翌週の金曜日。俺は真田蒼介の家に来ていた。


蒼介は専門学校時代からの友人でその頃から一人暮らしをしていた為、
蒼介の家はちょっとした溜り場となっていた。


あの頃はこの部屋で互いに彼女ができた時とか男同士で色々と語りあったたものである。


パソコンに向かい検索をしている俺に蒼介が缶のカクテルを渡しながら話しかけてくる。
「どうだ?有力な手がかりは見つかったか・・・・?」


俺はそのカクテルを受け取り缶のプルトップを開けながら答えた。


「サンキュー。いんや。全然。ネットより口コミで広がってるな。こりゃ。」


そう。インターネット。ワールドワイドウエーブで例の占い師の事を調べていたのだ。


ロボット検索の検索サイトで片っ端から思いつくキーワードで検索をかけるが有力な情報が全然ヒットしてこない。
更には普段は見ない2chなどの見てみるがソレらしきスレッドは立っていない。


「やっぱりソレらしいところを自分達のアシで探さにゃあかんかな・・・?」


俺がぼやく。ここまでなんの手がかりもないとは思わなかった。
最近、情報の検索をwebに頼りすぎてるなと感じる。
それにしてもこの地区ではかなり有名なはずなんだけどまったくヒットしないとはどういうことか。
ホームページとまではいかないにしてもブログなどには出てきてもよさそうな気がした・・・。
が、ミクシーなどにもソレに関する書き込みもなければコミュニティーもなかった。
イライラしながらヒステリックにキーボードに検索ワードをたたきつける。


そんな俺を見ながら苦笑いをしながら新しい方向性を蒼介か示す。


「そういった情報って飲み屋の姉ちゃんとか詳しくないか・・?お前、確かその辺りの友達多かったよな?」
蒼介が言い出す。確かにソレも一理ある。しかしガセをつかまされる事も少なくはないのだ。


何故ならお店で客との話に詰まった時のネタでしかなかったりするし、
また店のスタッフの気を引こうとする場合もしかり。
尾ひれが付く事などは至極当然のことなのだ。
しかしそういった情報が集まりやすいのも確かなのだ。


「まぁ、一人、声をかけて見るよ。梓がそういった話題が好きだったから。仕事終わった頃に電話しもらおう。」
「そうだな。じゃぁソレまで飲むか。」


そういいながら蒼介は5本目の缶ビールを開けた。俺は少し呆れながら答えた。


「お前・・・飲もうかって既にそんだけのんでるやんけ・・・。」


そういいながら俺も2本目のカシスウーロンに手を付けていた。
俺たちは飲みながら水谷梓にメールを打ち簡単なやり取りの後、彼女の仕事が終わるのを待っていた。
仕事が終わってから電話を貰える事になっていたからだ。


午後3時半。梓から電話がかかってくる。


「お兄ちゃん?今、店でる所!蒼介さんの家にいるんだよね?今からすぐ行くよ。」
「うん。ごめんね。ってかありがと。迎え行こうか?」
「ホント?じゃぁいつものコンビニで待ってる!」


そんな会話を終えて電話を切り、
缶ビールを10本以上を開けて酔っ払って寝ている蒼介の横から部屋の鍵を借りて外に出た。
深夜の空気は冷たく心地よかった。
この辺は排水設備がしっかりしているにもかかわらず、腐臭がする事が多く、
夏などは大変な異臭騒ぎなのだが、冬はそういったことがなかった。l

蒼介の家は繁華街から近かった。
そして梓の働く店はその繁華街の中にあったのだ。
15分程歩くと梓の働くお店が見えてきた。
そしてソコから歩いて2分のコンビニに梓はいた。


「あ!お兄ちゃん!お疲れぇ!」


俺を見つけた梓はすぐさま俺のところに走ってきた。
そして手を繋ぎながら蒼介の家に向かった。
俺にとって梓は妹のような存在であり、梓にとっては俺は兄のような存在だった。
俺は一人っ子で梓は3姉妹で互いに兄と妹が欲しかったのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。


