まずモジュール化製品の自転車とデスクトップPCについて調べることにする。しかしデスクトップPCのシェアと自転車のシェアについてのデータが集まらなかった。さらに自転車産業は国内で主力となる組立メーカーが存在しているが、モジュール化製品の特徴からか決算情報を丸石自転車とツノダ自転車しか調べることができなかった。

データとしては2社しか集めることしかできなかったが、これら2社が日本を代表する自転車組立メーカーならば、この結果が自転車産業の組立メーカーの一般的な営業利益率推移ではないかと考えられる(図5参照)。つまりデータに従えば、定性的にもとめたモジュール化製品の特徴を反映していると考えられる。

次にデスクトップPC市場についてデータを観察する。先ほども述べたようにシェアを確認することはできなかった。その理由としては、パソコン市場というノートPCとデスクトップPCの両方を兼ね備えた市場シェアデータがほとんどだからである。一方でノートPC市場のデータが手に入ったのは、近年注目を浴びている市場だからである。またデスクトップPC市場に参入する企業は同時にノートPC市場に参入している場合が多い。このような状況でデータを調べてみたとしても客観的な指標を得ることはできないと判断した。

ただ、森本博之(2004)によればエレクトロニクス機器におけるモジュール化製品を扱う組立メーカーで高収益を実現した大企業はいまだに存在しないと述べている。したがってデータは示すことはできなかったモジュール化製品ゆえに組立メーカーが利益をあげることが困難であるということは間違いない。

これらのことから、モジュール化製品を扱う組立メーカーの特徴は産業横断的に証明された。よって、モジュール化製品においては製品アーキテクチャという分析視角がより広く普遍的に応用できる、という示唆が得られた。


図 5 自転車産業の営業利益率

製品アーキテクチャ!!

(出所)有価証券報告書より著者が修正した。


さて、次に具体的な製品について市場シェアと営業利益率 を確認する。なぜ市場シェアを観察するのかといえば製品差別化が行われやすいのかどうかを確認するためである。市場シェアとは、競争の指標である(浜田,1996)。したがって、製品差別化が顧客に認識されていれば、その企業の競争力は強くなるので、シェアは高くなると考えられる。特にデジタル機器産業においては価格競争が激しく、各企業の製品の価格にそれほど差が見られないため、製品差別化が顧客に認識されているかどうかはシェアに直結する。また、営業利益率を観察するのはセット・メーカーの利益が上げやすいかどうかということを確認するためである。売上総利益から販管費を引いた金額が営業利益なので、本業の経営活動の成績を表す指標として最も適切である。成績が事業規模に左右されないよう ここでは営業利益額ではなく営業利益率を調査する。


 我々が今回調査する製品は、モジュール化製品としては自転車とメーンフレームコンピューター、統合化製品といわれている製品では、デジタルカメラとノートパソコンと自動車である。なぜ産業をまたがった調査をするかと言えば、製品アーキテクチャという分析視角から定性的に求めたそれぞれの製品の特徴がデータレベルにおいて産業横断的に反映するのかどうかを確認するという目的もあるからである。


 またこれらの製品が統合化製品である、またはモジュール化製品であると判断したのは藤本(2004,132頁)に依存している。

図 4 アーキテクチャの基本タイプ
$製品アーキテクチャ!!


デジタルカメラとノートPCは右図で言うところの軽薄短小型家電である。よってデジタルカメラといっても一眼レフなどは含まずコンパクトデジタルカメラについて取り上げる。またモジュール化製品としてはデスクトップPCと自転車を取り上げる。自転車はシャフトの設計など接続部分の設計に関して業界標準ができている 。


またデスクトップPCは第2章でも論じたように典型的なモジュール製品である。
デジタルカメラ は統合化製品に近い。なぜなら、デジタルカメラの製造については、レンズと受光素子、アルゴリズムの三大要素を、綺麗な絵を写せるカメラに仕上げるために、エンジニアが総合的にまとめて調整することが大事である。まず、レンズはアナログ部品であり、製品の入り口に位置している。受光素子でデジタル・サンプリングしても、再度、情報を完成のレベルで調整し、綺麗な絵をうつせるカメラになるように調整する必要がある。そのため、製品全体として統合化になっているのである(安藤・元橋,2002)。


