中島らも 『人体模型の夜』
遠くかすかに、
ふつり
ふつり
泡のような呟きが響いてきた。
(プロローグ:地の文)
この引用、何だろう、とてもとても生々しい文章に感じてしまいました。
題名を聞いただけで、一発ノックダウンな怪奇小説でした。
この春ネトミスの新会員となってくだすったMさんの薦めで、即購入したものです。
オススメだけあって、おもしろかった!
そんな 『人体模型の夜』、初めて読んだ中島らもさんの作品だったりします。
- 中島 らも
- 人体模型の夜
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一人の少年が「首屋敷」と呼ばれる薄気味悪い空屋に忍び込み、地下室で見つけた人体模型。その胸元に耳を押し当てて聞いた、幻妖と畏怖の12の物語。18回も引っ越して、盗聴を続ける男が、壁越しに聞いた優しい女の声の正体は(耳飢え)。人面瘡評論家の私に男が怯えながら見せてくれた肉体の秘密(膝)。眼、鼻、腕、脚、胃、乳房、性器。愛しい身体が恐怖の器官に変わりはじめる、ホラー・オムニバス。
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怪奇小説には、ゴシック小説のような古風なものと、都市伝説のようなモダンなものがあるように思える。
中島らもの 『人体模型の夜』 はモダンな怪奇小説だと言えます。
物語の舞台となる館、通称 「首屋敷」。
この名前でKOなわけですが、入口が三階に付いている、外界と隔絶されている、云々・・・
もう何だろう、この好奇心をくすぐる設定は!
そして暗い部屋に置かれた人体模型・・・
人体模型と聞いて、理科室などにあったアレを思い浮かべてはいけません。
「首屋敷」 の人体模型はハンパじゃないです!
詳細は本を読んでのお楽しみですが、この人体模型・・・ いいですなあ。
さて読後感想文
≪読後感想文≫
邪眼
邪眼はシェイクスピア好きが食いつくネタ。フランコ・ゼッフレリ監督好きが食いつくかも。
構成としては短編推理小説のようなもので、ラスト1行が効果的です。
セルフィネの血
楽園のような島国での怪奇話。これもやはりラスト1行が効果的に書かれています。
夢に描いたとおりの楽園、そしてその真実の姿。その違いは・・・
はなびえ
これは純粋な怪奇話。推理小説めいた感は受けるものの、ホラー話です。
耳飢え
一番好きな話だったかもしれません。江戸川乱歩、までは行かずとも、充分な変態性。
怪奇小説と変態性はきってもきれぬ仲なので、怪奇小説としての出来はバッチシ!
健脚行―43号線の怪
小説中、最も爽やかな印象を受けました。
ホラーか?と言われると頷けませんが、怪奇小説であることは確か!
膝
人面瘡の話。これも好きな話でした。奇怪な物語と後味の悪さ、秀逸です。
ピラミッドのヘソ
1991年の文庫ということを踏まえて読むととてもおもしろい。
EIGHT ARMS TO HOLD YOU
ビートルズを巡る謎。ジョン・レノンが作った、というよりも、シド・バレットが作りそうな歌。
でも、何故かジョン・レノンの声が聞こえてきそうな、妙にリアリティのあるものでした。
骨喰う調べ
これも好きです。特にラストの展開はグッと来ます!
ラスト一歩手前の状態が特にグッと来ますが、やっぱりこの終わり方でしょう。
冷血霊園セールスマンの歩む人生が垣間見えます。
貴子の胃袋
怖い怖い。子どもを持つことが少し怖くなるような話です。
乳房
綾辻行人さんの 『時計館~』 を既読の方は、少しだけニヤリとするかもしれません。
ちょっとだけ、ちょっとだけニヤリとしてしまいましたよ。
翼と性器
これは、グロテスクもグロテスク。怪奇小説はやっぱりこうでないと面白くないです!
この話があると無いとでは小説全体の印象も変わっていたことでしょう!
イヤーな気持ちになりつつも、どこかそれを楽しむ自分に気が付きました。
その他にも、プロローグとエピローグがあるのですが・・・
本編よりもそっちの方が気になって気になって仕方無い!
そんな気持ちでラスト10行を読んだとき、思わず 「やられたー」 と思いました。
登場人物全員に見られることですが、皆頭が良い印象を受けます。
小説のどこを切っても「中島らも」といった感じ。
それが良いか悪いかは作家を好きか否かで決まるわけですが、
「中島らも」好きの人は必読でしょう。
そんなわけで、Mさんありがとう。 とても楽しめましたー!
『ガダラの豚』 は三巻本のようで、長さに断念。 仕事が落ち着き次第読みます!