蒼介は俺たちが帰ってきても爆睡していた。
取り合えず蒼介に毛布を被せて照明は暗いままで蒼介を起こさないように梓と話を始めた。


梓の話を要約するとこんな感じだった。


まずは噂でありがちな「友達の友達の彼氏が聞いた」という類で広まっているという事。
ただ、占いの後、バイクで亡くなった人が実際にいて当時のその記事は新聞で確認ができ、
その話題面白おかしく扱った週刊誌もあったという事。
占い師は来る時と来ない時があるけれども概ね電気街として有名な大須に現れるという噂があるという事。
某宗教団体も彼女を探しているという噂がある事。
サイトでは唯一、ホスラブ東海でスレッドが立つことがあるという事。


以上の事が梓の話の中から手に入った情報だった。


曖昧な広まり方をしている割にバックボーンが妙にしっかりしているのが気になった。
そして梓が付けくわえた。


「あのね、お兄ちゃん。もしホントに彼女を探すなら気をつけて。
 彼女を探して行方不明になった人がたくさん居るって噂だから。」


脅しでもなくなんでもなく純粋に梓は心配そうだった。


「ありがと。気をつけるよ。」
俺は梓の頭に手を乗せてそった撫でた。
梓は嬉しそうにニコっと笑った。


俺と梓は主が床で寝ている為に空いているベットでそのまま眠りについた。


そして俺は翌日その情報を元に大須商店街に蒼介と行く事になった。

僕は名古屋駅のJR中央改札を出てすぐ左に曲がりコンコースを西に向かって歩いていた。
等間隔に並ぶ柱に同じ広告のポスターが貼り付けられている。
なんだかずっと見ていると思わず洗脳されそうになるなって感じる。
というかむしろそういう効果を狙っているのかもしれない。


そう思ってしまうとなんだか嫌な気分になり柱を見ないように左側の店の方を見ながら歩く。
しかしそうすると今度はガラス張りの喫茶店でお茶をしている女性と目が合い
なんとなく気まずく感じてうつむきながら歩く。
でもそれは今日に限った事ではなく僕は基本的にうつむいて歩く癖がある。


新幹線口が近くなり外の光がよりいっそう見えるようになってくる。
地下にあるエスカに通じる階段の入り口を横切ってキヨスクの前を通り外にでる。
よく言えば前衛的なのだが素直に言えば意味のわからないオブジェと水を噴出していない噴水が見える。
水面に光が反射している。
外にでて一瞬、陽射しがまぶしくて目が眩むけれどもすぐに目がなれた。


辺りを見回し”それ”らしい人を探す。が、まだ来ていないみたいだった。
座れそうなオブジェの台座に座る。
その台座の一番反対側にホストっぽい男が座っている。
その男もきっと待ち合わせだろうか?と思っていると女子高生がその男に話しかけている。


僕の待ち合わせの相手はまだ来ない。暇だったのとたまたま彼らの会話が聞こえてきたのでそれとなく聞いていた。
彼らは付き合ってるみたいで話はのろけにしか聞こえなかったが少しだけ興味深い話が聞こえてきた。


「伝説の占い師」


1と0の世界。電算の世界に生きる僕にとっても多少興味があった。
勿論、リアリストでる僕は占いなんて信じていない。
ただ、幾つかの事象、より多くの事象を集めてそこから統計をとり起こりうる事を予測する。


要するに確率論。


その確立を高めるためにデータを増やし演算プログラムの精度を上げる。
よっぽどその方が現実味がある。
そうは言ってもそれはそんな簡単な事ではない。
同じ理論だと思われる天気予報なんかは全然あてにならないし、競馬予想ソフトだって全然あたらない。
いつかはそういった確率と偶発的要素を組み合わせた演算ソフトを作ってみたいとは思うけれども。
それにはまずそれ相応のデータおよび設備が必要だった。


そんな事を考えていると遠慮がちに声をかけられる。
「あの、イージスさんですか?」
その男は黒いキャップに黒いシャツ、インディゴのデニム。
聞いていた外見そのものだ。間違いなく僕が待ち合わせをしていた相手だった。
「はい。じゃぁ、あなたはロキさんですね。」
僕は男の顔を見ながらそう話かけた。
「うん。はじめまして。ロキです。」
「はじめまして。イージスです。」


