温かなご馳走にケーキにプレゼント、楽しかったクリスマスの記憶が年末の慌ただしさに飲まれていような中…──
子供部屋から、微かな声が漏れ聞こえる。
レオが眉をひそめて扉に触れると、そこには最愛の息子が膝を抱えてうずくまっていた。
「どうした? レノ」
レノの前に片膝を付くと、息子は涙で濡れた顔を上げる。
「……父さん」
父譲りの赤い瞳は更に潤み、同じ銀髪が小さく揺れる。
「サンタクロースは、本当にいるの?」
レオは一瞬だけ目を見開くと、優しく細めて柔らかな髪をくしゃっと撫でた。
「書斎においで。本当のことを教えてあげる」
「で? 突然、どうしてそんなこと言い出したんだい」
書斎の椅子にレノを座らせ、自分は机に浅く腰を掛ける。
「友達が……」
言い淀む息子にレオは全てを察した。
十歳。友達との関係も複雑になり、色々と難しい年齢になる頃だ。
「父さん、本当のことを教えて」
レオを見据える深紅の瞳は真っ直ぐで、その眼差しにレオはゆっくりと頷いた。
「サンタクロースはね、レノ」
自分の言葉に、息子が息を呑むのが伝わってくる。
「いるよ」
「え?」
「いるんだよ」
恐ろしく拍子抜けしたような息子に、レオはにっこりと微笑んだ。
「……だって。誰も見たことないし」
「誰も見たことがないのが、サンタがいない証拠にはならない。じゃあ妖精は? 魔法は? 世の中の不思議なもの全部がないってことはないだろ」
「でも……」
納得してない息子にレオは視線を逸らさずに続けた。
「もしサンタクロースがこの世の中にいなかったら、どうなると思う?」
思いがけない問い掛けに、レノは首を横に振る。
「クリスマスの朝の、あの幸せな気持ちが味わえないばかりか、子供たちは夢を見ることを知らないまま育つかもしれない。子供にとって、夢を見ることって凄く大切なんだ。だから、サンタクロースがいる」
レオの言葉に、レノは小さく頷いていく。
「でも、サンタは誰も見たことがないし、どこにいるのかも分からない。……だからね、大人たちはサンタクロースの手伝いをして子供たちに夢を届けるんだ」
「えっ!?」
「そうやってずっと昔から続いてる、これがサンタクロースの正体」
弾かれたように顔を上げ、父が今何を言ったのかを確認するように見つめてくる。
「騙されたと思った? 嫌な気持ちになったかい?」
レノはゆっくりと首を振るものの、視線はだんだんと落ちていく。
「じゃあ、サンタクロースは、本当にいないんだね……」
「だからいるってば」
レオは小さく笑うと、息子の頭にぽんと大きな手を置いた。
「お前は今までたくさんの夢をサンタに見せてもらってきた。そうだよね? そして、お前の小さな妹は、これからまだまだいっぱい夢を見続けなきゃいけない」
レノが小さく頷く。
「だからレノ、来年は俺と一緒に、夢を届ける手伝いをしてくれないか?」
その言葉に、息子の赤い瞳が大きく開く。
「そう。今度はお前がサンタクロースだ。そうやって、続いていくんだよ」
レノの銀髪を撫でると、瞳からは大粒の涙が零れ落ちていく。
この涙は、本当を知ったからなのか、大切な秘密を共有したからなのか。
本当を知ると、人は泣きたくなるのかもしれない。
何度も頷く息子をそっと抱き寄せると、そのぬくもりに胸の奥が熱くなっていった。
「とは言っても、本当にサンタはいるんだけどね」
「また父さんは」
レオの呟きに、まだ涙が乾き切らないレノの頬に笑みが宿る。
「本当だよ。サンタクロースっていうクリスマスの軌跡は本当にあるんだ」
レオは視線の高さを息子に合わせるように覗き込んだ。
二つの赤い瞳が交わると、レオが小さく微笑んだ。
「だって、お前がモカのお腹にいるって分かったのが、クリスマスの朝だもん」
「えっ」
「これは、サンタからの贈り物だって。あの日、本気で思ったよ」
レオの赤い瞳が僅かに揺れると、レノの頬をまた涙が伝っていった……。
暖炉の炎が小さく爆ぜる。
書斎の扉の向こう側では、モカが小さく鼻をすすった。
その腕の中には愛らしい女の子がおくるみに包まれてスヤスヤと眠っている。
来年には銀髪の、二人のサンタが幸せを届けてくれるのを、心待ちにしながら…──
I wish you a Merry Christmas and a Happy New Year.