タトゥー業界における国際的なキャリアは、決して一直線ではない。
共通の成功モデルや、誰にでも当てはまるルートが存在するわけでもない。多くの場合、その道は、芸術的思考、長年にわたるプロフェッショナルとしての信頼、そして異なる文化圏で「理解される力」の積み重ねによって形づくられていく。

Roman Zao(ロマン・ザハルチェンコ)の歩みは、まさにその象徴と言える。市場を求めた移動ではなく、専門家コミュニティからの評価によって、自然に国際的な舞台へと広がっていったキャリアである。

東欧で形成された芸術的言語

Roman Zao の表現の基盤は、東欧という文化的文脈の中で育まれた。
この地域では長らく、タトゥーやストリートアートが「技術」「サブカルチャー」「視覚表現」の境界線上に存在してきた。その曖昧な立ち位置こそが、彼に装飾性を超えた構成力や意味性への関心を芽生えさせた。

タトゥーと並行して、彼はグラフィティや都市空間でのアートプロジェクト、さらには中国で開催された国際的な彫刻コンペティション(氷・雪・砂)にも参加している。
この多領域的な経験が、後にタトゥーを「身体に描く芸術」として捉える、独自の視点を形づくることになる。

アメリカ以前の国際的評価

アメリカに拠点を移す以前から、Roman Zao は国外での評価を獲得していた。
国際的なタトゥーフェスティバルでの受賞や入賞、アートプロジェクトへの参加は、彼の名前をローカルな枠組みから押し出す重要な指標となった。

特に評価されたのは「ヒールド・タトゥー(施術後に定着した作品)」のカテゴリーである。
瞬間的なインパクトではなく、時間を経ても保たれる完成度が問われるこの分野での受賞は、プロフェッショナルな信頼を築く上で大きな意味を持つ。

アメリカという文脈への移行

アメリカでの活動は、Roman Zao にとって新たなスタートではなく、すでに確立されたキャリアの延長線上にあった。
競争の激しいアメリカのタトゥーシーンでは、経歴よりも「同業者がどう評価するか」がすべてを決める。

彼は New York Empire State Tattoo ExpoGolden State Tattoo ExpoBoston Tattoo ConventionChicago Rosemont Tattoo Arts Festival など、米国内最大級のイベントに参加し、作品は複数の賞を受賞。
2024年には Best Painting を獲得している。

参加者から審査員へ──国際的信頼の証

Roman Zao の国際的地位を象徴する出来事の一つが、主要タトゥーコンベンションへの審査員招待である。
審査員という立場は名誉職ではなく、業界全体の基準や方向性に影響を与える責任ある役割だ。

2024年から2025年にかけて、彼は Golden State Tattoo ExpoBoston Tattoo ConventionChicago Rosemont Tattoo Arts FestivalNew York Empire State Tattoo Expo にて審査員を務めた。
これは、彼の視点と判断力が国際的に成熟したものとして認められた証と言える。

タトゥー業界を超えた評価

Roman Zao の活動は、タトゥー業界の枠にとどまらない。
彼は ArtStation III International(2022) の受賞者であり、国際的な展示にも参加。さらに、ストリートアートやタトゥーを現代美術として分析する学術論文も発表している。

実践と理論を横断するこの姿勢により、彼は単なるタトゥーアーティストではなく、視覚文化を研究する表現者としても認識されている。

ブランドとプロフェッショナルとしての信頼

Roman Zao は Hustle Butter(米国) および KRASKA の公式 Pro Team メンバーでもある。
これらのブランドとの関係は広告的なものではなく、プロフェッショナルとしての信頼に基づいて築かれている。

また、彼はタトゥースタジオ「Black Octopus(黒いカラカティツァ)」の共同創設者として、視覚的アイデンティティと職業的哲学を構築した。スタジオは現在もその理念を受け継ぎながら活動を続けている。

国際的な歩みとは「立場」の結果である

Roman Zao の歩みは、国際的なキャリアが地理の問題ではなく、アーティストとしての姿勢の結果であることを示している。
東欧からアメリカへという道のりは、個人の実践から専門家としての信頼へ、ローカルな評価からグローバルな対話へと至るプロセスだった。

今日、Roman Zao はタトゥーアートの未来について語る国際的なプロフェッショナル・ダイアログの一員である。
彼の経験は、タトゥーが現代文化の中で他の芸術分野と対等に存在し得ることを示している。
境界線は、彼にとって制約ではなく、成長の起点なのだ。

Roman Zao Official Website:
https://tinyurl.com/3cyrv89y 

Keiko Nakamura
2026年1月16日