜に勝って初金星をあげたことだったが、9kg差で体格負けしていないのが勝因として考えられる。
つまり、体格が「同格」の力士には、巧い相撲を駆使してしっかりと勝っているのだ。
では、負けた相手、8人の体重はどうだろうか。
松鳳山 136kg
琴奨菊 178kg
日馬富士 135kg
稀勢の里 171kg
白鵬 153kg
千代大龍 164kg
大砂嵐 156kg
栃煌山 158kg
横綱のふたり、白鵬は10kg圏内、日馬富士は遠藤よりも軽いが、やはり別格だった。相撲巧者と見られる遠藤だが、このふたりを倒すにはまだ時間が必要だろう。
他の力士たちを見ると、大型力士が並ぶ。170kg台の大関?稀勢の里、琴奨菊(今場所は不調で、負け越し)には、体の大きさ、重さが敗因のひとつにあげられる。
明らかに、体重差が遠藤の課題となっているのだ(そうなると、自分よりも軽い松鳳山相手に敗れたのが負け越しにつながったと見るべきだと思う)。
北の湖「『相撲力』が足りない」
では、関係者は今場所の7勝8敗という遠藤の結果をどう見ているのだろうか。
北の湖理事長は遠藤について、
「『相撲力』が足りない。このままでは上位と対戦する位置にくると、負け越しを繰り返してしまうだけ」と話している。
ユーモアをまじえ、本質を突く解説で定評のある北の富士勝昭氏は、
「この位置で、7番勝ったことを評価してもいいんじゃないか」
と千秋楽の解説で語った。
体重を150kg台に乗せ、後手を踏まないことが重要では。
私としてはとんとん拍子での出世を期待していただけに、2場所連続の負け越しは歯がゆいものがある。夏場所の結果を見る限り、やはり「体重」を増やす必要があると言わざるを得ない。
遠藤の持ち味は、不利な体勢からでも体のしなやかさ(それは美しい四股にも表れている)、技巧で勝ちに持っていけることだが、自分よりもプラス10kgの相手には、それにも限界がある。
現実的には、体重を150kg台に乗せて立ち合いで後手を踏まないことが重要になるのではないか。
しかし、増量にはリスクもともなう。昨今、足にサポーターを巻く力士が多いのは、自分の体重を下半身が支えきれないからだ。
スポーツ界を見渡してみると、「自重」、自分の重さ以上のトレーニングはしない傾向が強くなっている。力士の場合は、自重の範囲を超えている。
遠藤がしなやかさを失わない程度の増量に成功できるかどうか――。
名古屋場所以降の注目点は、そこにあると思っている。
文=生島淳
photograph by Naoya Sanuki/JMPA