1994年カンヌ国際映画祭審査員特別賞、主演男優賞受賞作品です。あれから9年が経ってビデオ、DVDでこの作品に出会えました。中国映画。ある富豪一家の崩壊から貧民に落ちた彼らの激動する時代を生き延びて行く家族の物語。
 銀幕⑭で紹介した日本映画「どっこい生きてる」の社会状況に似ている。配給制度があった時代です。子供はひもじい思いをしている。女房、子供を食わすために父親はなんでもやる。この映画の父親は福貴という。女房(家訓)の懇願も聞かず自分の代々の屋敷を賭博で一瞬に失い、ゼロからの出発という、まるでバブルにのめりこんだ計画性のない独占型企業の無数の倒産が投影される。企業が一から出直そうとしたって先立つ銭がゼロでは無理。企業はなくなっても人間は死ぬまで生きていかなくてはならない。離散した家族は国民党と共産党の内戦のなか再会する。福貴は戦場に駆り出されるも、彼を支える「影絵芝居」の技術をもってみんなを喜ばし生きていく。影絵が素晴らしい。どんな世も表現、つまり大きく言えば「芸術」はときに戦争のなかで安らぎを与える「解放」の役目もする筈です。たよりなく見える父親が影絵を演奏し歌う、その叫びにも似た躍動美こそ銭では買えない、人間が人間であるところの感動があります。
 二人の姉と弟が死んでしまう。意味を持って死なせている。チャン・イーモウ監督の見せたい場面だったのかも?弟は父親の戦地で共に地獄を掻い潜った無二の親友(春生)の運転するトラックに轢かれ殺されていた。毛沢東政策で錬鉄運動に疲れて寝入っている息子を母の静止を振り切って父が無理矢理連れていったのが仇となって幼い生命の灯は消えた。姉はお産の時、赤子は取り出せたが血が止まらず、しかも医者は文化革命で反動分子として貧民のなかを引きずり回され何日も飢餓状態で役に立たず、観ているのは紅衛兵という看護学生。助けられる筈の患者を助けられない状況を我々に見せつけながら革命時の匂いを嗅がせてくれたんだろう。労働者階級が指導者につけた文革時、死んだ娘の夫がその労働者階級のため生活には困らないだろう。じいちゃん、ばあちゃん、の世話をよくする孫は今30から40代に成長して何を見つけたのだろう?
一般民衆を描写してくれたことに普遍性を感じ、同時に今の日本人にも通じる素晴らしい映画でした。今一度アジア映画を見直そうと思いました。


         2003年4月1日     マジンガーXYZ