イージスもロキも本名ではない。ネットで使われている偽名、ハンドルネームだ。
今日は僕とロキさんはネットを介さずに実際に会って行動する。
俗に言う「オフラインミーティング」通称「オフミ」をしているのだ。
特に目的があるわけではないが、
昨日、チャットと呼ばれるネット上での会話で盛り上がりなら実際に会おう!
という事になったのだ。


僕自身が今まで「オフミ」をした事がなかった。
というかネット上で会話をしているだけでリアルで相手を知ることに
必要性を感じていなかったから。
しかし何故か昨日は会おうと思ったのだ。
それは僕自身が一番、不思議に思っている。
引きこもりではないが、出不精ではある自分がこうしてオフミをしている。
なんだか狐に包まれたような気持ちだった。


僕たちはソフマップの方にあるきだした。


「そういえば、ロキさん。伝説の占い師って話、知ってますか。」
僕は歩きながらロキさんに話しかけた。

「なんか名駅のどっかにあったやたらと当たる占い師の話でしたっけ?」
「そうです。なんか死を予言したとかしないとか。」
「聞いた事、ありますよ。でもイージスさんがその話に興味があるって意外ですね。」


やはり少しでも僕を知って入れば大半の人はそう思うだろう。


「さっきたまたま人が話してるの聞いててね。
 占いなんて結局は一種のカウンセリングみたいなものじゃないですか。
 それが死を予言したってなんか変な話だなって。」
僕は自分の持論を話す。


「そうですよね。なんか現実離れしてて胡散臭いですよね。」
「ですよね。でも今、その人が流しでまだ占いやってるらしいですよ。」
「なんか興味はありますね。」
「なら、二人で探して化けの皮を剥いでやりましょうよ。」
「いいですね!」


ロキさんも乗り気になってきた。
何気にこの人はこういう話の揚げ足を取るのが好きな人だ。


こうして偶然から始まり好奇心から足を突っ込んだこの「占い師」の噂。


これが後に僕たちは大きな流れの渦中に巻き込まれて
未来を変えてしまう要因とになる事にはまだ気づいていなかった。
いや、気づいていればそれが予知なのだろう。


そしてその渦中での出会いは僕の価値観すら大きく変える事になるのだ。

日曜の雨の昼下がり、冬の空気は思いのほか心地よかった。
冬の空気は俺の体と脳を活発にしてくれる。
そんな心地よさの中、名古屋駅の西口にある噴水横のオブジェの台座に座りながら行き交う人を見て居た。
今日はこの場所で待ち合わせをしている。そしてその待ち合わせ時間はとっくに過ぎていた。
しかし待ち合わせの相手はまだ来ない。


それは俺自身に理由があるのだから仕方ないのだけれども。
なぜなら俺は待ち合わせで時間通り行く事がほとんどないからだ。
待たされる事をわかっていて時間通りに来る奴などいない。


大体、俺が遅れてくる20~30分と同じだけ遅れてくる。
だから今日みたいに気紛れなど起こしてはならないのだ。
時間通りにくるとかなり待たされることとなるのだから。
しかしそれは昔、俺が人にしていた事なのだ。
だから文句の一つでも言ってしまえば相手が誰であれ間違いなく10倍の文句が返ってくる。


今日の空気は思いのほか心地よかったのでたまにはこういうのもいいかと思った。
最初は今、座ってるいオブジェの台座から見える、
ビックカメラと道一本挟んですぐ横にあるビルの大型ビジョンを見ていたが、
宣伝がやたら多くて内容もつまらないのですぐに飽きて人間観察を始めた。


白いセーラー服に黒のリボン。
この辺りで3大お嬢さま学校の一つの学校制服に身を包んだ女子高生3人組が歩いていく。
どうしても短いスカートから伸びた若々しく綺麗な足を見てしまう。健康的な脚線美というやつだ。
3人が3人とも違う足なのは当然でそれぞれに魅力がある。
俺が特別に足フェチという事を差し引いても男ならばその行為は仕方ことなのだ。
言い訳はしないが断言する。男とはそういったものである。
そんな感じで自己弁護しながら女子高生鑑賞を楽しんでいると後ろから声をかけられる。


