今回の相談者は会社員の男性A(24歳)。男性Aは何時も仕事で足を引っ張ってしまっていたものの、そんな男性Aの為に夜遅くまで残り、仕事を手伝ってくれる面倒見のいい上司Bのお蔭で何とかやってこれていた。
しかし、そんなある日、男性Aの度重なるミスの所為で取引先との契約を切られてしまった。
後日、男性Aは上司Bと共に取引先に謝罪しに行く。上司Bは土下座するが、その時、上司Bは男性Aにも土下座するように仕向ける。その甲斐もあってか誠意が伝わり、契約を続行してもらうことが出来た。
だが、土下座させられたことに納得出来ない男性Aは上司Bに詰め寄り、「何故、自分まで土下座をしなければならないのだ。仕事のミスは仕事で取り返す。土下座させることは強要罪だ。」と言い放った。
果たして、このケースで上司が土下座をさせた場合罪になるのか?
北村弁護士の見解:罪にならない
「強要罪っていうのは、単に何々しろって言ったら強要罪になる訳じゃないんですよね。あの暴行または脅迫を用いて人に義務のないことをさせると強要になるんでね。この場合はただ単にちょっと強めの声で言ってるだけですから、これは脅迫を行っていないことは明らかなんですよね。これはまあ素人の方だったら強要罪って言うかもしれませんけど、弁護士だったら絶対ありえない。」
大渕弁護士の見解:罪にならない
「脅迫じゃないというのが一番の原因なんですけど、パワハラ上司ではないですよねこの人は。自分ではなく取引先に対して土下座しろと、しかも自分もしていて、これは仕事上必要なこととしてやってるわけですよね。そういった背景事情を考えてもなおさら強要罪は成立しないというふうに考えます。」
菊地弁護士の見解:罪にならない
「強要罪にはならないですよね。どうゆうのが強要罪の典型かと言いますとね、例えばこの番組なども昔ありましたですね、女性の腰を捕まえて「チリチリドリル!」とかですね、ああいう嫌がってたらですね、あれは強要罪になりうるんですね。このケースはっていうとそこまではいっていない。これはセーフ。」
北村・大渕・菊地弁護士の見解は極めて合理的。上司Bは男性Aに自分に対して土下座しろと言ったのではなく、自分も上司として取引先に謝罪するからお前も自分の取引先での失態については謝罪しろと言っているだけであり、到底強要罪が成立するとは言い難い。これでもし、強要罪が成立するなら仕事にならない。また、この男性Aは何かしらの懲戒処分が下ることも大いに予想される(解雇の可能性も含めて)。
本村弁護士の見解:罪になる
「脅迫して土下座をさせると強要罪が成立します。ポイントは脅迫したかと言えるかどうかです。VTRで上司は土下座をした格好のまま部下を鬼の形相で睨み付け「お前も土下座しろ、早く」と鬼気迫る表情で凄みを効かせて脅している。これは俺の言う事を聞かないとお前に害を加えるぞ、という事を態度で示している。恐怖心を懐かせるには十分です。これは脅迫に当たる、よって強要罪が成立します。」
本村弁護士の見解は全く以て話にならない。本件において男性Aは取引先からの信用を失うほどの大失態を犯したのだから、男性Aは逆に積極的に土下座すべき事案であると考えられる。にも拘らず、自分が仕出かした失態を棚に上げて上司Bから土下座を促されたことに対して逆恨みしている時点で仕事に対する責任感が微塵も感じられないと言われても仕方ない。最悪の場合、解雇も十分有り得る案件であり、男性Aは会社から何かしらの懲戒処分を下されるであろう。自分もこんな部下は持ちたくなければ、こんな部下になりたくないものである。