智君の背中に回した腕に力を込めて強く抱きしめた。
重ねた唇の隙間から舌先が触れ合って、絡まる。
離れたくない。
ずっとそばにいてほしい。
今の俺がそれを望むのは智君にとって酷なことだとわかっているけれど・・・
我儘だとわかっていても、この腕の中の温もりを失いたくなかった。
ぴったりと身体を寄せてくる智君に押し倒されるようにソファに沈み込む。
唇が離れて智君の甘い吐息が頬を撫でる。
潤んだ瞳が俺をのぞき込む。
「ねえ・・・初めてのキスを覚えてる?」
初めてのキス・・・
微妙な表情になった俺を見て、智君がんふふとおかしそうに笑う。
「もちろん覚えてるよ」
忘れるはずがなかった。
智君との出会いは、高校生の頃に遡る。
同じ中学の先輩に推薦されて入った生徒会、
その生徒会室の眠り姫・・・と呼ばれていたのが智君だった。
その名の通り、生徒会室に置かれていた古い長椅子で昼寝をしている不思議な人だった。
智君自身は生徒会のメンバーではなく、
でもなぜか当然のように生徒会室に出入りしていて
長椅子は智君の定位置。
誰もそのことに触れないし、咎めることもない。
そこにいるのが当然のような扱いで、最初は少し驚いた。
聞けば先輩の親戚らしく、それで生徒会室に出入りしていたらしい。
先輩とは苗字が違うから母方の親戚なんだろう。
なにか事情でもあるのか、先輩は智君との関係について多くは語らなかったし
智君はあまり自分のことを話さないから詳しいことは今もわからない。
眠り姫といわれるだけあって、
生徒会室での智君はいつも眠っていたから、起きている智君に会ったことはなかったし
学年が違うから生徒会室以外での接点もなく、
俺は智君を知っていたけれど、智君は俺のことなんて知らなかったと思う。
いまでも男性としては随分華奢できれいな人だけれど
当時は美少女と言ってもよい容姿で、姫と呼ばれていることにも違和感はなかった。
だからって最初から智君に特別な感情をもっていたわけではない。
俺の恋愛対象は普通に異性だったし、今でも智君以外の同性を恋愛対象としたことはない。
智君のことも、いつも長椅子で昼寝している変わった先輩・・・という程度の認識でしかなかった。