「コラ!奏!また女子高生を視姦してるの?大概にしないとあんたいつかホント警察に捕まるよ…?」


「大きなお世話だょ。見てるくらいじゃ捕まらないって。それに彼女らは見て欲しくて足だしてるんだからいいんだょ。」


俺は相手の顔も一瞥して答えた。声を聞いた時点で誰かはすぐにわかっていたのだけれども。


桜井紗月。


先ほどの女子高生と同じ制服に身を包んでいる。
「別に奏みたいなおっさんに見て欲しくて彼女達のスカートが短い訳ではないと思うケド…?」
分かりきっていた事実を突きつけられると若干、カチンとくるものだ。
「で、そのおっさんな俺と付き合ってる女子高生は誰だよ。」
そう、俺と紗月は付き合っているのだ。
「私はいいの。年齢は関係ないのだから。」
さらっと流す。


紗月は俺をおっさんおっさんというのはある意味正しい。
実際に歳は10離れている。続けて紗月は言う。


「運命なんてあるかどうか分からないょ。
 でもねどんな状況でどんな環境でも月神奏、あなたと出会ってこうやってると思う。」


いつも紗月が言っている事だった。


「そいえば紗月、お前って運命とか占いとかって信じたっけ?」


運命という言葉とこの待ち合わせてるこの駅で思い出した事があった。


「どうだろ?全部を肯定も否定もできないけど。どうした・・・?」


不思議そうに紗月が聞いてきた。
俺は昔聞いた話を紗月に聞かせた・・・。


数年前、名古屋駅にある、どのビルだったか忘れたけれども占い館があった。
占い師の人数もそこそこ多かった、そしてその占い師は皆、的中率が高いとかそういった理由から結構繁盛していた。
リピーターとして足繁く通う人もいたくらいに。
しかしそれもある時を境に終わりを告げる。
的中率の高い占い師の中でも特に的中率の高い占い師がいた。
あるとき彼女が二人の高校生カップルを占う事になる。
そのカップルの依頼は


「私たちの1年後を占ってください。」


というものだった。
彼女は占いを始めたのだが、いつも見えるはずのビジョンが見えない。
一切の闇しか見えなかった。
彼女自身、こんな事は初めてで戸惑いを覚えたらしい。
だから・・・。


「黒い世界しか見えません。私には占えないという事みたいなのでお代は要りません。」


彼女はそう答えた。そのカップルもそんな事あるんだ。程度にしか考えていなかった。
しかしその数週間後、彼らはバイクの二人乗り中に事故を起こし即死。


そう。占えるわけがなかった。
1年後に二人は生きてなかったのだから。
死ぬちょっと前にこの話を彼らは周りにしていた為、この話は瞬く間に広がる事となった。
そうすると、死の占いをされる事を恐れ客足は遠のき自然と占い館は消えていった。


紗月はじっと俺の話を聞いていて何かを考えている。
そしてそっと口を開いた。


「未来って変えれるのかな?変えれないのかな?変えれるのならそういった事も聞きたいよね。
 仮に変えれなかったとしてもそこに行き着く過程が変わるはずだから。だってそうじゃない?
 目的地は同じなのに人によってそこに向かう方法や道はちがうのだから。
 そうすれば自ずと結果は変わるかも知れないわ。」


紗月らしい前向きな考え方だと思った。
だからこそ俺は紗月を好きになったのだ。


「そうだね。確かにそうかもしれない。でね、この話には続きがあるんだ。」


紗月はそっと首をかるくかしげて俺の言葉の続きを待った。


「実はその占い師は土曜の夜だけ流しで今でも占いやってるらしいんだよ。」


紗月の顔に一瞬不安そうな影がよぎる。


「まさか、奏は彼女を探して占ってもらうつもりなの・・・?」


そのつもりだったがなんか紗月の不安そうな顔を見ているとこちらまで不安になってくる。


「正直、迷ってる。ただこの話を聞いたときなにか直感的なモノがあったから。
 それが何かは分からないけれども・・・。」


そうすると覚悟を決めたように紗月が言った。


「わかった。それなら私も一緒に行くよ。」


こうして俺たちは都市伝説化した占い師を探す事となった。
そしてこれが俺たちの運命を大きく変える出会いをもたらす事をこの時の俺たちはまだ何も知らなかった。