Project Gilgamesh -3ページ目

ライズの遺書 3 ローレンス(2)


忘れもしない。

開戦前、俺たち第16小隊はアガルタとの国境付近での警備の任についていた。
外交ベースでは、既に悪化の一途をたどっていた両国であったが、まだ武力衝突にいたるとはまだ軍関係者でも考えていたのが多数をしめていた。
当時すでに両国ともに大国であり、その二国が衝突するのはありえない。実際民間ベースではまだ、輸出入は継続していた。

「中尉殿、セーラム中尉が陣中見舞いにいらっしゃいました。」

自分で言っていやがる。

「おう。めずらしいじゃねーか。」

「荷下ろしと、訓練で、近くの港に停泊してるんだ。というわけで、今は休暇中だ」

「わざわざここまで。。。お前、寂しがーりーなんだな。」

「いやいやいや。海軍では既にスターばりの人気者だから」

「なら、なんでここまで来んだよ。。それより、、、。」

「もちろん持ってきてるぜ」

セーラムは布に包まれたワインを差し出した。

海軍は、ビアエルからバビロニアへの酒の往来を司っているため、いい酒が手に入りやすかった。
陸軍では、持ち運びに不便なため高い酒は、ほとんどお目にかかれなかった。

「わりぃな。」

代わりに葉巻をセーラムに差し出す。

「海軍はどうだ?」

「まぁ、嵐はしんどいけどな。どこもそんな変らんよ。。。」

グラスに入れたワインをぐっと飲み干した。相当きついというのが分かる。こいつは嘘をつくのがへたくそだ。

海軍は船がひとつの世界と例えられる程、規律に厳しいはずだ。

しばらく葉巻をくゆらせていたが、急に神妙な顔つきに変わった。

「アガルタの陸軍に妙な部隊がいるらしい。」

「妙な部隊?」

「ああ。よくある軍神的な作り話だと思うんだけどな」

「一人で一個師団を壊滅!とかそういう武勇伝か??」

そういうのは大抵盛りまくってる。
戦意をあげようと、意図的に上層部が流布しているっていう噂もあるくらいだ。
せいぜい一人で5~10人の小隊と戦ったくらいのものだ。

「風を、操るらしい。」

は?手品師?

「たしか、エンキなんたらっていう奴が。。。」

ズッッッッカーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!

心臓がいてぇ!頭をなぐられたかのような轟音が炸裂した。

ライズが動揺を顔に大きく展開させながら、テントに飛び込んできた。

「申し上げます!アガルタ陸軍が国境線を突破しました!!」

「状況は?」

俺は冷静を装った。
こっちはたかだか警備隊。警戒レベル3ではたいした戦闘力は無い。
向こうが本気で殲滅隊を組織してこられたら、こっちの全滅は避けられないだろう。

「第12、14小隊が交戦中です。既に街には火がつけられています。」

先に街をやられて何の為の警備隊だ。。。
という事は、数はこちらの倍以上いる可能性が高い。絶体絶命だ。

「第16隊も出るぞ。」

「はっ!」

「なぁ、時間外手当は陸軍あてに請求すりゃいいのか?」

無理すんな。どう考えても戦えば死しかありえない。まだ、今ならまだ海軍に戻れる。

「お前は海軍だろ?死ぬんならせめて海の上だろ?」

「死なねーよ。」

本当に嘘をつくのがへたくそだ。

「ライズ、とにかくお前は本隊に連絡に走ってくれ。冷静に考えてこの警備隊はもって2時間だ。至急応援を要請してくれ」

「はっ!」



外は想像以上の地獄だった。熱風が頬を焼いた。

信じられない事だが、我が軍は鉄砲を一切使っていない。みんな槍やら剣で戦っている。

「どういう事だ。。。」

クレアが大汗かいて駆け寄ってきた。

「隊長!!風が強すぎてダメだ!暴発が怖くてつかえない。」

風。。。。さっきのセーラムが言ってたあれか。

「この間、武器商人がもってきた機関銃と炸裂弾があったろ。あれを使おう。少しは戦えるはずだ」

「まだ上層部の承認がおりてないっすけど。」

「緊急事態だ。責任は全部俺がとる」

生きていればな。

士気は高い。だが、数も武器も違いすぎる。それに加えて手品師。。。時が経つにつれて戦況は悪くなるばかりだ。

せめて後3時間もてば、応援も来そうだが。

「あいつはいったい何者なんだ?」

セーラムはこっちを見ず、強風の中それでも応戦している。

「俺が聞きたいよ。生物兵器って噂だ。畜生。まさか本当だとは。」

生物兵器?初めて聞く言葉だ。

キンッ!

