二者択一を迫られる事は、人生では良くある事です。進学、就職、彼女選び、結婚相手など多岐に渡ります。
亨は、進学校から東大を優秀な成績で卒業しました。三年生の2月くらいから、各省庁や民間会社からスカウトが来ました。
父親も東大を卒業して官僚ですから、その道を進んでも悪くないと思っていました。
しかし、亨はもう1つ二者択一を迫られていました。ガールフレンドを1人に絞る事でした。
おしとやかな由美子か、明るいスポーツウーマンの美奈子か悩んでいました。
父親からも、1人にするか両方とも切れと言われていました。
由美子も美奈子も亨の将来性を当て込んで付き合っているつもりでした。
2人共、ライバルがいる事は薄々分かっていました。由美子は、美奈子の存在を突き止めました。
普段はおしとやかなふりをしていましたが、その裏側は、嫉妬深い陰険な女でした。
由美子は、亨に迫りました。
あんな女よりも私の方が美人だし、亨の出世も早いわよ。
私の叔父さんは、財務省の官僚だから、口効きできるわよ。
由美子は、1つ知らない事が有りました。
東大生はプライドが極度に高いのです。
ましてや、命令をされる事を嫌います。
由美子、君は僕のガールフレンドだけど、パートナーにはなれないよ。
僕の人生は僕が決めたい。もう会う事はないだろうな、さようなら。
亨は後ろを見ないで去って行きました。
由美子は、後悔の涙を流しました。
悔しい、もう少しで玉の輿だったのに。
でも、美奈子だけには渡したくない。
その思いだけを強く持っていました。
亨は翌日に、美奈子と会いました。
亨は、悩んでいる事を美奈子に伝えました。
美奈子は、これは亨が決める事よ。
他人の言葉で人生決めたら後悔するわよ。
亨がどんな職業に就いても私は亨に付いていくわよ。分かったよ、美奈子がいかに得難い女性かが。
僕と結婚を前提に付き合ってくれないか?
本気なの亨?
喜んでいいのね?
君しか僕の奥さんはいないよ。
それから一年後、2人は結婚式を挙げました。
風の噂で由美子はその事を知りました。
く、悔しい。
本当なら、亨は私の物だったのに。
その夜から子の刻参りを始めました。
毎夜、白装束に着替えて藁人形に釘を打ち込んでいました。
亨の写真と美奈子の写真が藁人形には貼ってありました。
ある朝、お互いに顔色が悪い事に気付きました。
毎晩、深夜一時頃に胸が刺される激痛が走る事も同じでした。
貴方、私達は呪われているわ。
一度父親に見てもらいましょう。
美奈子の父親は、真言宗の寺の住職でした。
亨が仕事が終わってから美奈子の実家に行きました。美奈子と婿さんじゃないか、どうしたんだ?
美奈子が事情を説明しました。
父親は黙って考え込みました。
2人共、本堂に行こう。
父親は読経を始めました。一心不乱に祈りました。
そして、子の刻になりました。
いつもなら痛くなる胸が何ともない状況です。
翌朝、由美子の死体が古ぼけた神社の奥で見つかりました。
白装束を着て、写真の着いた藁人形を睨み付けて死んでいたそうです。
美奈子の父親が言いました。
呪いは怖いぞ、失敗すると自分の命を落とすからな。その執念を別の事に活かして欲しいですね。
美奈子も、婿さんも、もう大丈夫だから安心して帰りなさい。
今度は、孫が出来たと報告に来ておくれ。
呪いは決して報われません。
相手を呪い殺しても、やり返されます。
人を呪わば穴2つ、相手を落として、1つに入り、残りの1つは己が落ちる。
女の執念は怖くもあり、哀しいものです。