雨の日の出来事

これは、私の後輩から聞いた話です。
伸二と言って、タクシードライバーをしていました。今日のような、秋雨の日の夜更けに、最終の駿豆本線からカップルが降りて来ました。
すいませんが、下田までお願いします。
男が、蚊の鳴くような声で言いました。
伸二としては、稼げると思ったから喜んでいました。運転手さん、私達は寝たいから、先にこれだけ取っておいて下さい。
お金を三万寄越しました。お釣りはチップにして下さい。
伸二は、ホクホク顔で車を走らせました。
修善寺から下田までは、約２時間くらいで深夜なら行けます。
お金はもらったから、早く走ろう。
信号の無い裏道を伸二は急ぎました。
浄蓮の滝を過ぎると、まさに滝のような雨でした。
新天城トンネルの手前でトラック同士の事故があり、天城トンネルへ迂回する羽目になりました。
天城トンネルを抜けてしばらくしたら、タイヤがバーストしました。
お客様、大丈夫ですか？
伸二が後ろを見た瞬間、絶句しました。
カップルは、白骨化していました。
運転手さん、ありがとう。そう言ってカップルは消えました。
その場所は、天城山心中の現場に近いところでした。2人が降りた後、タイヤを見たらバーストはしていませんでした。
国道に戻って修善寺に戻りました。
仲間から、お前どこにいたんだよ、心配したぞ。
丸一日居なかった事がわかりました。
あのカップルからもらったお金も、改めてみたら白い紙でした。
新天城トンネルの事故もなかったそうです。
俺は何をしていたんだ。
あのカップルの幽霊は何者だったのでしょうか？
あれから3日後に、伸二は追突されて入院しました。腰を強く打ってしまい、歩行出来ないかもしれないと言われています。