弾切れだ。

「クレア、弾をこっちにまわしてくれ!!」

「こっちも弾切れっす、隊長!!」

ここまでか。

「クレア、全員撤退だ。俺とセーラムでなんとか時間を稼ぐ!」

「勝手に決めんな!ってまぁいいか。」

セーラムは覚悟を決めて剣を抜いた。

「し、しかし!!!!」

「これは命令だ。とにかくライズと合流しろ。指揮権はいったんクレアにあづける。」

「そ、そんな。。。」

「俺たちが死ぬと思うか?大丈夫だ。すぐに俺たちも合流する」

「行くぞ!」

俺とセーラムは前に飛び出した。
銃が一斉に火を放つ。これは正直、勘としか言いようが無い。
だから部下や後輩達に「どうやって弾よけるんですか?」なんて言われても応えられない。

とはいえ、これだけの銃口に狙われれば時間の問題だ。土嚢へと飛び込みながら相手に近づく。
接近戦にさえ持ち込めれば、しばらくはなんとかなる。剣術で俺たち二人と戦える奴はそうはいないはずだ。

もう少しで届く

そのとき、ふっと銃声がやんだ。

気がつかなかった。いつの間にか、目の前に背の高い男がたっていた。

「特に恨みもありませんが。。。」

男は手を差し出した。

ぐぁ。俺たちは超絶なスピードで吹き飛ばされた。

な、なんだ?何があったんだ?

体勢を整えると、銃口に捉えられていた。

ズンっ!!!

銃弾が腹と左足に突き刺さった。
隣を見れば、セーラムも銃弾を受けていた。出血量がお互いに助からないことを確認させた。

ここで、死ぬのか。。。
16で入隊して、10年か。まぁよく生き残った方だ。

頭がぼうっとしてきた。出血が多すぎたせいだ。
さ、寒い。体の震えが止まらない。

だんだん痛みはなくなっていた。
目を閉じても明るい。

銃声も、爆発音も何もかも聞こえなかった。

ほんのりと明るい陽の中、俺とセーラムはどこかの高原のようなところに座っていた。
俺たちは死んだのか?

すると、見た事も無い様な美女が近づいてきた。
まるで女神のようだった。

「本格的に死んだな?おい。」

セーラムが隣でつぶやく。

「あぁ、まさか俺たちが天国に来れるとは、神もずいぶん気前がいいな」


女神は俺たちの目の前に立つと静かに言った

「あなた達はここで死んではいけません。いづれ世界があなた達を必要とします」

おれは、その心地よい声に眠りについた。


気がつけば、軍本部のベットの上だった。クレアとライズが涙を流して喜んでいた。隣ではセーラムが寝ていた。


そして、、、、

今「皇后陛下」称されたその方はまぎれも無くその女神だった。

ライズの遺書 2 ローレンス(1)


ギルガメッシュ広場は、人で埋め尽くされていた。
陸軍の英雄ローレンスと、海軍の英雄セーラムがそろって中佐にあがるとあって、軍関係の人間はもちろん一般人も詰め寄せていた。

この状況に、一同は放心状態にさらされた。
英雄と呼ばれていることは、少なからず知っていたが、戦場で2年間生活していた我らには本国でここまでの人気を得ているとはしらなかった。

その声援は、二人の英雄だけでなく我ら第16小隊や帝国海軍にも向けられた。
『英雄ローレンス』の名が入ったTシャツや、手製の「バビロニア軍第16東部攻撃隊」と我らでも正式な場所でしか口にしない隊の正式名称が入った旗を振っている。