 また、デスクトップパソコンがモジュール化していく一方で、ノートパソコンはどちらかというと統合化製品である。CD-R/RWドライブや記録型のDVDドライブ、LANポート、モデムポートなどを搭載したものがほとんどで、CPUは主にノート型に開発された小型のものを搭載する。小型化するために部品を調整する必要があるし、省電力化のための直接の部品はなくても、全体として使用電力を抑えるように設計しなければならないからである。自動車は統合化製品である。自動車には、快適な乗り心地を達成するための、直接のサブ・システムが存在するわけではない。自動車の快適な乗り心地とは、複数の機能を持つサブ・システムが、全体として最適になるように微調整をして達成されるものである。
まず第2章で論じてきたセット・メーカーにとってのモジュール化製品と統合化製品の特徴を実際にデータと照らし合わせるために、最終製品統合化と最終製品モジュール化の選定をしなければならない。しかし、製品がモジュール化製品であるか統合化製品であるかという区別は非常に難しい。なぜならはっきりとした境界線がなく、その製品の汎用部品の数や共通化の度合いについての調査が困難であるからである(図2参照)。

製品がモジュール化製品か統合化製品かは断言することができない。最終製品がモジュール化されていても、部品の内部は擦り合わせ設計になっている場合や、逆の場合が考えられる。

ここでは自動車を例に考えてみたい。自動車産業におけるモジュール化にはいくつかの側面がある。まずひとつめの側面は、自動車の部品をこれまでよりも大きな単位でくくり、サブアッセンブリーする動きである。いくつかの部品は、最終ラインで直接車体に取り付けるのではなく、最終ラインの前の段階でモジュールとして組み立てる。つまりこの段階を観察する限りでは、自動車はモジュールよりの製品である。しかし、その部品群を最終ラインで車体に取り付ける段階を観察すると、擦り合わせ寄りの製品である。次にふたつめの側面は、部品群の擦り合わせ化の動きである。モジュール内のアーキテクチャの統合化によって、性能や品質、重量といった点で最適なモジュールになる。

このように、自動車産業でいわれているモジュール化とは、工程や製品システム全体から眺めると複数の独立したモジュールへの分割、つまりモジュール化として捉えることができるが、モジュールとしてまとめられている部品群の内部はむしろ統合化が進んでいるといえる。モジュール化と統合化は背反の関係にある。インターフェースの集約化とルール化はモジュール化であると同時に脱統合化である(藤本・武石・青島,2001)。

しかしながら、上述の例のように、システム全体を観察するとモジュール化と統合化の動きが同時に観察できることもある。製品のあるレベルではモジュール化され、別のレベルでは統合化されることがある。このことについては図3に示すので参照されたい。

○が構成要素で○をつなぐ線の太さが構成要素間の相互依存関係の強さもしくは複雑さを表している。ある製品を統合化するということは図3が示すように構成要素間の相互依存関係を強くすることに等しい。一方モジュール化とは、2つのシステムを内包するモジュールに製品を集約し、相互依存関係を弱くすることに等しい。ここで取り上げたいのはモジュール化と統合化の中間に位置する図である。この図は、ひとつのモジュールの内部では、部品をすり合わせているが、最終的に2つの部品をモジュラー的に組み立てている製品をあらわしている。つまり、製品全体を観察してモジュール化の製品か、統合化の製品か判断することは困難である。


 また、製品の部品についての情報は公開されない場合が多い。アーキテクチャの程度の測定については、測定自体の困難さもさることながら、測定しようと試みることも困難である。そこで、今回の論文で我々はアーキテクチャの程度を実際に測定するのではなく、先験研究や過去の文献から知ることを試みる。


図 2 統合化とモジュール化製品それぞれに位置する製品
$製品アーキテクチャ!!


図 3 製品アーキテクチャの概念図
$製品アーキテクチャ!!

(出所)青島・武石・藤本編(2001),55頁。