仕事も慣れてきたある日。男性Aの上司の部長Bから「全員強制参加で新入社員と上司や先輩社員との親睦を深めるための親睦会を兼ねた暑気払いバーベキュー大会を開催する。」と告げられる。男性Aは乗り気ではなかったものの強制参加のため、渋々参加することに。
大会当日。男性Aをはじめとする新入社員達は上司や先輩社員の為に朝から食材の買い出し、炭の火起こし、肉や野菜を焼いては配り、酒を注いだり、後片付けと雑用を強制され、ヘトヘトでバーベキューなど楽しむ余裕など全くなかった。
部長Bから「こんな休日もいいだろう。」と言われるが、男性Aからすればそんなわけはない。そして、男性Aは部長に「これは休日出勤ですよね?」と尋ねるが、「お前達の為に開いたバーベキュー大会なのだから、仕事になるわけがない。」と言われてしまう。しかし、納得のいかない男性Aは「こっちは休みを返上して色々と働いたのだからこれは仕事である。」と主張。
果たして、休日に上司との食事会に参加した場合、労働時間に値し、賃金が発生するのか?
北村弁護士の見解:賃金が発生する
「これは賃金発生します。ある最高裁判断の基準によると、見た目業務とは違うよねってことをやった場合に賃金が発生するかどうかには2つ要件がありまして、1つは参加が強制かどうか、もう1つは業務との関連性がどの程度あるか、という問題です。このケースの場合は、上司が強制参加だと言って、新入社員はみんな渋々来ていますから、これは間違いないと。部下の方は上司の命令で、このバーベキューの間、食材を準備して、片づけをして、雑用係をずっとさせられているんですね。これを労働と呼ばずしてどうするんだって話です。少なくとも、経営者の人が絶対に「強制参加だ」なんて言っちゃダメです。「任意ですよ。来たかったら来てくださいね」と、言わなきゃ絶対ダメです。」
菊地弁護士の見解:賃金が発生する
「労働者は、確実に週に1度なり休日を享受する権利がある。休む権利がある人間に対して、その休日に出てくるのが強制だ、という言葉を上司が自分で使った以上、賃金を請求されたら、それに対してYESと答える義務は上司にはあります。あそこに出なければいけないかどうかを、労働者が上司の顔を見ながら、「どうしようかな」と悩むような負担を労働者に負わせちゃダメなんですよ。」
北村・菊地弁護士の見解は合理的。新入社員が上司や先輩社員との親睦を深めるためと言っておきながら、実際に新入社員がさせられたのは買い出しや準備や後片付けと言った雑用ばかりであり、言うなれば飲食店の給餌と何ら変わらないことをさせられていた。そうなると男性Aも「これは仕事だ。」と言いたくなる気持ちも分かる。ただ、今後を考えるとこの男性Aは恐らく、この会社には居辛くのは必至だろう。一昔前であれば、朝早くに出勤し、もし、上司から飲み会に誘われたら喜んで夜遅くまでお酌するなり付き添うなりして上司とのコミュニケーションを円滑なものにするべきだと言う風潮があった。だが、時代の流れと共にそのような風潮は徐々になくなりつつある。正に「昭和世代」と「平成世代」の人達の価値観の違いが生んだ案件だと言える。
大渕弁護士の見解:賃金は発生しない
「はい。労働時間にあたるかどうかは上司が強制参加と言ったかどうかで決まるわけじゃないんです。実際にその会の目的、内容に照らして業務との関連性がしっかり認められなければそれは認められないということで、今回のケースは完全な親睦目的なんですね。研修目的であるとか、業務に関する意見交換の目的ではなくて内容もバーベキューということですから、業務との関連性がほぼなく、労働時間にあたらないので賃金は発生しない。」
本村弁護士の見解:賃金は発生しない
「はい、同じですね。上司が「全員強制参加だ」と口で言っただけでは強制とは限らないんです。法律上強制と言えるのは、もし欠席した場合、例えばボーナスがカットされたりとか、会社から不利益な扱いを受けるとか。そういう場合が強制なんですよ。今回のバーベキューパーティーというのは、あくまでも職場の有志が自主的に集まった親睦会なんですね。「あー、これ行かないといけないな」という気持ちになるかもしれないですよ。だけど、実際には不参加でも大丈夫なんです。」
大渕・本村弁護士の見解もそれなりに合理的。今回のバーベキュー大会の目的は完全に親睦目的である。しかも、大渕弁護士の指摘通り、業務内容との関連性はない。確かに上司は今回のバーベキュー大会は強制参加と言っていたが、恐らくは欠席しても全く問題なかったと思われる。これは個人的な話だが、自分なら強制参加でも親戚の所に行くとでも休むだろう。これでもし、このバーベキュー大会に減給やボーナスをカットするなどの処分があった場合は明らかに違法なので争う余地は大いにあるだろう。