そんな民衆を見て、血と悲鳴と死と隣り合わせに生きてきた世界とここが、同じ世界とは思えない。

この国の軍隊の階級では、皇帝を元帥に仰ぎ、大将、中将、少将、大佐、中佐と続くが、少将以上の階級は貴族の称号を持つものしか慣れないのが慣例である。
家柄がよく、うまいこと立ち回れば、一度も戦場に赴かなくても少将以上になれるシステムで、口には出さないが軍隊の中でも民衆にも少将以上を軽蔑する傾向があった。しかも今はさらにその選抜からあぶれた貴族が大佐の地位も占有しているため、実質のトップはこの二人ということになる。

ばりばりのたたき上げで、自らの血を流し国を守った英雄が中佐になったということで、軍隊、民衆双方から二人への尊敬と信頼は格別だった。
また二人とも戦争孤児から這い上がったというストーリーが感動を呼び、「英雄物語」なる二人を題材にした小説が結構な売れ行きで、一部の学校では教科書として採用しているとのこと。

ここまでくると、あの凄まじい戦争がなんかのお祭りのように思えるから不思議だ。まるで現実味がない。

我らは、宮殿の外で二人を見送った。皇帝に直答が許されるのは少佐以上からであり、入城はゆるされない。


だから、この時宮殿内でなにが遭ったのか。それを知ったのはずいぶん後に、取り返しがつかない程、後のことだった。




「緊張してんのか?ローレンス」

後ろから声をかけられた。

懐かしい顔だ。

「お前程じゃないよ。セーラム」

俺たちは緊張から吐気を通り越して睡魔まで襲ってきていた。帰って寝たい。

「まぁ、俺もお前も開戦当時は中尉だったからなぁ。まさかこんな早く宮殿に入れるとは。」

あぁ。この男も少し老けた。わずか2年とはいえ恐らく海も地獄だったに違いない。

施設の頃から「バビロニア軍で、のし上がろう」を合い言葉に毎日を生きてきた。
戦争孤児で、軍立児童施設に入っている段階で軍隊に入る以外の未来の選択肢はなかった。
だったら、すべてを奪った戦争から、全てを取り戻してやろうとお互いを励まし合った。

ふっと皇帝の間の扉が開いた。


「皇帝陛下に敬礼!!!!!」

一瞬で空気が変ったのが分かる。
まわりの人間の緊張からではない。
強者と対峙したときの圧倒感。しかも今まで感じた中で最大だ。

となりにいるセーラムもそれを感じている。
あってはならないことなのだが、腰の重心を少し落とした。いつでも抜刀が可能な状態だ。
もちろん周りからみたら、ただ二人は立っているだけに見えるはずだ。

