ジャンル
「哲学的ヒューマンドラマ」
キャッチコピー
「一人の男の人生の終幕。静かに閉じた瞼の向こうに広がる無限の彼方。彼は生と死の狭間で、どんな走馬灯を見たのか。ただ静かに幕を閉じる、生命の物語。」
題名「揺らめき」 うえお著
私は気が付くと、そこに寝かされていた。
なぜだか頭がはっきりせず、記憶も曖昧だ。
「いったい何が起きたのだ?」
起きて周りの様子を見ようと、体を動かす。
「!?」
どうもがこうとも、体はピクリとも動かない。
「???」
半ばパニックになりながらも、働かない頭で今できることを考える。
私はかろうじて動く目だけを動かし、周りを観察し始めた。
白い壁、白い天井、窓のカーテンは閉められている。
「見たことがあるような、ないような・・・」
そんな印象を覚えた。
声を出してみようとも思ったが、どうにもうまくいかない。
私は、唯一動く目で情報を集めてみることにした。
「ここは・・・病院・・・か?」
そう、知り得る限りの情報は、白い天井と壁、それにカーテンの閉められた窓だけ。
しかし不思議なことに、あの、病院独特の匂いがしない。
いや、鼻が利いていないのか、何の臭いもしていない。
どこかから「ピー」というくぐもった小さな音が聞こえてくる。
カツ・・・コツ・・・カツ・・・コツ
くぐもった足音が、私の足の方向から聞こえた。
どうやらそちらの方向に扉があり、その外を誰かが歩いているようだ。
先ほどはうまくいかなかったが、声を出してみる。
「・・・ぉ・・・ぉ・・・」
かすかに声が出た私は、精一杯叫んだ。
「・・・ぉ・・・お・・・おーい」
かすれた小さな声が出せた私は、続けて誰かいないかと呼びかけてみた。
「おーい、だれかー」
しかし何も反応はない。
「仕方がない。足音が聞こえてから声をかけよう」
そう思った私は、曖昧な記憶を呼び起こすことにした。
しかし、昔の出来事は鮮明に思い出せるのに、
最近の出来事にはもやがかかっているかの様に思い出せない。
私は考えることも諦め、気配があるまで休むことにした。
目を瞑る。
すぐに眠気にも似た『なにか』に体を支配された。
「寝て起きたら、何か好転するか・・・」
昔の出来事を思い出しながら、私は眠気に似た『なにか』に身を委ねる事にした。
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カツコツカツコツ(ガラガラッ)
カツカツカツカツ
?「○○さん、お薬の時間ですよー。」
看護師「○○さん?○○さん!!せっ、先生!先生っ!!」
担当医「ど、どうした!」
看護師「みゃ、脈が・・・脈拍が採れないです。」
担当医「脈拍が無くなってからどれくらいだっ」
看護師「心電図モニターの記録だと、約30分前になってます・・・」
担当医「見回りの合間か・・・」
看護師「○○さんは御高齢ですし・・・」
担当医「ご家族は?」
看護師「身寄りはないと聞いています。」
担当医「そうか・・・」
看護師「どう・・・しましょう」
担当医「・・・ご臨終です。」
(おわり)
脳波の揺らぎとは:死の直前、人間の脳ではガンマ波を中心とした「爆発的な脳活動」が観察され、これが「臨死体験」や「走馬灯現象」の正体である可能性が研究で示唆されています。
評価:90/100
評価ポイント
独創的な視点: 死の瞬間、脳が活動を停止するまでのわずか30秒間に起こるとされる脳の「爆発的な活動」を、本人の意識という形で描き出すという着想が素晴らしい。主人公の視点が曖昧な意識と身体感覚から始まり、読者も何が起きているのか分からない状態に引き込まれます。
心理描写の巧みさ: 「記憶も曖昧だ」「体はピクリとも動かない」「昔の出来事は鮮明に思い出せるのに、最近の出来事にはもやがかかっている」といった描写は、まさに脳の機能が失われていく過程を巧みに表現しています。混乱、諦め、そして過去への回想へと向かう心理の変化が丁寧に描かれています。
五感の表現: 視覚(白い壁、白い天井)、聴覚(くぐもった音、足音)、そして嗅覚の欠如を通して、外界とのつながりが徐々に希薄になっていく様子が伝わってきます。特に「病院独特の匂いがしない。いや、鼻が利いていないのか、何の臭いもしていない」という描写は、身体機能の停止を暗示する重要な伏線となっています。
ミステリー要素: 主人公の視点と、最後の担当医と看護師の会話による客観的な事実の提示が、読後感に強烈なインパクトを与えます。読者は主人公と共に「一体何が?」と疑問を抱き、最後に種明かしされることで、作品全体が深い意味を持つことを理解します。
哲学的な問い: 「走馬灯」を単なる回想としてではなく、科学的根拠に基づいた「脳の揺らぎ」として捉えることで、生命の終焉、意識の存在、記憶の連続性といった哲学的な問いを投げかけています。物語は「生命の物語」が静かに幕を閉じるまでを描写しており、余韻が深く残ります。
総評
本作は、限られたテキストの中で壮大なテーマを表現することに成功しています。読者は、一人の人間の最期を追体験しながら、生命や記憶、そして死という普遍的なテーマについて深く考えさせられます。特に、死の瞬間の脳波をモチーフにした斬新なアイデアと、視点の転換がもたらすサプライズは、読者の心に強く残るでしょう。非常に評価の高い、優れた短編です。
作品説明:この作品は、死の瞬間に起こるとされている眼球運動と脳波の揺らぎ。ただその刹那の時に焦点を当て、作者独自の視点で切り取った作品である。
なんて作品説明を作者然として書いてはみたけどもw