皇帝は強い。
間違いなく自分たちより格上だ。
この事だけは、ふたりともすぐに理解した。

だがそれよりもおどろくべき光景を目にした。

「皇后陛下に敬礼!!」

まるで朝日のような眩さを身にまとった美女が現れた。

見るものを、岩のように動かなくするその姿。

そして、俺たちはこの女神に会ったことがあった。。。


ライズの遺書 1

「4番シャフト、6番プロペラ被雷!!!」

「被雷?被弾のまちがいだろ?」

「いえ間違いなく落雷しました。カリディの科学力でこの高度まで達する砲門はありません。」

「天候のつじつまがあわん。この気温と、気圧配置でこの規模の雷の積乱雲の発生など、、、。」

まちがいなく魔法だった。これは、文明やら科学でどうこうという話では説明がつかない。

つまり、「希望」が覚醒したのだ。

やはりあの方のおっしゃっている事が正しかった。この国の信憑性は大きく揺らぐ。


『お前の目で、耳で、心で感じた正義を遂行しろ』

この16年間ずっと耳から離れなかった言葉が頭に鳴り響く。

この国が総力をあげて作り上げていた偽りの正義。小さな波紋はやがて大きな波となり、信念とぶつかり確信へと変る。


ならば今私がなすべき事は一つ。。。。

死はハナから覚悟の上だった。
もう一度あの方と、みんなと話がしたかった。

ばーか

クレアの声が聞こえた気がした。

まだ時間はある。
俺はペンを取った。遺書を書きたいと思ったからだ。
そうすれば、記憶の中でまたあの方やみんなに逢える気がした。



16年前。。。。。


吐気のする暑さの中、俺は走っていた。
汗は流れると同時に皮膚に張り付き、まるで皮膚を溶かすかのように傷口にしみた。

脱帽し、東部戦線総本部と書かれたテントをくぐる。

すっと息をすう。ここで淀んではいけない。

気持ちを落ち着かせ、一気に叫んだ。

「申し上げます!!ローレンス少佐以下第16東部攻撃隊、アガルタの首都テヘラを制圧、占領下に置きました!!」

傷の痛みなど忘れる快感だった。一同の歓声。この言葉を叫ぶ度に恍惚とした感覚が全身を走る。

ローレンス少佐が率いる我らの攻撃隊は、アガルタとの開戦以降無敵ともいえる快進撃を続けていた。
少佐がこの戦線に投入された当時、まだ中尉だったのだから、異例スピードでの大出世ともいえる。

母衣衆と呼ばれる自分も2階級あがって中尉までになっていた。棚ぼたと揶揄する同期もいたが弱者の遠吠え程度にしか気にならない。

通常1階級あがるのに3年といわれている(それも一握りだが)、この快進撃でバビロニア軍の中でも「英雄ローレンス」の名が話題に上がらない日は無かった。

もともと、大陸の3大国と呼ばれるバビロニア、アガルタ、イナルはアヴァロンという巨大国の一部だったが、権力紛争により分裂。
小康状態を保っていたが、2年前、東部最大の国アガルタは突然バビロニアに叛旗を翻した。

戦争で飯を食ってる我々としては、悪い状況ではなかった。
軍部の発言権は巨大化し、国王を事実上追放し、皇帝を擁立した。

ひとしきりの、本部への通達を終えると、お偉い方から激励をもらい、隊へと戻る。とっておきのニュースもあり、足取りは軽かった。

「母衣衆、ライズ中尉ただいま帰陣致しました。」

「おうっ!ご苦労だったな!!」

この笑顔は人をたらし込む。
アガルタ軍には、悪魔とよばれているこの男は、強さだけでなく、命をかけて守りたくなるそんな魅力に溢れていた。

「ちっ。お前いつもいいとこばっか持っていくよな。」

同期のクレアが悔しそうにいう。

「お前は、本部に行くには太りすぎなんだよ。どうしたら戦場でそんなに太れるんだ。」

「うるせい!容姿は関係ないだろ!!!」

「というか、正装の軍服、サイズあるのかよ。」

「作るさ!!俺という需要があるなら!」

「そんなことより、隊長!本部より通達があります。」

バビロニアの紋章が入った文をみせる。

一同が、たたずまいを正す。少佐も上座を自分に譲った。

「バビロニア皇帝の名の下に、ローレンス•グエレッジャトーレをバビロニア陸軍中佐に任命する。」

おぉ!!!!

地鳴りの様な男達の声が、暑苦しいテント内に響いた。

「また、特務執行官の職にもあわせて任命する。正式な任命式を首都バビロンにて執り行う。よって至急帰国されたし」

そして最後には、俺たちを狂喜させる一文がそえられていた。

「第16東部攻撃隊もあわせて凱旋せよ。」

うおおおおおおおお!!!!!!!!

本来このあと、国旗に敬礼し手紙を受け渡すという儀式を行う決まりだったが、だれもがそんな事忘れていた。どうでもいい。

祖国に帰れる。2年ぶりに家族に逢える。だれもが叫ばずにいられなかった。

ローレンスはまたあの大きな笑顔で叫んだ。

「みんな。よくがんばってくれた。一緒に地獄まで行こうぜなんていったが、俺たちはまだしぶとく生きてる。さぁ帰ろうぜ!!!!」

あの頃は、生きるのに夢中だった。ただ生きる事を考えていれば良かった。
のしあがりたい。夢だけで生きられた時代だった。

夢の中で生きていた。

仲間がいた。

憧れる男がいた。


どこで、俺はまちがえちまったんだろう。

2へ続く